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透明性を掲げながら森院政に向かう東京五輪組織委会長人事の茶番

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(565)

如月某日

 権力者が後継を指名する時は、自分の旧悪を暴露されないようにする目的が隠されている。それを中曽根元総理は「禅譲」という言葉を使い、中国古来の善き慣習かのように思わせて目くらましにした。

 メディアはそれに騙され、それが民主主義に沿わない権力移行のやり方であることを批判せずに、誰に「禅譲」されるのかだけの取材に奔走した。フーテンが現役政治記者であった頃の苦い思い出である。

 それを30数年ぶりに復活させようとしたのが安倍前総理だ。岸田文雄氏への「禅譲」をメディアに報道させた。その背景には自らの悪事を隠蔽する目的が隠されている。もしもコロナ禍が到来しなければ、安倍前総理の思惑は成就した可能性がある。

 予定通り東京五輪は2020年夏に開催され、招致に成功した総理が開催の時も総理として表舞台に立てば、世界中から脚光を浴びて時の人となる。そこで劇的な退陣を演出し岸田氏に「禅譲」すれば、惜しまれつつ去る安倍前総理の権力はキングメーカーとしてさらに強固なものとなった。

 狙いは国民からハト派と見られる岸田氏に憲法改正の露払いをさせることだ。憲法改正の国民投票を一度経験させた後、安倍前総理は再び総理に返り咲く。そして自らの手で念願の9条改正に取り組み、自らの政治人生を全うするのである。

 中曽根元総理の「禅譲」は見事にその目的を果たした。ロッキード事件とリクルート事件で逮捕される可能性があった中曽根氏を、「禅譲」された竹下登氏は護り通し、中曽根氏は「大勲位」という最高位の勲章を授けられて、名声を欲しいままにした。

 一方の安倍前総理はコロナ禍に敗れた。東京五輪が延期されて「禅譲」のシナリオは崩れ、そこでスキャンダル隠蔽のため無理な検察庁法改正に手を付け、黒川東京高検検事長を検事総長に据えようとして、それが国民から猛反発された。

 コロナ対策でも支持率を落とし、病気を理由に一時避難の道を選ぶ。「禅譲」先を菅官房長官に変えたが、岸田氏と違い菅氏は安倍前総理の意のままにならない。「桜を見る会」の疑惑が東京地検特捜部によって立件され、再登板の可能性は遠のいた。

 安倍前総理が「政治の師」と仰ぐ森喜朗氏は、自らの「女性蔑視発言」で東京五輪組織委会長の座をふいにした。しかし森氏は当初は辞める気などさらさらなく、また誰も自分を辞めさせられる人間などいないと考えていた。

 政治基盤の弱い菅総理も静観の構えだったが、森辞任を促したのは「ガイアツ」である。五輪憲章の精神を踏みにじる発言に海外から厳しい声が上がった。放映権を持つ米国のNBCテレビが「森氏は去るべき」との主張を掲載し、IOCも「森発言は完全に不適切」との声明を出し、辞任は避けられない見通しとなった。

 すると森氏はやはり「禅譲」を考えた。辞任を各方面に連絡する際に川淵三郎氏を後任にすることで了承を得ようとした。そこで初めて菅総理が異を唱える。「若い人か女性が良い」と言ったようだ。しかし森氏は菅総理の異論などまったく耳を貸さない。

 根回しは終わったと考え、川淵氏を呼んで説得した。浪花節丸出しの泣き落としだったようだ。川淵氏はその一部始終をその日のうちにメディアに語り、川淵東京五輪組織委会長は既定路線となった。それを覆したのは菅総理である。

 加藤官房長官を使って事務局に川淵案撤回を認めさせた。その時のキーワードが「透明性」である。森氏のやり方は「密室人事」そのもので透明性に欠ける。森氏は「密室の談合」で総理に就任したから、「それで何が悪い」と思っているかもしれないが、「密室人事」は民主主義とは相容れない。国民の理解は得られない。

 15日の予算委員会で菅総理はそのことを強調した。そして橋本五輪担当大臣も、小池東京都知事も「透明性」が最も大事だと口をそろえる。ところがだ。事務局がやろうとしている後任の選び方はまったく透明性に欠ける。

 御手洗富士夫東京五輪組織委名誉会長を座長に、男女4人ずつ8名の理事で選考を行うが、8人が誰なのかも非公開なら、議論も非公開というのだ。それで今週中に会長を決め、選考過程の議事録はその後に公開されるという。

 同時進行で議論を公開すれば国民の反応が様々に出てくる。そうさせたくないのが事務局の考えだ。国民の声は遮断して自分たちだけで後任会長を決めたい。事務局にはすでに後任会長案があり、それに沿って8名の理事を誘導する可能性がある。それはおそらく森氏も了解済みの人選になる。

 森氏が川淵氏に後継を託そうとしたのは、辞任しても影響力を残せると考えたからだが、あまりにもやり方が露骨すぎ、菅総理はそれをストップさせた。そして今度は「透明性」を掲げながら、事務局が主導して仕切り直し、あたかも民主的な手続きを踏んだようにするが、実は森氏も了解できる人事を行うとフーテンは見ている。

 森氏が「禅譲」を考えたのは、暴露されてはならない不都合な真実を隠すためだ。2009年に設立され、なぜか昨年12月末にひっそり活動を終了した「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」を巡る不透明なカネの動きがある。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:2月24日(土)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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