ランニングのように読書を習慣化する方法:シリーズ:読書を習慣化する(その1)
コロナのなかで家で過ごす時間が増えた。これを機にもっと本を読みたいと考える人も多いだろう。たまたま筆者は大量に本を読み、書くのを仕事にしている。大学教員として学生に本を読む習慣をつけさせる苦労もしてきた。その経験に照らし忙しい社会人向けに本の読み方をお話ししよう。
〇読書はランニングと同じ。 読むことを生活の一部にする
私たちは必要とあれば駅でも横断歩道でも走る。だがランニングを習慣にし、健康の糧とし、趣味としてマラソンを楽しみ、人生の充実にまでつなげている人は限られる。読書も同じだ。我々は毎日、ネットニュースやSNS、新聞雑誌など膨大な量の活字に接する。仕事や資格試験で必要な実務書も読む。だがこれは受け身の情報消費で読書習慣とは異なる。
ランニングが習慣の人は、健康や楽しみ、仲間作りなどを目的にする。読書習慣も同じだ。実務目的を超えて、楽しみや好奇心を満たしたい、さらに読書を通じて先を見通せるようになりたい、賢くなりたい、議論に負けないようにしたいなど鍛錬を目的に選んだ本をじっくり読みこなすのが読書習慣だ。そして読書は日常の習慣化することで辛さが薄まり、日常の知的生産のレベルが飛躍的に上がる。
だがランニングも読書も習慣化するまでは楽しいとは限らない。ピアノの練習やスポーツも同じだが最初のうちは辛さが先に立ってなかなかエンジンがかからない。一念発起で読み始めても途中で挫折、あるいは難しすぎて興味が続かない場合もある。そうなると受験勉強と変わらず全く面白くない。隙あればサボり、結局は仕事で必要な実務書を優先して読むことになりがちだ。しかし、それではあまりにももったいない。ランニングの場合、家の近所を隔日で2キロ走ることから始める人が多い。だんだん距離を伸ばし、ハーフ、そしてフルマラソンに至る人が多い。忙しい社会人が読書を習慣にする場合にも同じようなコツがある。いくつか紹介したい。
〇何から読み始めるか
何を読むか、選書は意外に難しい。社会人はどうしても仕事の周りの本、例えば「これからのデジタルトランスフォーメーション」「流通産業の再編展望」「ダイエットの仕方」等の実務書に手を出す。だが、これらは仕事の一部だ。読書習慣とは、すぐには役に立たない本をじっくり読んでいく。それが趣味の域を超えてじんわり人生を豊かにしてくれるところに意味がある。
要は書籍を通じて著者と対話し「教養」を身に着けるということだが、キョウヨウときくと大海を泳ぐような気がしてピンとこない。お勧めしたいのは、旅行の予定に紐づけること、そして高校時代に好きだった科目に立ち返ることだ。
旅行との紐づけは簡単だ。要は旅先の予習を深くするといい。海外出張で初めてスリランカに行くならまずはAmazonでスリランカと入れてみる。「地球の歩き方」などガイドブックに交じって新書や専門書が出てくる。数は限られているから書評を見て選べばいい。眺めているうちに建築家ジェフリー・バワーに興味を持つ人もいるだろう。あるいはアーユルベーダ、タミル人問題。僕の場合は隣国との関係をいつも調べる。するとインドと中国のはざまにあって、宗教も村々によってイスラム、仏教、キリスト教、ヒンズーの4つに分かれ仲良く共存している珍しい国だと気が付く。そこから派生して「仏教とヒンズーは似て非なるのはなぜか」、あるいはガネーシャなど魅力的なヒンズーの神様について気になり、寺院巡りの予習となる。行先が欧州ならオペラと美術館、庭園から派生してキリスト教とギリシャ神話に至るだろう。そしてオペラやバレーの歴史。全部が世界史の延長でやがてつながってくる。そのつながりの上に新たな訪問国の歴史を足していけば楽しい。
高校時代に好きだったけどあまり時間を使わなかった科目を振り返るのもいい。私の場合は大学は法学部。仕事では社会科学(経営学、経済学、政治学、社会学など)、さらに医療、介護、貧困、空港、通信など社会インフラや各種産業の話にもよく接する。仕事ではこれらの関連書を月に数十冊は読む(資料としての扱いで、ほとんどは流し読み、拾い読みだが)。だからこの辺の本は新鮮味がない。高校時代に立ち返ると心残りだったのは物理と生物。面白かったが仕事で触れることはない。それで当時の知識のアップデートかねて最初は「ディスカバリーチャネル」「NHKスペシャル(オンデマンド)」など映像から入った。すると宇宙論や量子論などが楽しい(全部は理解できないが)。イメージをつかんだあとは雑誌「Newton」の特集号がよかった。初心者にも図表を駆使して説明してくれるのでわかりやすい。そうしておいて最後に新書や単行本をよむと一流の学者の論がなんとなくわかってくる。
高校時代の振り返りという意味だと日本史と古典の連結も面白い。当時は忙しくてどっちも暗記モノと捉えてこなしていた。だが両方を繋げられたら面白いだろうとは思っていた。ある日、山本淳子さんの「源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり」(朝日選書)を発見。この本はまさに目からうろこが落ちた。文学作品自体の面白さもさることながら、書かれた背景や当時の政治との関連の面白さに目覚めた。古典作品には書かれた時代背景や政治的意図がある。そういう視点で源氏物語を再読し始めたら面白かった。資本主義も民主主義もlない世界。生活にも困らない宮廷貴族の世界で人々は何を考え、何に感動していたのか、特に恋愛がなぜ中心テーマになったのかなどストーリーというよりもエッセイ、日記文学と捉えると興味は尽きない。その流れで万葉集やら勅撰和歌集への興味が湧き始めた(内容よりも書かれた背景に興味を覚えるというのは職業病かもしれないが・・)。
さて分野と選書がだいたいできたら具体的にお勧めしたいのは春夏秋冬の各季節(ワンクール)ごとに2つのテーマを決めてそれに関する本を読む方法だ。これだと年に8つのテーマについて学べる。
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