2022年に反響が大きかった10の事件、その後どうなった?
2022年に配信した拙稿のうち、反響が大きかった10の事件を挙げ、この1年の動きやその後の状況について振り返ってみました。
【第1位】
「『安倍元首相に不満があり、殺そうと思って狙った』 銃撃事件、捜査の焦点は?」
拙稿で最も読まれたのは、安倍晋三元首相に対する銃撃事件の記事でした。事件の背景として旧統一教会を巡る様々な問題が取り沙汰され、悪質献金の被害者救済に向けた新規立法にまで発展しました。
一方、殺人の容疑で逮捕された男ですが、極刑の求刑も考えられる事案であり、責任能力の有無や程度を慎重に見極めるため、精神鑑定が行われてきました。検察は完全責任能力があったと判断し、銃刀法違反などの余罪と併せ、来年1月には起訴する方針です。検察が裁判の中で動機や経緯、計画状況などについてどこまで明らかにし、男が何を語るのか、今後の推移が注目されます。
【第2位】
「『税金を納める場合には無制限に貨幣を使えます』って本当? 法的根拠を解説」
1月からゆうちょ銀行が硬貨の取扱手数料を徴収するようになったことを受け、家庭などで溜め込んでいる1年玉や5円玉、10円玉などの使い道が問題となりました。一度の買い物でそれぞれ20枚までしか使えない決まりだからです。
スーパーのセルフレジに何枚も投入し、エラーを生じさせるケースが相次いだほか、お賽銭で大量の小銭を抱える大阪の神社が釣り銭用の小銭を欲する地元商店と連携し、手数料なしで紙幣と交換する取り組みを始めたことも話題に上りました。
【第3位】
「共通テスト問題が試験中に流出か、捜査の焦点は? 解答した大学生どうなる」
1月に実施された大学入学共通テストの試験時間中、仮面浪人だった大学1年の女子学生が試験問題をスマホで動画撮影し、協力者である28歳の男を中継役として外部に流出させた事件もありました。警察は2月に2人を偽計業務妨害罪で書類送検しています。
男は略式起訴され、4月に罰金50万円の略式命令を受けました。一方、19歳の女子学生は少年法に基づいて家裁送致され、9月に保護観察処分となっています。大学入試センターは不正対策をさらに強化する方針です。
【第4位】
「横浜地裁に放置駐車してレッカー移動された車が話題 私有地だとどうなる?」
横浜地裁の庁舎出入口前に放置駐車された車の件ですが、ツイッターなどではその動機について「私有地に放置駐車している車を移動させたいと訴えた男性が他人の財産を勝手に動かしてはならないという判決を受けて負けたので、だったら自分の車も勝手に動かせないだろうと抗議行動に出た」といった話が拡散されました。
しかし、その点については信頼できる情報源がなく、むしろ車の張り紙の記載は「裏金汚職と買収」「文書偽造」「虚偽告訴の嘘つき」「面会録音の偽造」など放置自動車を巡る裁判と関係があるのか疑わしい内容でした。結局、この車は裁判所が約3万2千円の費用を負担し、レッカー会社によってレッカー移動されています。
【第5位】
「『最終的には船長判断』『逮捕はないですね』発言も 観光船沈没、捜査の焦点は」
4月に知床半島沖で発生した観光船沈没事故は、海底から船体を引き揚げ、損傷状況を分析するなど、事故原因の特定に向けた捜査が進められています。この運航会社は安全管理規程を遵守していなかったことから、海上運送法違反で立件できるものの、最高でも100万円の罰金にすぎません。
そこで、社長を最高刑が懲役5年の業務上過失致死罪に問えないかが問題となるわけですが、事故の直接的な原因を踏まえてそれに直結する過失を見極め、次に運航判断そのものの是非を検討する必要があります。来年春にも海上保安本部がこの罪で社長を立件する方針だと報じられていますが、検察が刑事処分を決するにはなお時間を要するし、肝心の船長と甲板員が死亡しており、たとえ起訴しても、裁判で有罪を立証するには難航を極めることが予想されます。
【第6位】
「きょうからネット中傷の犯人特定が迅速に 発信者情報の開示手続、留意点は?」
「きょうから侮辱罪を厳罰化、懲役刑も選択可能に ネット中傷の捜査への影響は?」
7月に改正刑法が施行され、侮辱罪に懲役刑が加わり、厳罰化されたことで、逮捕のハードルが格段に下がるとともに、時効も1年から3年に延びました。また、10月の改正プロバイダ責任制限法施行により、発信者情報の開示手続が簡略化され、被害者によるネット中傷の犯人特定がこれまでよりも迅速に行われることになりました。
立件例を積み重ねることで、なぜ心ない誹謗中傷に及んだのか、単なる荒らし屋かストレスからの腹いせかなど、動機や原因を分析できるとともに、再発防止につなげることも可能となるでしょう。
【第7位】
「『水曜日のダウンタウン』シートベルト外して選挙カー箱乗りでもOK 本当か?」
TBS「水曜日のダウンタウン」でシートベルトを外し、選挙カーの助手席から身体を乗り出し、箱乗りしたり、窓枠に立って手を振る国会議員の姿が放映され、話題に上りました。
確かに、候補者や選挙運動員は、選挙運動のために選挙カーを運転したり同乗したりする際、特例により、シートベルトを装着しなくても構わないことになっています。しかし、上半身全てを窓から乗り出し、窓枠に腰掛けるような箱乗りは道交法違反ですし、助手席の窓枠に立つといった危険な乗り方など論外です。
【第8位】
「『罪の成立について争う』 4630万円の誤振込事件で無罪主張、その理由は?」
検察側は懲役4年6か月を求刑しており、「実刑相当」と考えています。一方、弁護側は誤入金でも民事的には預金債権は男性に帰属していたし、振込手続の際に入力した暗証番号などは男性のもので、銀行のコンピュータに「虚偽の情報」を与えたとはいえないから、電子計算機使用詐欺罪は成立しないと主張しています。
法曹実務家や刑法学者の間では無罪説も有力であり、来年2月の判決で裁判所が有罪・無罪に関していかなる理論構成に基づいてどう判断するのか、有罪だとしても損害分の回収を経て和解まで成立している点や町に落ち度があった点をどの程度まで考慮し、情状酌量の上で執行猶予を付けるのか否かが注目されます。
【第9位】
「業界最大手の渋谷・人気風俗店『スッキリ』を摘発 なぜ男性客まで逮捕された?」
グループ全体で年間数十億円を売り上げるなど、ピンサロ業界最大手とされる東京・渋谷の人気風俗店が警視庁に摘発された件も、業界関係者に衝撃を与えました。この事件では、経営者や店長、女性店員らだけでなく、男性客までもが逮捕されています。
ほとんどのピンサロは、キャバクラやホストクラブなどと同様の「接待飲食営業店」としての営業許可しか得ていないのに、男性客に性的サービスを提供しています。警察はそうしたピンサロを「グレーゾーン」ではなく「完全な黒」と認定した上で、公然わいせつ罪や風営法違反で積極的に立件していく方針です。
【第10位】
「1枚5千円→10万円も プロ野球ファン感チケットの『転売ヤー』、その罪と罰」
施行から3年となったチケット不正転売禁止法。有観客イベントの中止や延期が相次いだ時期こそ鳴りを潜めていたチケットの不正転売ですが、再び横行しており、アイドルグループのコンサートチケットなどを高額で転売した「転売ヤー」らが相次いで検挙されています。
ただ、この法律は穴の多い「ザル法」です。26年ぶりの日本一を果たしたオリックス・バファローズのファン感謝イベントも、ステージ前の5千円の抽選チケットが10万円で転売されていると話題でしたが、選手とファンのふれあいに重点が置かれた催しであり、この法律の対象となる「スポーツの興行」と言えるか微妙な面もあります。本人確認の徹底といった主催者側の転売対策も重要となるでしょう。