日本の技術が手助けに、排出量ゼロを目指す北欧ノルウェーの街
北欧ノルウェーの首都オスロでは、世界初の排出量ゼロの街となるべく、さまざまなグリーン政策や取り組みが行われている。
中道左派の政党が連立して指揮するオスロ市議会は、2030年までに排出量を95%カットすることを目標として掲げる。
世界初ともなる、二酸化炭素の排出量と削減目標を数値化した「気候予算」2020年度分では、今後の目標は
- 2030年までには、オスロの道路を行き来する個人自動車・貨物自動車は排出量ゼロ
- 2028年までには公共交通機関の排出量ゼロ
- 2015年比で2030年までには車の交通量を三分の一へと減らす
そのために、以下のような数々の対策がとられる
- 道路の交通量を規制
- 車の通行料をさらに有料化
- 公共交通機関・自転車・徒歩で移動しやすい街にする
- 駐車場の使用料金を上げる
- 駐車場を減らす
2025年までには、公共の工事現場での排出量もゼロにしたいと、オスロの政治家たちは意気込む。
現在、王宮や大通りカール・ヨハン、国立劇場からすぐ側にある、Olav V通りとKlingenberg通りでは、工事が行われている。人通りが多い場所だが、ほかの工事現場と比較すると、騒音が少ない。
実は、オレンジ色の掘削機は電動だ。
排出量ゼロを目指すことから由来して、「ゼロン」(ZERON)と名付けられている。
ノルウェーのナスタ(Nasta)社は国内最大級の掘削機の供給会社のひとつで、日立建機の技術を使って、オレンジ色の電動掘削機を製造した。
ノルウェー現地の業界内でも、「世界初かもしれない排出ゼロの工事現場を実現可能にしたのは、日本のテクノロジー」だとして知られている。
- ノルウェーの技術週刊誌「日本の巨大企業がノルウェーの電動掘削機を発展させる」(ノルウェー語)
- オスロ気候情報サイト「電動掘削機が意味するのは、ゼロエミッションの工事現場」(英語)
オスロは、2019年度は国連が指定する「欧州緑の環境都市」だったため、気候・環境関連の世界会議やイベントが多く開催された。その際に、オスロの取り組みとして世界中からのゲストに紹介された事例が、この排出量ゼロの小さな工事現場。ショーウインドーとなっているのだ。
ノルウェーは車の電動化、EVの先進国としても世界中で知られている。この国は、今、車だけではなく、飛行機・船・公共交通機関など、あらゆる乗り物を電動化しようとしているのだ。公共の工事現場の電動化は、政治家や企業の手腕の見せ所でもある。
2月頭、日立建機からは3人の日本人スタッフが現場の視察に訪れていた。
日立建機ティエラの取締役・開発設計センタ長の山田一徳氏は、初めて訪れるオスロを「エコな街ですね」と評価。
ノルウェーでは政治家が率先して環境・気候対策を進める一方、日本では政治家の声かけがあまりなくとも、民間企業は動き始める傾向があると同氏は話す。「電動建機の事業化は、まだ多くの課題を抱えてはいますが、日立としては、ゼロエミッションのまちづくりを目指して、取り組んでいきたいですね」。
政治色は関係ない
日本と比べて、ノルウェーは政権交代が頻繁に起きる国だ。
ナスタ社のニルス・ハウコース氏は、2025年までに工事現場を排出量ゼロにする取り組みは、権力を握るのが中道右派でも中道左派でも、この路線になっていただろうと話す。
「なぜ北欧はエコに熱心なのか」は、私は仕事柄よく聞かれる質問なので、この質問をハウコース氏に投げかけてみた。
「ノルウェー人は、自然が大好きですからね。外で時間を過ごすのが好きな分、気候の変化の代償を目の当たりにします。2018年は、干ばつと洪水が同じ年に起こりました」
「この業界が、環境に優しい工事機器の開発と購入に取り組み始めたのは、お客様からそう望む声が出てきたからです。もっと、環境に良いマシンはないのかと。電動の掘削機は、地球を汚染しませんし、現場ではたらく労働者の健康も悪化させない、振動も音も少ないのがいいですね」。ハウコース氏は、日立との協力に、大変満足しているようだった。
Photo&Text: Asaki Abumi