自民党内権力闘争は収拾に向かうのかと思わせた菅―安倍会談
フーテン老人世直し録(573)
弥生某日
3月29日午前11時前、菅総理は衆議院議員会館に安倍前総理を訪ね、45分間会談した。終了後、記者団に「先週予算が成立し、来月米国を訪問するので、8年間政権を握った安倍前総理と内政、外交について意見交換をした。非常に有意義だった」と語った。
記者から「衆議院解散・総選挙につて協議したか」と問われたが、答えなかったと新聞は伝えている。これは現下の政治状況を考える上で注目すべきニュースである。まるで菅総理が安倍前総理に教えを請いに行ったかのように見せているからだ。
その前日の日曜日、NHKの「日曜討論」で立憲民主党の安住国対委員長は、「菅内閣に対する内閣不信任案提出を検討する」と語った。記者が菅総理に解散・総選挙を質問したのは、安住発言を受けてのことと思われる。しかし菅総理は何も答えなかった。
その直後に二階幹事長が記者会見し、「野党が不信任案を出してきたら、直ちに解散で立ち向かうべきと菅総理に進言する」と述べた。野党が望むなら与党にも覚悟がある。それを言った時の二階幹事長の目は、最近になく見開かれ、口ぶりにも強さがあった。
するとその夜、立憲民主党の福山幹事長が「この新型コロナウイルスの状況で解散できるならどうぞ、いつでも受けて立つ」と応酬した。まるで突っ張り合いのチキン・ゲームだ。
しかしフーテンの目から見ると「新型コロナウイルスの状況で解散できないだろう」と考えているらしい野党の見方は甘い。そんな甘さで権力奪取ができるのか。権力奪取ができなければ野党を名乗る資格はない。野党を自称するならもっと厳しいものの見方をするべきだ。
立憲民主党は、新型コロナの感染状況がひどくなれば、そんな時に解散・総選挙をする与党に国民の批判が集まると考えている。しかしそれよりも感染状況がひどくなれば東京五輪の開催自体が危うくなる。
万が一東京五輪が中止になれば、その後に選挙をやる方が与党の負けは大きい。それなら東京五輪開催の中止が決まる前に選挙をやる方が得策だ。だが野党が不信任案を提出しないのに解散するとすれば、国民を納得させる大義名分が必要だ。
そして感染状況がひどい時に、それよりも国民が重大と思う争点を作るのは難しい。しかし野党が内閣不信任案を出してくれればありがたい。我々がこれほど頑張っているのに、野党が不信任案を出してきたので解散する、コロナ状況がひどいのに解散を迫って来たのは野党だと言い訳ができる。
コロナ対策を争点にして野党は勝てると思っているのだろうか。立憲民主党は「ゼロ・コロナ」を主張する。最初に聞いた時「コロナは消える」と言ったトランプ大統領を思い出した。どうやら感染対策に力を入れてから経済対策をやるという意味らしいが、それがうまくいくのかフーテンは疑問である。
恐怖を煽るテレビにあまりにも影響され過ぎたのではないか。医者の長尾和宏氏が書いた『コロナ禍の9割は情報災害』(山と渓谷社)にフーテンはまったく同感だ。視聴率欲しさに煽るバカテレビを見て恐怖を感じ「ステイホーム」する人間は、コロナに対する自然免疫力を失い、最もコロナにかかりやすくなる。
だから「ゼロ・コロナ」ではなく「ウィズ・コロナ」で生き抜く知恵を身に着けることが大事だ。しかも目を世界に転ずれば、日本のコロナ対策は世界では優等生の部類に入る。人口比の死者数と経済の落ち込み度を縦軸と横軸にすれば、日本は台湾や韓国には負けても、欧米諸国やニュージーランドよりずっと成績は良い。
いや菅政権はスキャンダルまみれだから、選挙でそこを攻めると野党は考えているかもしれない。しかし菅政権のスキャンダルの噴出は自民党内の権力闘争が背景にある。前から書いてきたが、菅政権を短命で終わらせるための「地雷原」だ。
だから29日に菅総理が教えを請うように安倍前総理の部屋を訪れたことに意味がある。「地雷原」を敷設した前総理と会って45分間も会談したのだから、想像だが選挙の話をしたとフーテンは思う。
前回のブログで森喜朗氏の興味深いインタビューを書いた。ポイントは安倍前総理が森氏の東京五輪組織委会長就任要請を断った理由である。総選挙で派閥議員の応援をするために会長にはなれないと断ったという。それが本当なら安倍前総理は7月末に開かれる東京五輪より前に解散・総選挙が行われると考えている。
安倍前総理に近い下村政調会長らが「4月解散」を言い出しているのも、安倍前総理のシナリオを意識したものだろう。つまり総理就任後に菅―二階連合が描いたシナリオに代わって、安倍前総理の側のシナリオが陽の目を見てきたということだ。
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