電波利権の闇を照らすか東北新社と総務省の奇々怪々
フーテン老人世直し録(571)
弥生某日
電波利権を巡る「政」と「官」と「業」の癒着こそ、日本最大の利権構造だとフーテンは思っている。だが癒着の中心に新聞社とテレビ局があるため、自らの不利益を報道しないメディアのせいで、国民は実態を知ることができない。ところが菅政権が誕生したことで、その一端に光が当たろうとしている。
かつて総理になる政治家は、財務、外務、経産の3大臣を経験することが必須だと言われた。財政と外交と経済の3本柱が国家経営の要(かなめ)であり、この3つの役所のどれかを経験しないと日本国家の進むべき道を示すことはできないと考えられた。
しかし近年では必ずしもそれは当てはまらない。小泉純一郎は厚生大臣と郵政大臣を経験しただけで総理になった。安倍晋三は閣僚経験のないまま官房長官となり、そこから総理になった。そして菅総理は総務大臣と官房長官を経験しただけだ。
大臣を経験すれば、役所内に人脈が築かれ、役所を辞めた後でも何くれとなく面倒を見てくれる。菅総理は官房長官時代に内閣人事局を通じて霞が関全体に睨みを効かせ、官僚をコントロールしたと言われるが、その原点は総務大臣として総務省の人事を握ったことから始まる。
菅総理にとって総務省は権力の階段を登る出発点であり、権力の源に当たると言っても良い。しかもその経緯を見れば、郵政選挙に勝利した小泉総理が、郵政改革の次に手を付けようとしたNHK改革のため、竹中平蔵を総務大臣に起用した時、その下の総務副大臣に就任したことから始まる。
総務省は旧郵政省と旧自治省が一緒になってできた役所だが、菅総理の関心は初めから旧郵政省が担う通信・放送の分野にあり、NHK改革に抵抗する役人を排除するなどして総務省内を押さえ込んだ。
かつて旧郵政省を完全にコントロールした政治家には田中角栄がいる。田中は電波利権をわがものにして放送界を牛耳ったが、しかしその後大蔵(現財務)大臣や通産(現経産)大臣も経験してから総理に上り詰めた。
田中の敵対勢力は、田中の「急所」を過去の「金脈」にあるとみてそれを暴き、田中を「金権政治家」のイメージにして総理の座から追放した。しかし田中の電波利権が暴かれることはなかった。
一方の菅総理は、旧郵政人脈を掌握すると同時に、自分の息子を総務大臣秘書官に登用し、その後に同郷の後援者が経営する放送事業会社「東北新社」に押し込んだのだから、それを知る者から見れば、そこに菅総理の「急所」はある。東北新社と総務省の関係を突けば必ずボロが出ると考えても不思議でない。
菅政権を短命で終わらせようと思う勢力は必ずその「急所」を狙う。総務省接待問題が「週刊文春」に報じられた時、フーテンが思ったのはそういうことだ。そしてこれを機にこれまで国民に知らされてこなかった電波利権に光が当たることを期待した。
国会での野党の追及を見ると、一つは東北新社の接待によって総務省が放送行政を歪めた疑惑がある。この問題は主に共産党が追及している。また接待とは関係ないが、立憲民主党の小西洋之参議院議員が口火を切った外資規制の問題がある。この問題では東北新社と総務省の主張が対立し、どちらかが国会で嘘をついている。奇々怪々な展開だ。
さらに問題はNTTの接待にまで広がった。菅総理の右腕と言われ、携帯電話料金値下げのキーパーソンで、次の事務次官間違いなしと思われていた谷脇審議官が辞職に追い込まれた。これがさらにNTTの澤田社長に及ぶと、中国に5Gで覇権を握られた現状を6Gで巻き返そうとする日本の国家戦略にも影響する。
そして日本維新の会の足立康史衆議院議員は「NHKの接待問題にも光を当てろ」と言い始めた。国民が払わされている受信料を使って接待するのなら、その実態を白日の下に晒さなければおかしいという主張で、もっともな話である。
これに対し武田総務大臣は、検事出身の弁護士も入れた第三者機関で徹底して調査すると逃げを打った。しかし検事出身を入れた機関というと聞こえは良いが、それが本当に都合の悪いことまで調査するかどうかは分からない。時間をかけてほとぼりを冷まし、問題の本質には立ち至らないというのが、関西電力の不祥事などで我々が見せられてきた現実だ。
その意味で第三者機関の調査に頼らず、国会がこの疑惑を解明する努力を見せるべきだ。そのためには問題を国民に広く知らせ、国民と共に考えることをやるべきである。それが通信と放送の世界で世界の流れから日本が取り残されない道だと思う。そこで問題の一つ一つを点検してみる。
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