総務省接待問題の背後には菅総理の三つ巴の利権構造が浮かび上がる
フーテン老人世直し録(567)
如月某日
菅総理の長男が勤める放送事業会社「東北新社」の総務省幹部に対する接待問題で、総務省は22日昼に調査結果を衆議院予算委理事会に報告した。
報告によると、「東北新社」から接待を受けていた官僚は計12人、5年間で38件に上るとされ、飲食代、土産代、タクシー代の総額は53万4104円だった。それとは別に山田真貴子内閣広報官は、総務審議官だった2019年11月に菅総理の長男から7万4203円の飲食接待を受けていた。
22日の予算委員会には、接待を受けていた総務省幹部4人が参考人として呼ばれたが、いずれも「東北新社が利害関係者に当たると認識していなかった」と述べ、武田総務大臣は「行政が歪められた事実はまったくない」と答弁した。
菅総理は、長男が「東北新社」に入社する際、「総務省と距離を置くよう」助言したと言い、接待の事実を知って「驚いた」と発言した。そして「長男が関係した結果、公務員が倫理法に違反をすることになった。大変申し訳なくお詫び申し上げる」と陳謝した。
総務省は、12人のうち11人は国家公務員法に基づく倫理規定に違反する可能性が高いとして、24日にも処分を行い早期に幕引きを図ろうとしている。早期に幕引きを図らなければ、菅総理の金脈と人脈、その中枢にいる親族との関係が国民の目に晒される恐れがあるからだ。
メディアは、1998年に摘発された「大蔵省接待汚職事件」と同列に報道し、接待に応じた官僚の負の側面にスポットライトを当てているが、『総理の影―菅義偉の正体』(小学館)を書いたノンフィクションライター森功氏の記事を読めば、この背後には菅総理を支援する「JR東日本」、「ぐるなび」、「東北新社」の三つ巴の利権構造が浮かび上がる。野党もそうだが、新聞テレビがそちらに向かわないのが不思議である。
これまで菅総理の人脈として注目されたのは、神戸の山口組三代目組長田岡一雄と並び称せられ、横浜の港湾荷役を取り仕切ってきた「ハマのドン」こと藤木幸夫氏であった。菅総理が故小此木彦三郎衆議院議員の秘書であった時代から面倒を見てきたと本人が語っている。
しかし最近ではカジノを横浜に誘致しようとする菅総理に対し、藤木氏は反対運動の先頭に立っており、かつてのような蜜月関係とはいかない。一方、運輸族議員であった小此木氏を通じて菅総理が秘書時代からつき合いの深いJR東日本とは今も蜜月関係である。
昨年9月、菅総理就任直後の「動静」を見てフーテンが「おや」と思ったのは、菅総理が忙しいさ中に、JR東日本の会合に出たり社長と面会したことだ。安倍前総理はJR東海の葛西敬之名誉会長と親しく、右翼的思想の葛西氏は労使協調のJR東日本を敵視している。だから安倍シンパもJR東日本を敵視する。ところが「安倍政治の継承」を掲げた菅総理が安倍路線とは逆の行動をした。
調べて分かったのは、菅総理の実弟が事業に失敗した後JR東日本に入社し異例の出世を遂げていたことだ。1987年に菅総理が横浜市会議員に初当選した2年後から、実弟は東京駅構内で菓子屋を始めた。場所は八重洲中央改札の「銀の鈴」近くという一等地である。
ところが2002年に事業は失敗、東京地裁から破産宣告を受ける。するとその半年後に実弟はJR東日本の子会社に部長として入社したのである。2010年には取締役にまで出世し、2017年まで務めた。菅総理とJR東日本の蜜月関係の賜物と思える。
菅氏の実弟より4年前の1985年、東京駅構内の「銀の鈴」近くに情報端末「JOYタッチ」を設置したのは「ぐるなび」創業者の滝久雄氏である。滝氏の父親は交通広告の代理店を創業し、国鉄をはじめ鉄道業界と関係が深かった。
その父親から事業を引き継いだ滝氏は、東京工業大学卒の理系人間で「情報通信メディア」に関心が強く、コンテンツサービスの先駆けとして「JOYタッチ」を東京駅に設置したのだ。この滝親子と菅総理の関係が始まったのも秘書時代である。1987年に菅総理が横浜市会議員に当選した時から滝氏は菅氏の後援者だった。
つまり国鉄民営化を手掛けた運輸族議員小此木彦三郎の秘書として、菅総理はJR東日本と並々ならぬ関係を築き、同じく鉄道関係の広告代理業を営んでいた滝親子とも関係があり、菅総理の実弟も滝久雄氏も東京駅構内の「銀の鈴」という一等地で事業を営むことを許された。
その滝氏が囲碁に関心を抱く。目的は政治家に囲碁好きが多いので、政治の世界に足場を築くためだと言われる。またJR東日本の松田昌士社長が無類の囲碁好きだったのでJR東日本との関係強化にも役立つ。毎年新年には滝氏が松田氏を接待する囲碁会を主催してきたという。
そして滝氏は90年に「ペア碁」を発案する。テニスでダブルスという2対2のゲームがあるが、ペア碁は男女がペアを組み交互に石を置く。滝氏は94年に公益財団法人日本ペア碁協会を作り、自身は名誉会長、妻の裕子氏が代表理事を務め、松田氏も理事長を務めていた。
インターネット時代が訪れると、滝氏は95年にインターネットで囲碁対局をする「パンダネット」を立ち上げ、96年には飲食店のインターネット検索サイト「ぐるなび」を創業する。その滝氏の悲願は「ペア碁」をオリンピックの種目にすることだという。
それまでは囲碁好きの政治家故与謝野馨氏に働きかけをしていたが、96年にはついに横浜の市会議員時代から面倒を見てきた菅氏が国会議員に初当選した。滝氏が菅氏の政治力を使い自らの事業を拡張していこうと考えたとしても不思議ではない。
一方、放送の世界で囲碁を専門に放送していたのは、東北新社の「囲碁・将棋チャンネル」である。というより1991年からケーブルテレビ向けに「囲碁・将棋チャンネル」を配信してきた「サテライトカルチャージャパン株式会社」の株を2009年に東北新社が買収した。
2009年は菅総理の長男が東北新社に入社した翌年である。東北新社の創業者は秋田県出身で菅総理の後援者である。菅総理は長男が入社したことを事前に知らなかったと言い、自分の意図ではないことを強調するが、実弟とJR東日本の例を見ればそれは疑わしい。
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