疑惑の総理が外交で得点を稼ごうとすれば必ず国益は失われる
フーテン老人世直し録(360)
弥生某日
佐川前財務省理財局長の証人喚問が27日に決まった。与党主導の日程の決め方である。野党は19日に集中審議を行うことで国会審議に復帰し、その週内に佐川氏の証人喚問を求めていたが、25日に自民党大会が予定されていることから27日に先送りされた。
証人喚問で佐川氏が真相を語るとは思えない。しかし与党内にも不満が噴き出るほど中身のない喚問だったり、あるいは万が一にも妙な話が飛び出せば自民党大会は大揺れになる。自民党大会前には「前代未聞の不祥事」の真相解明に積極的な姿勢を見せ、証人喚問をその後に先送りすればそうしたリスクを回避出来る。
自民党の二階幹事長と森山国対委員長が公明党の井上幹事長と大口国対委員長を巻き込んで作ったシナリオだと思うがそれに野党は乗せられた。「森友疑惑」で攻勢を強めているように見える野党だが、しかしフーテンの見るところ野党第一党である立憲民主党の福山幹事長と辻元国対委員長は力量がない。喧嘩の仕方がまるで分かっていない。第一、佐川氏は被害者であり加害者ではない。
二階幹事長のシナリオに乗せられているのは野党だけでない。安倍総理も二階シナリオに乗せられるしかない運命である。今月7日に行われた安倍・二階会談を見てフーテンは「安倍総理は二階幹事長のコントロール下に入った」とブログに書いたが、その後の展開は安倍総理を生かすも殺すも二階幹事長の胸三寸になった。
二階氏が与党の幹事長として第一義に考えなければならないのは来年の統一地方選挙と参議院選挙で勝つことである。負ければ自民党は野に下る道しかなくなる。二階シナリオはそこから導き出されるはずだ。
第一次安倍政権で参議院選挙に負けても政権にしがみつこうとする安倍総理を退陣に追い込んだのは当時の小池百合子防衛大臣と二階国対委員長である。小池氏は表で華々しく揺さぶり、二階氏は見えないところで動いた。二階氏は今回も国民世論の動向を見ながら何をどうするかの暗中模索を始めていると思う。
先週末に日テレ、朝日、毎日、共同の各社が世論調査を行ったが、安倍内閣の支持率は日テレ13.7%、朝日13%、毎日12%、共同9.5%と軒並み大幅急落で不支持が支持を上回った。安倍政権は最大の危機を迎えたと言える。
そして興味深いのは「決裁文書改ざん」の責任を麻生財務大臣や財務省の官僚より安倍総理にあると思う国民が多いことである。佐川前理財局長や麻生財務大臣を辞めさせる「トカゲのしっぽ切り」で国民は納得しないことが分かった。
さらに佐川前理財局長の証人喚問が必要だと答えた人が8割を超えるのに対し、安倍昭恵総理夫人の証人喚問も6割以上の人が必要と答えている。森友疑惑を国民は財務省の疑惑ではなく安倍総理夫妻の疑惑と捉えているのである。
しかし安倍総理は昨年2月に「私も妻も事務所も関わっていない。関わっていたら総理も国会議員も辞める」と言い切った。安倍総理は何がどうなってもそれを言い続けていくしかない。そして何を言い出すか分からない昭恵氏の証人喚問など受け入れられるはずがない。
安倍総理は疑惑を国民に忘れさせることで窮地を脱したい。だから野党が要求する臨時国会を開こうとせず、また開いたその日の冒頭解散で問題を忘れさせようとした。小池東京都知事のへまがなければ自民党政権はそこで終わっていたはずだった。
へまに助けられた安倍総理だが逃げ回るだけだから疑惑は消えない。しかし今の国会の会期は6月20日である。その日まで疑惑は追及され続ける。安倍総理に残された手は一つ、外交で国民の目をそらすだけだ。しかし窮地の総理が外交で得点を稼ごうとすることほど危険なものはない。間違いなく国益は失われる。
どの国も安倍総理の置かれた状況をくまなく調べ、どこに弱点があり、何をすれば喜ぶかを分析し、表で得点を稼がせながら水面下で日本からごっそり利益を吸い上げる。これが外交の常道である。国民には見えないがしかし日本は打撃を受け後になって気付くことになる。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2018年3月
税込550円(記事5本)
2018年3月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。