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なぜ「森友疑惑」に総理首席秘書官の名前が出てこないのか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(359)

弥生某日

 森友学園への国有地売却で財務省の決裁文書が改ざんされた問題を巡り、安倍総理が「なんでこんなことになったのか」と発言したのを聞いて天と地がひっくり返るほど驚いた。

 なんでこんなことになったのか。それは森友問題が初めて国会で追及された時、安倍総理が「私も妻も事務所も一切関わっていない。関わっていたら総理も国会議員も辞める」と答弁したからだ。

 それがなければ佐川理財局長(当時)が「文書は廃棄された」と答弁することも、それに合わせて近畿財務局が決裁文書の改ざんを命じられることもなかった。それが分からないオツムとは自分のことしか考えられない子供と同じである。

 安倍総理の妻が森友学園の名誉校長を務めていたのであれば、国有地が安く払い下げられたことで疑いを持たれるのは当然である。普通の人間はそう考えそうした事実がないのであれば事の経緯をすべて明らかにしようと考える。安倍総理が「一切関わっていない」と言い切るには最高権力者であるのだから徹底調査を命じるのが当然であった。

 従って国家の統治に背く官僚の行為を最高権力者は看過すべきではなく、「文書は廃棄された」という佐川氏の答弁に激しく怒らなければならない。そして財務省に再調査を命じ、佐川氏が答弁を撤回しなければ佐川氏を罷免して文書を発掘すべきであった。

 ところが安倍総理はそれをやらない。「文書廃棄」という常識ではありえないことを咎め立てず、「あるものをない」ことにする側に立った。あの時に安倍総理が再調査を命じていれば、今回の文書は財務省からも国土交通省からも出てきたはずだ。

 そこにこの問題の本質がある。安倍総理は疑惑を解明するのではなく、初めから疑惑を完全否定することに終始した。そのため配下の官僚はそれに合わせてしか動けなくなった。それが虚偽答弁と決裁文書の改ざんと自殺者の悲劇を生んだのである。

 14日の参議院予算委員会で安倍総理は「書き換え前の文書を見ても私や妻が関わっていないことは明らかだ」と答弁した。あの文書を見て「関わっていないことは明らかだ」と断言するオツムも常識を超えるとフーテンは思うが、しかしだったらなぜ昨年2月に国有地払い下げの経過をすべて明らかにしなかったのかと言われるだけである。

 それは出来なかったのだ。つまり安倍総理の中では自分も妻も関わっていると思っていたから「あるものをない」側に立った。そして安倍総理は「関わっている」を、直接指示する意味に限定する予防線を張った。しかし政治のイロハだが権力者が直接指示することなどあまりない。総理の意向は秘書官や側近を通じて伝えられる。

 そうしないと不都合が起きた時に言い逃れが出来なくなるからだ。だから権力者は直接ではなく誰かの口を使って物を言い、直接言うのは物事が思った通りになることが確実になってからである。言質を取られないようにするためにも責任を逃れるためにも権力者は他人の口を借りて物を言う。

 「加計疑惑」では文科省の前川事務次官(当時)に和泉総理補佐官から「総理の意向」が伝えられた。「総理に代わって言うんだけど」と加計学園の獣医学部新設を認めるよう働きかけがあったことを前川氏は明かしている。前川氏は安倍総理の意を体し霞が関を動かす人物として和泉補佐官の他に今井尚哉総理秘書官の名前を挙げた。

 昭恵夫人の秘書官である谷査恵子氏が森友学園の問題で財務省とファックスのやり取りをした事実が明らかにされたが、谷査恵子氏の上司は今井総理秘書官である。このやり取りが今井秘書官の承認なしに行われることはあり得ない。

 和泉補佐官が「加計疑惑」のキーマンなら今井秘書官は「森友疑惑」のキーマンではないかとフーテンはかねがね考えてきた。ところがなぜか今井秘書官の名前が取りざたされることはない。取りざたされると安倍総理と「森友疑惑」の関りが浮上するからではないか。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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