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スナックで無銭飲食に及んで逮捕、1年半の拘束も無罪に…その訳と驚きの結末

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 松山市内のスナックで2万5千円分の無銭飲食に及んだとして詐欺罪に問われた59歳の男性に対し、松山地裁が無罪を言い渡した。判決は先月21日であり、検察の控訴断念ですでに確定している。男性は昨年5月の逮捕後、1年半にわたって身柄を拘束されていたという。

どのような事件だった?

 事件の経緯だが、報道によれば、男性は事件当日、別の無銭飲食事件による服役を終え、出所したばかりだった。その後、出所時の所持金約9万円を使って4店で飲み歩き、午後10時半頃に今回のスナックに入店した。その段階では残金が約5200円になっていた。

 この店のセット料金は5千円だったが、男性は別料金となっているブランデーのボトルを入れるなどして飲み食いした結果、代金2万5千円を支払えなかった。

 男性は店の経営者に対し、あす親族に金を送ってもらうなどと述べたが、警察に通報され、現行犯逮捕された。

無罪の訳は?

 検察は男性を詐欺罪で起訴し、無銭飲食の常習犯だとして懲役3年10か月を求刑した。一方、弁護側は代金を支払うつもりだったなどとして無罪を主張した。

 裁判所が弁護側に軍配を上げ、無罪の結論を導いた理由は、次のような理屈に基づく。

・セット料金は入店時の所持金の範囲内だった。

・ブランデーの追加注文は酔いによる注意力や判断能力の低下により支払えると勘違いしたからではないか。

・この疑いを払拭するには、所持金を認識できないほど泥酔していたわけではなかったことを裏付ける客観的な証拠が必要だが、警察は男性の飲酒検知すらしていない。

・はしご酒をした4店の店員らの証言や逮捕時の男性の状況からすると、むしろ酒量は少なくなかったとうかがえる。

・親族に金を送ってもらうという話も、これから送金を依頼するという趣旨であり、人を欺く発言にはあたらない。

驚きの結末

 こうして裁判所は、代金を支払う意思がなかったとか、支払う能力がないと認識していたとみるには合理的疑いが残るとして、詐欺の故意を否定し、無罪とした。

 この事件の結末だが、驚いたことに、男性は早くも無罪判決による釈放の翌日、松山市内の飲食店で無銭飲食に及んだとして、詐欺の容疑で現行犯逮捕されたという。

 なお、無罪が確定した事件について男性が請求すれば、1年半に及んだ拘束日数に対して1日あたり最高1万2500円を掛けた金額が刑事補償金として男性に支払われることになる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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