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米津玄師『さよーならまたいつか!』フルバージョン映像で朝ドラ『虎に翼』は永遠に【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
米津玄師 - さよーならまたいつか!「虎に翼」OPタイトルバック・フル

 東京スポーツ紙の連載「スージー鈴木のオジサンに贈るヒット曲講座」と連動して毎月お届けする本企画。

 9月、もっとも印象に残ったのは、この曲、いやこの映像でした。NHK朝ドラ『虎に翼』オープニングのフルバージョン。

 そもそもは、9月18日のNHK『虎に翼×米津玄師 スペシャル』の中でオンエアされたもので、毎朝流れていた『虎に翼』のタイトルバックに、同曲のフルの長さに合わせて新たに映像を継ぎ足した映像です。

 新たに足されたのは、ドラマの名場面を(実際に撮影した映像をトレースして制作する)「ロトスコープ・アニメ」によって描かれた映像。タイトルバックを担当したアーチスト=シシヤマザキによって制作されたもの。

 感心するのは、それぞれの歌詞と選ばれたカットのピッタリ感。さらにはトータルの歌詞世界とドラマの内容とのピッタリ感――そう、ピタッとピッタリ(細かく後述)。

 これぞまさに「プロ・タイアッパー」=米津玄師。タイアップする先のドラマ、映画、CM……の世界をしっかりリスペクトしながら、それでも単なる再現ではなく、自らの手癖も加えることで、結果、タイアップ先作品の価値も拡大するような、本質的な「ピッタリ」を紡ぎ出すための才能と努力。

 そう、リスペクト。米津玄師は言います。

「寅子の人物像というか、そういうところからはじめないことには駄目だろうなと思った」

「目の前に残酷な現実っていうものがあるからこそ、軽やかな表現をとる、にこやかにブチギレるっていう。そっちのほうが、よりダイレクトに伝わるんじゃないか」

「100年経って自分は到底生きてなかろうと、自分が起こした何かっていうのはそこに残り続けるんだろうなと思うんですよ」

(出典: 文春オンライン/9月26日

 単なる露出装置と割り切った結果、「この曲、タイアップする作品、一切見ずに作ったんちゃうか」と思わせるような、世間にあまた溢れる雑なタイアップとは、根本的に違うのです。いわば「ロトスコープ・アニメ」ではなく「ロトスコープ・タイアップ」と言えるでしょう。

 そう、映画『シン・ウルトラマン』(22年)とのタイアップだったこれも。

 映画『君たちはどう生きるか』(23年)とのタイアップだったこれも。

 という、先の『さよーならまたいつか!』フルバージョンの映像を見ていると、『虎に翼』が永遠に続くような気がします。継ぎ足された2番以降での見どころ・聴きどころは、

  1. (1:47)歌詞「♪袖触れる」のところで寅子の手が雄三の顔に「触れる」
  2. (1:55)「♪うひゃひゃ」で多岐川の顔が「うひゃひゃ」とする
  3. (2:04~2:14)「♪地獄の先に」で「地獄」を見た6人が(ここがいちばん泣ける)
  4. (2:28)「♪しかと噛みちぎる」で花岡が「噛みちぎ」れなかったチョコレート
  5. (3:00~ラスト)「地獄」を見た6人のダンス。車いすの玉がいるのがいい。
  6. (3:10)そして歌詞世界を集約するパンチライン「生まれた日からわたしでいたんだ」

 そしてNHK BSで始まった『カーネーション』の再放送。『虎に翼』の最終回に感じ入った人は、半年後、こちらの最終回もまたしみじみ感じ入ることが出来ると思います。おすすめ。では、さよーならまたいつか!

 

 追記:『あまちゃん』同様、紅白歌合戦でリアル最終回=「第131回」を見てみたい。例の大階段のある名古屋市市政資料館からの生中継。米津玄師を真ん中に、寅子以下「地獄」を見た6人が紅白という「天国」で踊る姿を。

  • 米津玄師『さよーならまたいつか!』『M八七』『地球儀』/作詞・作曲:米津玄師

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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