ウクライナ西部リウネでイスカンデルM/キンジャールが墜落炎上した残骸の記録
2024年2月4日、ウクライナ国家警察のリウネ州警察は「リウネの爆発物専門家の最前線:地雷、砲弾、仕掛け爆弾」という報告で幾つかの不発弾の処理を行った写真を公開しました。ただし撮影時期や詳しい説明は行われていません。
そこにはなんと、炎上するイスカンデルM弾道ミサイルないしキンジャール極超音速ミサイルの残骸が写っていました。墜落直後の状態です。
まだ燃えているイスカンデルM/キンジャールのロケットモーター
間違いなくイスカンデルMないしキンジャールのロケットモーターです。過去にザポリージャで回収されたイスカンデルMとボルトの位置やノズルの形状などが一致しています。
- 左写真出典:2022年10月5日、ザポリージャ州行政府
- 左写真のミサイルはイスカンデルMのミサイル名称「9M723」の番号が書かれている。
- 左写真出典:2024年1月26日、ウクライナ・ナ・チャシよりキンジャール残骸
- 左写真のミサイルはイスカンデルMのミサイル名称「9M723」の番号が書かれている。
更には2024年1月26日にキーウのドニプロ川の川底から回収されたキンジャールの部品とも形状が一致しています。キンジャールの正体はイスカンデルM弾道ミサイル空中発射型なので主要部品は共通です。なお左写真のロケットモーター底板のボルトの数は64個でした。
炎上するイスカンデルM/キンジャールのロケットモーターとミサイル尾部
※炎上している残骸を拡大(部品の注釈は筆者)
ロケットモーターの天井板が見えており、画面右側を向いています。一方で操舵翼の見え方からミサイル尾部(操舵ユニット)は逆方向を向いています。弾頭や誘導装置は見当たりません。
先に紹介した別の写真のロケットモーター底板(ノズルが見えている)と比較すると、ロケットモーターは二つに捥ぎ取れて地面に転がっているようにも見えますが、燃えている煙で隠れていて全体が見えずよく分かりません。
リウネ、発見場所の謎
驚いたのは報告場所がウクライナ西部のリウネという点です。首都キーウより300km西方にあります。パトリオット防空システムの対弾道ミサイル迎撃戦闘時の有効射程は20~30kmほどなので、300km先は同時にカバーはできません。つまり首都キーウだけではなく離れたリウネにも、パトリオットないし準ずる性能を持つSAMP/Tといった高性能な弾道ミサイル迎撃可能な防空システムが配備されていた可能性があります。
また精密誘導可能な高精度の命中率を誇るイスカンデルM/キンジャールが不具合を起こして目標から大きく外れて着弾した可能性もありますが、対地攻撃時の命中精度が著しく悪いKh-22/Kh-32と比べると可能性は低くなります。
ただし今回のケースはウクライナ側が撃墜と主張しておらず撮影時期も不明なので、撃墜と断定する根拠はありません。そもそも国家警察は軍と緊密に情報発表内容を調整していない可能性があります。例えば2月2日に国家警察は軍が撃墜したと報告していないKh-22/Kh-32を「ハルキウで軍が撃墜した」と発表しています(関連記事)。
リウネの件では確実に言えることは「時期不明だがリウネでイスカンデルM/キンジャールが墜落した(撃墜の可能性もある)」くらいでしょう。