福来スズ子、藤井風、アヤ・シマヅ…テレビの「フィジカルエリート」に魅かれた理由【月刊レコード大賞】
東京スポーツ紙の連載「スージー鈴木のオジサンに贈るヒット曲講座」と連動して毎月お届けする本企画。3月度は「テレビの中で躍動したフィジカルエリートたち」というテーマで。
まずはNHK朝ドラ『ブギウギ』、3月29日放送の最終回。福来スズ子役の趣里による『東京ブキウギ』の生歌が素晴らしかったのです。生歌――要するに、事前収録した音源に「口パク」するのではなく、実際に生で歌っての撮影。
のちの記事によれば、バックの演奏も生演奏だったというから驚きました。ドラマの撮影現場のことなどよく知りませんが、朝ドラという国民的コンテンツ、それも最終回という土壇場で生歌・生演奏を撮影することが、どれだけの緊張感を伴うものかは、何となく分かります。
結果、圧倒的な最終回となりました。同じく『ブギウギ』の生歌といえば、『大空の弟』(12月7日放送分)の回と並ぶほどの。
発揮されたのは、趣里の「フィジカルエリート」ぶりです。演技だけでなく大阪弁も踊りも、そして歌も、高い芸能運動神経を備えた肉体でこなしていくエリートとしての趣里――。
フィジカルエリートといえば、同じくNHKで3月16日に放送された『tiny desk concerts JAPAN』での藤井風も忘れられません。同番組の公式サイトより(改行省略、以下同)。
今月発売のシングル『満ちてゆく』。変幻自在のボーカルやバックの優秀な演奏にも目を見張りましたが、個人的には、藤井風がキーボードを操る姿が目にこびり付いて離れません。何というか、鍵盤が両手にまとわり付いている感じがするのです。幼い頃から鍵盤が好きで好きで、弾いて弾いて弾きまくった人だけが出せる味だと思いました。
TBS『情熱大陸』の3月3日放送分が取り上げたのは、島津亜矢、改め「アヤ・シマヅ」。同番組公式サイトより。
番組内で披露されたアレサ・フランクリンのカバー『Think』は、もう爆発的なクオリティでした。英語が出来る出来ないなんて関係ない、むしろ中途半端に英語が出来る方が中途半端なカバーになるのではないか、なーんて憎まれ口を、英語はたいそう上手いけれど声量がまるでない「ディーバ」たちを思い出しながら言いたくなったり。
ちなみに原曲はこれ。日本でもヒットした映画『ブルース・ブラザース』の1シーン。アレサ・フランクリン本人がソウルフード・レストランの女主人として出演しています。この作品、日本版を作ってもらって、その中で前掛けをした漬物屋の女主人の役でアヤ・シマヅに歌ってもらいたいと妄想するのですが。
それにしても、なぜ今、これほどまでにフィジカルエリートに惹かれるのでしょう。
まずはいうまでもなく、現代はデスクトップですべてが出来る時代。声量がなくてもあるように出来る。音程が合ってなくても合っているように出来る。鍵盤に両手がまとわりついていなくても、まとわりついているような演奏が――出来る。
でも、いや、だからこそ、状況に対するスーパーアンチテーゼとして、フィジカルエリート、ライブエリートが見直されるのだと思います。
また、この時代におけるテレビという機器の特性も関係しているような気がします。一見時代遅れながら、スマホよりもPCよりも画面が大きく、かつ、かつてよりも高解像度の中でフィジカルエリートをいきいきと映し出す。
そして、イヤフォンではなく、テレビのスピーカーから空気を震わせて音を聴くことも、フィジカルエリートの音を際立たせます。この「サブスク×イヤフォン時代」に、空気をビリビリと本気で震わせるのは、やはりフィジカルのなせる業ではないでしょうか。
世の中AI、AIと賑やかしいものですが、もしかしたらAIに対抗できるラスボス、最後のボスキャラが、フィジカルエリートなのかもしれません――。
『tiny desk concerts JAPAN』の続編があれば、ぜひ趣里とアヤ・シマヅに出ていただきたい。というか、「tiny desk」(小さな机)の中でも人々を感動させられる、真のフィジカルエリートだけが出演できる「tiny 紅白」を企画していただきたい、とまで思うのです。
- 東京ブギウギ/作詞:鈴木勝、作曲:服部良一
- 大空の弟/作詞:村雨まさを、作曲:服部良一
- 満ちてゆく/作詞:藤井風、作曲:藤井風
- THINK/作詞・作曲:ARETHA FRANKLIN, TED WHITE