サバ缶に続け 牡蠣みそ缶などの開発に取り組む缶詰プロデューサーが語る魚缶の魅力
魚の缶詰が人気だ。2018年9月4日付のみなと新聞には、「サバブームに続きイワシ?缶詰市場規模が7割急増」と題した記事で、イワシ缶詰市場が対前年比で65%増(4〜7月)と大幅に伸びたことが紹介されている。
「牡蠣みそ」缶が話題の缶詰プロデューサー
そんな魚介類の缶詰を開発し、注目を浴びている「缶詰プロデューサー」がいる。京都市の錦市場からすぐの缶詰工場「カンナチュール」を経営する、食品開発コンサルティング会社「カンブライト」(京都市中京区)の井上和馬(かずま)社長だ。
2017年11月23日「牡蠣の日」に発売した「牡蠣みそ」缶は、井上さんが、広島県福山市のマルト水産と共同開発した。牡蠣みそは、マルト水産が内閣総理大臣賞を受賞した「球せいろ」をペーストにしたものだそうだ(2018年9月4日付みんなの缶詰新聞、および井上さん談)。お披露目のイベントでは招待したソムリエから「ワインに合う」と高い評価を得たという(同新聞)。
「おいしい魚が(缶詰加工で)もっとおいしくなる」
2017年に、井上さんを取材して記事で紹介した。2018年、改めて井上さんを訪問した。
前にも増して、魚介類の缶詰加工に注力しているように見受けられたので、その背景をたずねてみた。
井上さんによれば、漁港で、流通に回らない魚がたくさん廃棄されているという。
井上さんは、そのような、流通に乗らないで廃棄されている魚を缶詰に加工するサポートをしていきたいと語っている。
サバ缶は、ここ最近、人気のあまり、ツナ缶の消費量を抜いたそうだ。
実は増加する単身世帯にも人気?魚の缶詰
タモリさんがサバ缶ブームの火付け役だと聞いたが、井上さんによれば、マツコデラックスさんの番組でも特集されたそうだ。井上さんは、家飲みが増えてきているのも缶詰人気の背景にあるのではと語る。
筆者の感覚では、増加する単身世帯でも魚缶は便利に食べられているのでは・・・と思っている。筆者の母親も、一人暮らしになってからは、サバやイワシなどの青魚の缶詰をよく食べている。大学生になったばかりの甥っ子は、一人暮らしのアパートにIHの調理システムがあるものの、IH用の調理器具を持っておらず、生の魚を一度も買ったことがないそうだ。もっぱら活用しているのが魚の缶詰だという。
調査のn数(対象者数)が少な過ぎて客観的とは言えないが、魚介類の値上がり、家庭での調理の面倒さを疎む傾向、単身世帯の増加などは、テレビの特集に加えて、魚の缶詰の人気を裏で支えているのではと感じている。
未利用魚は日本の食品ロスとしてはカウントされていない
井上さんが語るように、海で獲れた魚の多くは、規格外やメジャーではないなどの理由で、廃棄されている。しかもそれらは日本の食品ロスの統計値としてはカウントされていない。
そのような「未利用魚」を活用する、東京・丸の内の魚治(うおはる)のような居酒屋や、寿司店も出てきている。だが、飲食店の主流ではない。未利用魚を扱うとなると、何が出てくるか当日にならないとわからないため、調理する側の力量が高くないと太刀打ちできないからだ。
海の宝が捨てられている
その反面で、海洋資源が枯渇している。海のプラスティックごみが増え、このままいくと、魚の量よりごみの方が多くなると推察されている。5mm以下のマイクロプラスティックは、有害物質を吸着しやすい。そのマイクロプラスティックを魚介類が食べ、魚介類を、われわれ人間が食べる。
今、環境問題に関心の薄い人でも、海洋資源の枯渇や、海に捨てられるプラスティックごみについては、インターネットの情報が多くなってきているので、話題にあげることが多くなっている。
「缶詰は作ってから日が経った方が味がしみておいしい」
缶詰は、全般的に3年間の賞味期間がある。中が真空になっているので、理論的には半永久的に持つが、缶詰の缶そのものの品質の保持期限3年間が、イコール、賞味期間となっている。
多くの人は、スーパーやコンビニで買い物する時、消費期限や賞味期限の新しいものを棚の奥から取ろうとする。「同じ値段なら新しいものを買う方が得でしょ」と。
だが、こと缶詰に関しては、そうではない。作ったばかりのものは味がしみていない。少なくとも半年以上経ったものの方が、味がしみていておいしい。缶詰工場の社員たちは、わざと賞味期限ギリギリのものを選んで食べるという話も聞いている。
私事だが、筆者は、青年海外協力隊でフィリピンに滞在していた時、魚といえば、主に魚の缶詰を食べていた。当時はまだ主流ではなかったが、今になって、サバ缶やイワシ缶が注目を浴びてトレンドになっているのを見ると、時代は変わるものだなあと思う。
海洋資源が枯渇している中、3年間の賞味期間がある魚の缶詰は有用だ。井上さんが語るように、おいしい魚が、さらにおいしくなる可能性を秘めている。規格外などの未利用魚も、捨てずに活かされる道が開ける。缶詰のプロフェッショナルにとって、魚の缶詰開発は、やり甲斐が大きいだろう。
缶詰プロデューサー、井上和馬さんの率いるカンブライトは、百貨店の催事でも引っ張りだこで、9月28日からは香港でのイベントにも出店するという。引き続き、活躍を見守っていきたい。
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