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紅白の米津玄師「さよーならまたいつか!」に期待する「紅白100年に1度の大革命」【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
「米津玄師 - さよーならまたいつか!「虎に翼」OPタイトルバック・フル」より

 東京スポーツ紙の連載「スージー鈴木のオジサンに贈るヒット曲講座」と連動して毎月お届けする本連載。

 すでに本紙に掲載した通り、「スージー鈴木のオジサンに贈るヒット曲講座」の2024年の年間ベストテンを決定しました。

 今年の1位=「レコード大賞」は、米津玄師『さよーならまたいつか!』に決定。

 以下、ベストテンはこんな感じ。

 さて、米津玄師には大きな期待があります。もちろん明日の紅白歌合戦に関してのことです。本人はXのポストでこう語っています。

次の100年こそは、そこで生きる誰もが取りこぼされずに済むような世になればいいと願っています。

 

 

 このメッセージは明らかに『さよーならまたいつか!』が主題歌だった朝ドラ『虎に翼』を意識したものでしょう。

 女性差別を底辺に置きながら、障害者、在日コリアン、LGBT、被爆者……と、令和の日本に、山のように積み残されている問題を、朝っぱらから、あからさまに取り扱ったのです。

 『虎に翼』が「朝ドラ史上最高傑作」かどうかは一旦おくとして(この秋からNHK BSで再放送されている某朝ドラから「ちょっと待ってんか!」という声が聞こえます)、少なくとも朝ドラ史上、最高強度の作品だったと言えるでしょう。

 そんな『虎に翼』と『さよーならまたいつか!』との結節点となるのが、この歌詞です。

――人が宣(のたま)う地獄の先にこそ わたしは春を見る

 最終回、主人公・寅子(伊藤沙莉)の元に、突然、亡くなったはずの母親・はる(石田ゆり子)が現れて、こう尋ねます。「どう、地獄の道は?」。

 先のような、地獄のような数々の問題と格闘し、地獄に翻弄され続けた寅子のことです。疲労感や絶望感をしっとりと語るのかと思いきや、頭の上にマルを作って、満面の笑みで「最高です!」と言い切る(その後、ちょっとだけ涙ぐみますが)。朝ドラ史上、最高強度のエンディング。

 結果、視聴者の心に残る読後感は、『さよーならまたいつか!』のこのフレーズなのでした。

――生まれた日からわたしでいたんだ

 紅白における米津玄師パートへの私の期待は、まず、「いま悲しみに暮れている方々に元気と勇気を与えます!」的な、ふわっとした、「24時間テレビ」的なムードで終わらないでほしいというものです(実はこれ、最近の紅白のベースにずっとあるものなのですが)。

 加えて、漠然とした話で恐縮ですが、何かこう、あからさまに「地獄」を感じさせてほしい、その上で「春」を見せてほしい、結果、視聴者が「生まれた日からわたしでいた」ことに誇りを持たせてほしい。そう思うのです。

 それは今回、選曲が見送られた(迅速・賢明な対応でした)星野源『地獄でなぜ悪い』の「ただ地獄を進む者が 悲しい記憶に勝つ」というメッセージを受け継いだものにもなるでしょう。

 ここで1つ提案です。アイデアがあります。

 『虎に翼』の中で何度も出てきたのは日本国憲法の第14条でした。

第十四条:すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 私のアイデアとは、米津玄師が歌い終わった後、司会の伊藤沙莉が、以下のように言って「来年の紅白から、ジェンダーによる組分けを取りやめる」ことを宣言するというものです。

――「すべて紅白は、法の下に平等であって、性別において『区別』されない」

 また、昨日発表となった、『虎に翼 紅白特別編』も、単なるスピンオフコントではなく、そんな大決断の伏線となるようなものとする。

 天下の紅白が「男性=白組/女性=紅組」という旧来の枠組みから自由になるという宣言。まさに紅白100年に1度の大革命。米津玄師のいう「次の100年こそは、そこで生きる誰もが取りこぼされずに済むような世」への第一歩。とてつもなく大きなインパクトを世間に与えるはずです。

 そしてこれこそが、何より『虎に翼』的で、また紅白から「地獄の先の春」を具体的に見せる、ごくごく簡単にして冴えた方法だと思うのです。っていうか、そもそも、どちらの組が勝つか気にしている視聴者なんて、今どき、かなり少ないはずですしね。

 あっ、堅く宣言する感じが紅白という場に似つかわしくないのなら、寅子らしく、こう付け足すのはどうでしょう。

――「と、私たちは思うのですが……はて?」

・米津玄師『さよーならまたいつか!』/作詞・作曲:米津玄師

・Creepy Nuts『Bling-Bang-Bang-Born』/作詞:R-指定、作曲:DJ松永

・リーガルリリー『キラキラの灰』/作詞・作曲:たかはしほのか

・宇多田ヒカル『何色でもない花』/作詞・作曲:Hikaru Utada

・こっちのけんと『はいよろこんで』』/作詞:こっちのけんと、作曲:こっちのけんと & GRP

・アイナ・ジ・エンド『Poppin' Run』/作詞:アイナ・ジ・エンド、作曲:アイナ・ジ・エンド & Giorgio Blaise Givvn

・藤井風『満ちてゆく』/作詞・作曲:藤井風

・Vaundy『タイムパラドックス』/作詞・作曲:Vaundy

・米津玄師『がらくた』/作詞・作曲:米津玄師

・生田絵梨花『Laundry』/作詞:Erika Ikuta & Junji Ishiwatari、作曲:Erika Ikuta

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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