安倍総理と小池都知事の結託に盲従する日本は「愚者の楽園」
フーテン老人世直し録(502)
弥生某日
東京五輪の聖火がギリシャで採火された3月12日は、世界保健機構(WHO)が新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を認めた日でもあった。もう少し早くパンデミック宣言が出されていれば、聖火の採火式は中止されていた可能性がある。
それは東京五輪中止を意味することになり、東京五輪招致を政権延命の柱にしてきた安倍政権と開催都市の小池百合子東京都知事に致命的打撃を与えたと思う。しかし無観客という異例の形ながら採火式が行われたことで、東京五輪は「首の皮一枚」でつながった。
そこから安倍総理と小池東京都知事の共闘関係が生まれる。この12日に小池東京都知事は安倍総理と会談し、新型コロナウイルス感染拡大防止と経済への影響緩和で連携していくことを申し合わせた。
発表はそれだけだったが、会談の中心テーマは「首の皮一枚」でつながった東京五輪である。その時点では、中止、1年延期、2年延期の3つの可能性が浮上していた。2人にとって中止は最悪の結論で飲むわけにいかない。
新型コロナウイルスの終息が見通せない中で、確実に開催することを考えれば2年延期が妥当性を帯びる。しかしそれでは来年9月に総裁任期を終える安倍総理にとって不都合だ。来年の総裁選挙で4選を勝ち取らない限り、総理として東京五輪を迎えることは出来ない。
小池都知事にとっては今年7月の都知事選挙で再選されれば、2年延期でも構わないが、そこで小池知事は安倍総理に助け舟を出した。1年延期で共闘することを提案したのである。それは今年7月の都知事選で自民党が対立候補を擁立しないことと裏表の関係になる。その結果、自民党は小池知事に対立候補を擁立せず、小池都知事の再選は限りなく確実に近づいた。
こうして1年延期で連携した安倍総理と小池都知事は、それをIOCのバッハ会長にも認めてもらい、3月24日の電話会談で1年延期が正式に決定された。するとそれまで少ない数だった東京都の感染者数が何故か急増するのである。
東京五輪を中止にさせないために感染者数を抑えてきたが、IOCが延期を決めたことでこれからはむしろ国民の危機感を煽り、国民を操るだけ操った方が自分たちに有利になると思ったかのように、「緊急事態宣言」とか「首都封鎖」が明日にでも行われるような「空気」が作り出された。
東京五輪延期が決まった翌25日に小池都知事は緊急記者会見を開き、東京都の感染者数が41人と全国最多となったことを指摘し、「感染爆発 重大局面」というボードを掲げて、週末の外出自粛や平日の自宅勤務に協力を呼び掛けた。そして「首都封鎖」という言葉も口をつく。
海外にはパリやニューヨークなど「封鎖」されてゴーストタウン化した都市があり、その映像を見て恐怖を感じる国民も多いことから、この言葉を使うことは国民に恐怖を与え、権力に従わせるのに有効だ。しかし海外が「封鎖」という強制力によって国民を規制するのは、「個」が確立した世界があるためで、日本とは事情が異なる。
強制力を伴って規制すれば権力はその責任を負わねばならない。規制した結果生ずる損失を補償する義務が生じる。従って強制と補償はセットで打ち出され、それがあるから「個」は納得して従う。ところが日本の権力は「空気」の力で国民を盲従させることが可能だ。
2月に安倍総理は大規模イベントや学校の一斉休校の自粛要請をしたが、自粛であるから責任を追及されない。責任は自粛した側にある。そこから生じる損失補償についても同時に発表しなくとも許される。そして損失補償の実現には時間がかかる。
つまり権力者は「国民の命を守る」と恰好をつけて国民を従わせ、そのしわ寄せは国民が被るが、要請されればみんなで言う通りになろうとする「空気」が国民の側に生まれる。自粛要請を無視すると国民から寄ってたかって批判される。
26日に東京都は1日の感染者数が47人に増えたと発表し、小池都知事は東京都と隣接する関東4県の県知事とテレビ会議を開き、東京との往来の自粛要請を呼びかけた。もはや新型コロナウイルスとの戦いの先頭に立っているのは安倍総理より小池都知事その人である。
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