「税金を納める場合には無制限に貨幣を使えます」って本当? 法的根拠を解説
ゆうちょ銀行が硬貨の取扱手数料を徴収するようになったことを受け、「税金を納める場合には無制限に貨幣を使えます」という日本銀行新潟支店のコラムがSNS上で拡散されている。問題はその法的根拠だ。
古い「通達」がある
すなわち、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」では、「貨幣は、額面価格の20倍までを限り、法貨として通用する」と規定されている。500円、100円、50円、10円、5円、1円硬貨は、一度の取引でそれぞれ20枚までしか使えない決まりだ。
大量の硬貨は計算や保管に手間がかかるからであり、受け取る側が了解するのであれば構わないが、同意できなければ受け取りを拒否できる。しかも、この法律には「納税の際はこの限りでない」といった例外規定も設けられていない。
しかし、この枚数制限はあくまで民間の取引に限られ、納税など「公納」の場合には適用されないというのが財務省の見解だと思われる。1937年に当時の大蔵省理財局長が発出した「補助貨ヲ無制限ニ公納受領ノ件」という通達がその根拠だ。
すなわち、この通達は現行法の前身となる「貨幣法」に存在していた銀貨幣(50銭、20銭、10銭)、白銅貨幣(5銭)、青銅貨幣(1銭、5厘)の通用制限に関し、公的な解釈に基づいて注意喚起を行っている。
これによると、銀貨幣は合計10圓まで、白銅貨幣と青銅貨幣は1圓までといった規定は民間取引上の通用制限を定めたものにすぎないから、租税その他の「公納」に際して小額の貨幣が使用されたとしても、無制限で受領すべきだという。
この通達やそこで示された見解はいまでも有効だし、旧貨幣法から現行法に移行しても通用制限の趣旨には変わりがないから、財務省はこれに沿った事務を行うことになる。現に国税庁は、税務署の窓口で所得税などを現金納付する際、使用する硬貨の枚数を制限していない。地方自治体に対する法的拘束力はないが、この通達の趣旨に沿い、地方税などについて同様の取り扱いをしている市区町村なども多い。
受け取り拒否が問題になった例も
2008年には、福岡の税務署で400枚の500円硬貨を使って滞納消費税などの一部を納めようとした市民に対し、硬貨を数える機械があったにもかかわらず、担当の税務署員が「間違ったらいけない」「それくらい払っても仕方がない」などと受け取りを拒否し、徴収課の幹部ともども謝罪に追い込まれる事態となっている。
ただし、この通達は収納代行をしている民間の銀行やコンビニエンスストアまで拘束するものではない。税務署の窓口ではなく、銀行で大量の硬貨を使って納税しようとしたら、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に基づいて受け取りを拒否されたり、所定の硬貨取扱手数料を徴収されるかもしれない。
このように、税務署の窓口で硬貨を使って納税すること自体は適法であり、日本銀行新潟支店のコラムで触れられている話は本当だ。それでも、あまりに大量だと確認のための待ち時間がそれだけ長くなるし、事務も停滞して迷惑となる。
全国的に頻発するようであれば、財務省が先ほどの通達を廃止し、枚数制限をかける事態に発展するかもしれない。(了)