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Creepy Nutsの新曲は54年前に起きた「日本語ロック論争」への決着だ【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
ソニーミュージックオフィシャルサイト

 東京スポーツ紙の連載「スージー鈴木のオジサンに贈るヒット曲講座」連動して毎月お届けする本企画。この1月にいちばん目立った曲は。Creepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』でした。

 ビルボードジャパンHOT100(1月24日付)でも5位と健闘しています。

 さて、昨今ヒットの陰にはアニメあり。この曲もアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』(TOKYO MX)主題歌で、かつ昨今は、ヒットの陰にはダンスあり。「BBBBダンス」(上動画の1分2秒あたりから参照)が流行っているとのこと。

 実はCreepy Nutsは、東スポの連載の年間ランキング2020年度版の1位を獲得していました。その曲は、「Creepy Nuts × 菅田将暉」名義の『サントラ』。

 作品としてもお見事ですが、とにかく歌詞(リリック)がいい。特に「♪あの日でっち上げた無謀な外側に追いついてく物語」は出来すぎていて、私が当時勤めていた会社を辞めるひとつのきっかけにもなったほど。

 さて、私がCreepy Nutsを聴いて思い出すのは、54年前の「日本語ロック論争」のことです。「新宿プレイマップ」という紙媒体の1970年10月号における対談で勃発した論争です。主な登場人物は、内田裕也と大滝詠一。ちなみに1970年10月時点で、内田が30歳、大滝が22歳。

 この対談原稿、音楽評論家「みの」さんによる書き起こしがありますので、ご興味のある向きは、ぜひご一読ください。

 テーマはずばり「日本語でロックは出来るのか」。砕いていえば「アメリカやイギリスの音楽であるロックに、英語ではなく日本語乗せるなんてダサいんじゃないの?」ということについて、内田裕也(英語派)と大滝詠一(日本語派)がガチンコでぶつかる。

 まずは「英語派」の内田裕也。ただ先に言っておくと、特に若い方々の知る彼ではなく、翌71年、アメリカとカナダでアルバムをリリースするフラワー・トラベリン・バンドのプロデューサーとして、鼻息の荒かったであろう時代だったことに留意してください。

内田:前に日本語でやった時があるんですよ。やっぱり歌う方としては”のらない”というんですよね。ボクは夢が大きいのかもしれないけど、独立した時からロックは世界にコミュニケート出来るものと思っていたからエキスパートを狙っていたし、それに今度アメリカでやらないかという話があって向こうへ行くんですけどその時にボクは変に日本民族というのを強調しなくてもいいと思うんですよね。

 対して、こちらも対談時点では、はっぴいえんどとしてのデビューアルバム『はっぴいえんど(通称:ゆでめん)』のリリース直前、まさに革命前夜という感じの大滝詠一青年が「日本語派」として主張する。

大滝:ボクは別にプロテストのために日本語でやってるんじゃないんです。何か、日本でロックをやるからには、それをいかに土着させるか長い目で見ようというのが出発なんです。ボクだって、ロックをやるのに日本という国は向いてないと思う。だから、ロックを全世界的にしようという事で始めるんだったらアメリカでもどこでも、ロックが日常生活の中に入り込んいる(原文ママ)ところへ行けばいい。全世界的にやるんならその方が早いんじゃないですか。でも、日本でやるというのなら、日本の聴衆を相手にしなくちゃならないわけで、そこに日本語という問題が出てくるんです。

 結果はみなさんご存じの通り。はっぴいえんどに続いて、キャロルの矢沢永吉、サザンオールスターズの桑田佳祐、そして佐野元春らによる試行錯誤が奏功し、「日本語派」が音楽シーンを席捲、平成になって「Jポップ」として隆盛するのですが。

 「日本語のロックなんてダサいんじゃないの?」から時が経ち、日本語とビートがより緊密に絡みつく「日本語ラップ」というジャンルが出来て、そしてこちらも様々な試行錯誤を経て、そして今、Creepy Nutsに行き着いた。

 彼らの、日本語をものの見事にグルーヴさせる力量は、ある意味で「日本語ロック論争」への完全なる決着だと思ったのです。

 そして、『Bling-Bang-Bang-Born』を聴いた私には、大滝詠一が、そしてはっぴいえんどが「あの日でっち上げた無謀な外側」に、Creepy Nutsが「追いついてく物語」が見えたのです。

 最後にもう1曲だけ。先の1/24付ビルボードジャパンHOT100の1位は、tuki.(ツキ)の『晩餐歌』でした。

 「13歳よりTikTokを中心に弾き語り動画を発信。現在中学3年生、15歳ということ以外全てが謎に包まれたシンガーソングライター」とのこと。Adoも含めて、こういう音楽を聴いて思うことは、こういうことなのです(東スポ連載への寄稿より引用)。

――それにしても「世の中には歌の上手い若者がまだまだたくさんいる」と驚かされる。SNSの普及に加え、最近では「顔出し」というハードルを超えなくていいことが、彼(女)らが世に出るのに拍車をかけている。大手レコード会社、大手芸能事務所による、利権まみれ・事情まみれだった昭和のデビューシステムに比べて、今の音楽シーンは、つくづく健全な民主主義だと思う。

  • Creepy Nuts『Bling-Bang-Bang-Born』/作詞:R-指定、作曲:DJ松永
  • Creepy Nuts × 菅田将暉『サントラ』/作詞:R-指定、作曲:DJ松永
  • tuki.『晩餐歌』/作詞・作曲:tuki.
音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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