公文書改ざんで自死した財務省職員の「遺書」に涙したのはなぜか
フーテン老人世直し録(500)
弥生某日
週刊誌を読んで涙を流したことなど一度もないが、「週刊文春」に掲載された近畿財務局職員赤木俊夫氏の遺書と手記を読んでいるうちに涙が出た。そしてなぜ涙が出たのかを思った。
自殺せざるを得ないところに追い詰められた赤木氏に同情したからか。それもあるだろうがそれだけではない。トカゲのしっぽ切りで追い詰められ自死した人をフーテンは何人も知っている。だがその一つ一つに涙を流したことなどない。
組織の非情な論理に命を奪われた人に同情するより、組織の非情な論理に対する怒りが勝っていたからだ。ところが今回はそれと違った。赤木氏の遺書には、公文書改ざんを命じたのは当時の佐川理財局長で、誰もその指示には逆らえなかったとあり、それがまかり通った財務省を糾弾しているが、フーテンの目にはこれが一財務省の問題とは思えないのだ。
安倍政権の持つ体質というか、この国全体のありようと結びついて、赤木氏の悲劇は起きた。それがフーテンの考えである。従って赤木氏は現在の日本社会の犠牲者で、責任の一端は日本社会を構成する国民にもある。フーテンもその一人だ。その無念さが涙となって流れ出たような気がする。
これまで「森友問題」を巡ってブログに書いてきた要点を整理しながら赤木氏の悲劇を考えてみたい。まずフーテンは財務省が国有地を特定の者に有利に払い下げる例はありうると思っていた。例えば大手新聞社はみな国有地を払い下げられて本社ビルを都心に構えている。
従って「森友問題」が最初に発覚した時、「よくある話」の一つと思っていた。ところが問題は、その対象が安倍総理夫人が名誉校長を務め、子供たちに「教育勅語」を暗唱させる戦前回帰型の学校だった。それを国際社会に知られれば、安倍政権に対する各国の見方に影響が出る。
そこで払い下げを見直すなど穏便な方法で収めるのかと思ったら、安倍総理は「私も妻も関係していたら総理も国会議員も辞める」と国会で全面否認に出た。これにフーテンはびっくりした。「よくある話」が「相当にヤバイ話」が背後にあるとしか思えない対応だからだ。
安倍総理の答弁は自らが考えるより、秘書官たちから振り付けられたものであることは以前から分かっていたので、今井尚哉秘書官がこの問題に関与し、自分の関与が表に出ることを恐れ、全面否認という強硬姿勢を取ることで、問題の隠蔽を財務省に促す狙いがあったのではないかと思った。この総理答弁が赤木氏の悲劇の出発点である。
その後分かったことは、今井秘書官が通産省時代の部下を安倍昭恵氏の秘書官に付け、森友学園の理事長夫妻との面会などに同行させ、また財務省との連絡役もやらせていたことだ。森友学園の籠池前理事長は安倍昭恵氏の存在を財務省が知ったところから、国有地払い下げ交渉に「神風が吹いた」と語っている。
フーテンは当初、安倍総理側が籠池前理事長を「しっぽ切り」せず、囲い込んで口封じするのかと思っていたら、それも違った。「安倍ファン」を自認していた籠池前理事長を切り捨て、籠池前理事長の言うことを信用してはならないと国民に思わせるためか、大阪地検特捜部は補助金詐欺罪で前理事長夫妻を逮捕・起訴し、大阪地裁は前理事長に懲役5年という厳しい実刑判決を言い渡した。
安倍総理の国会答弁を受けて、財務省の佐川理財局長は「交渉記録はすべて破棄した」と国会で答弁する。それを「忖度」とメディアは表現したが、官僚が「忖度」するのは当たり前で、わざわざ言う必要もない。フーテンは逆に財務省は2度も延期された消費増税から安倍総理が逃げられないようにする戦術として、この問題を使い始めたと思った。
要するに安倍総理に貸しを作り、森友問題で守り抜くから消費増税をよろしくと言うためだ。その路線を忠実に実行したのが佐川理財局長である。徹頭徹尾「クロ」を「シロ」と言い続けたが、安倍総理を守るためではない。悲願の消費増税を実現するためである。その甲斐あって佐川氏は国税庁長官に上り詰めた。
ところが現場の近畿財務局には交渉記録が存在していた。しかもその記録には「筋の悪い案件」としての記載が随所に見られる。つまり現場の財務官僚は総理夫人との関係を誇示して値引きを迫る籠池前理事長に反発していた。それを押さえつけたのは、総理夫人の面倒を見ていた今井秘書官、そして消費増税を狙う財務官僚ではないかとフーテンは考える。
そこで「公文書改ざん」というやってはならない犯罪が現場に押し付けられた。抵抗しながらも逆らうわけにいかず、赤木氏は犯罪に手を染める。それだけなら自殺にまで追い詰められることはなかった。しかし自責の念に駆られる赤木氏が異動を希望したのに、異動はかなえられず、しかも国有地に関する資料がすべて職場から消えていた。
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