CO2を数値化するオスロ気候予算が、街や企業のやる気を加速?
スウェーデンの少女グレタさんをきっかけに、気候変動というテーマに大きな注目が集まっている。
魅力的な言葉だけではなく、「具体的な行動を」は、どの国でも指摘されていることだ。
2016年、北欧ノルウェーの首都オスロでは、市議会が世界初となる「気候予算」を開始すると発表した。
オスロが画期的な予算案を世界に提案 CO2を数値にした「気候予算」
市が予算案を作成するとき、どれほどのお金を教育や福祉などに使うかが割り当てられる。
オスロでは、この予算案に、交通事業などの各分野が、いつまでに・どれほどの排出量を削減するかを具体的に数値化した。
予算を作る人が気候対策の責任者でもあるべき
首都の財政の最高責任者である財務局局長のロッバット・ステーン氏(労働党)は、「ノルウェーでは、気候変動や環境対策となると、これまでは環境省や環境大臣が責任者だった。しかし、この国には石油省や道路を作る運輸省があり、よりにもよって極右政党(進歩党)が大臣。(連立する)自由党の環境大臣がいくら頑張っても、限界がある」と取材で語る。
環境対策では、予算を振り分ける政治家も責任者になるという、「ごく単純なこと」が、今までこの国ではされてこなかった。
中道右派政権の政府に、中道左派陣営が権力を握る首都オスロが、新しい解決策を、今「気候予算」という形で提案しているというわけだ(しかし、政府は気候予算を真似することを拒否している最中)。
気候予算に効果はあるのか
実際に、政治家が気候予算を掲げることで、市民や企業にはどのような影響があるのだろうか?気候予算による効果を、数値化することは難しい。
しかし、ノルウェーを取材してきた私がひとつ言えることがある。それは、この国の人は政治家が掲げる「目標」を、日本人以上に好意的に捉え、「やる気の原動力」にしていることだ。
企業を訪問していると、「政府や市は、〇年までに、排出量をこれほど減らすと目標にしたから!数字を達成するために、私たちはこういうことをする」と勢いよく話すことが多い。
政治家がリーダーとなり提示する目標が、企業などに「やる気」を与えている様子に、私は驚くことがある。
オスロ・イノベーション・ウィーク取材中、他国の記者とも話していたのだが、政治家が(守るかもわからない)目標に、強制的な指示なしで、ただモチベーションがアップできる国民性は、この国独特のものだ。
実際、民間企業はどのような対策をとっているのだろうか?
工事現場では
ノルウェー最大級、スカンジナヴィア諸島で4番目の規模を誇る建設会社ヴァイデッケ社では、今年、国内で初めて電動のボルボ建設機械を購入。
オスロは、建設現場での排出量を激減させようと加速中。2020年までには公共の建設現場では化石燃料を使用しないことを目標にしている。
食品会社は
研究機関CICERO調べでは、
- 70%の市民が自分たちが出すカーボンフットプリント(排出量)を減らしたいと回答
- 47%がもっと環境に優しい食生活をしたいと考えている
- しかし、93%が食材の買い物をする時に、気候に優しい選択をすることが難しい
自分の買った食品は、生産過程でどれほどの排出量を出しているのか?
オルクラ社は、商品が運搬・配送・調理されるまでのCO2排出量を計算。色ごとに、排出量がどれほど多い商品なのかを分かりやすく商品に記載することにした。
政治家の言葉が、なぜ企業をここまで動かすのか
「気候予算は、私たちにインスピレーションを与える」とヴァイデッケ社のブレゲン氏は話す。
一方で、私は気になっていることを聞いてみた。
「政治家が気候予算というものを発表したからといって、ほかの国では、企業が市民がそれだけで、“モチベーションになる、インスピレーションになる”と動き始めるとは考えにくいのですが、なぜノルウェーではそうなのですか?」と。
「気候予算がなくても、私たちはこのような対策はいずれにせよ、実行していました。それでも、気候予算があるのはいいことです。お客さんたちが、よりこのテーマに関心を持つようになるから」とオルクラ社のシュース氏は答える。
「今までそうだった状況を変えようと、一番最初に何かをやろうとすることは難しいものです」
「他の国で気候予算がないのは、勇気が欠けているからともいえます。気候予算はやる気を与えるだけではなく、市も各業界の顧客となり、排出量削減が必要な分野にはお金を投じます」とステーン財務局局長は答えた。
※市の依頼で、建設会社は工事を行い、オルクラ社は公共保育園や公共機関の食堂に食事を届ける。気候予算が毎年あれば、「昨年はこの業界で排出量を思ったより減らせなかったから、もっとお金を投じよう」となる。
オスロは国連が選択する「欧州グリーン首都2019」に選ばれており、その理由のひとつが世界初の気候予算だったともいわれている。
Photo&Text: Asaki Abumi