大学生でも政治家に-若者から被選挙権18歳、供託金10万円を提言【若者政策推進議連第二回総会】
前回の記事(被選挙権年齢、供託金はどこまで下げるべきか?【若者政策推進議連第一回総会】)で報告した通り、2018年5月24日に発足した若者政策推進議員連盟(会長:自民党・牧原秀樹衆議院議員、通称若者議連)で、被選挙権年齢、供託金額引き下げについての議論が進んでいる。
6月12日には第二回総会が開かれ、若者団体からの提言、具体的な提言案について議論が進められた。
供託金は売名防止のため
第二回総会では、供託金額の根拠について、総務省自治行政局選挙部選挙課の中尾正英課長補佐にヒアリングをした上で、若者団体からの提言、国会議員同士での意見交換を行った。
日本では選挙に立候補する際に、一定金額(供託金額)を納入しなければならない。一定の得票率に達すれば、後日供託金は返ってくるが、一時的とはいえ、多額の金額を用意することが政治参加の大きなハードルになっているとも指摘されている。
この供託金制度は、「当選を争う意思のない候補者の乱立や売名目的のための立候補等を防止する」(総務省・中尾課長補佐)目的から設けられている。
現在では売名目的で立候補する人は多くないが、昭和30年代や40年代(1955年〜1974年)には売名目的での立候補が乱立したという。供託金額は物価変動に合わせて変動しており、昭和25年(1950年)、公職選挙法が制定された当時は衆議院議員が3万円だったが、順次上がっていき、現在では小選挙区が300万円、比例代表が600万円となっている。
一方で、日本の供託金額は世界的に見ても高く、諸外国では、アメリカやドイツのように、そもそもこの制度がない国も多く、あっても10万円程度と日本に比べると非常に安くなっている。
また、この供託金制度と関係するものとして、選挙の公営の仕組みが存在する。
「お金のかからない選挙」として、お金を持っていなくても選挙活動ができるように、公費で負担される制度だ。
その内訳は細かく決められているが、ポスターやビラ作成など、一部公費で負担される。総務省がまとめた結果によると、衆議院議員選挙の候補者一人あたりに選挙でかかる費用(公費)は180万円弱だという。
仮に候補者が乱立すれば、この公費が膨大に膨らむ可能性もあるが、供託金と同様に、一定の得票率に達しなければ候補者が自費で負担するものも多く、やはり売名目的で出馬する候補者が参加しにくい仕組みになっている。
供託金は一律10万円に
「当選を争う意思がない場合は180万円弱の負担を負う可能性がある。これが事実上、売名目的の出馬防止として機能していると思います。ここからさらに300万円を供託するのは意味がないのではないでしょうか」
供託金に関して、各若者団体から提言が行われ、早稲田大学政治経済学部3年で、早稲田大学政友会・副幹事長の吉田薫さんは、「諸外国に合わせて、供託金を一律10万円まで下げるべき」だと主張。
2018年4月に行われた練馬区長選に25歳で出馬した田中将介さんは、自身の経験から「供託金を下げて、もっと色んな人が挑戦できる環境を作るべき」だと語る。
「供託金は返ってきましたが、供託金100万円に加え、選挙活動で200万円が必要で、合計300万円。自分の貯金で200万円、もう100万円は親に頭を下げて借りました。実際選挙に出た際に『親にお金を借りるなんて恥だ』みたいなことも結構言われて。若い人にとっては、そういうハードルが政治参加しづらい環境につながっていると思います」
また、今回の提言に向けて、若者政策推進議連に登録している若者団体(44団体、総構成員は約3300人)を対象にアンケートを実施。
筆者(この若者議連の事務局を務める日本若者協議会代表理事)からはそのアンケート結果を報告した。
それによると、6割が「欧米諸国と同じ水準にすべき」として10万円への引き下げを主張、供託金制度自体の撤廃も2割存在した。
「供託金は撤廃すべき。20代の平均年収が200〜300万円台の現在、裕福な人しか政治家になれず、貧困層も含めた多様な価値観が政治に届かなくなってしまう」
「既に供託金の必要のない町村議会や金額の低い地方議会でも無投票当選が相次いでいる。極力参加のハードルを下げるべきであり、供託金は撤廃すべき。候補者が乱立し、選挙公費が膨らむ懸念もあるが、選挙公費も一定の得票率を獲得しなければ返金されず、問題はない」
被選挙権年齢は一律18歳に
また、現在は25歳以上もしくは30歳以上と、若い世代にとっての大きな参入障壁となっている被選挙権年齢についても提言が行われた。
慶應義塾大学法学部政治学科4年で、OPEN POLITICSの渡辺克也さんは「リーダーとして活躍できる若い政治家の誕生を期待したい」として、「一律18歳への引き下げ」を主張した。
また、早稲田大学政友会・副幹事長の吉田薫さんは、「20歳に引き下げるべき」だと主張。
「大学生は大学2、3年の時に就職を考え始めますが、その時に立候補できる方がいい。自分が立候補しなくても、立候補する友人がいることで政治がより身近に感じるきっかけになると思います。ただ、少年法との兼ね合いから、18歳までは下げない方がいいんじゃないかと思います」
これについても、若者団体にアンケートを実施したところ、約7割が「18歳に引き下げるべき」だと回答。
「すべて18歳まで下げて良いと思います。OECD諸国を見ても18歳が多い。政治に関心を持てる人を増やしていくためにも、同じ年代から政治家が出るくらい身近な存在になっていくと良いなと思う。若いから何もできないなどの意見もあるが、投票があるから、その点は問題ないと考えている」
「被選挙権年齢が高いことで、若者の民意が十分に反映されず、結果、若者の政治離れを助長していると思います」
「そもそも、被選挙権に求める資質(政治リテラシー等)と年齢が相関しているのか疑問。若くても早くから社会経験を積み、海外生活もして、インターネットで広範な情報を得ている若者もいる」
また、現在は衆議院と参議院選挙で被選挙権年齢が異なるが、それも「統一すべき」だという意見が多数を占めた。
「現状、被選挙権年齢の差をつけているが、実際に衆議院と参議院で構成員に大きな差があるとは思えない」
「仮に衆議院と参議院で違う役割を与えるのであれば、被選挙権年齢ではなく、完全比例代表制や性別など選出の方法で差別化を図るべき」
現状、都道府県知事は30歳にならないと出馬できず、これも「18歳に統一すべき」だという意見が多かった一方で、「まずは来年の統一地方選で様子を見るべき」という意見も存在した。
「10代の起業家などもいる現状では参議院議員になっても問題ない若者は十分存在すると思うが、まずは市区町村議会を18歳に引き下げて様子を見る方が良いのではないか」
被選挙権年齢は「18歳から」
こうした若者からの提言を受けて、国会議員を中心に、若者議連としての具体的な提言の検討を進めた。
被選挙権年齢については、「首長は1人しかいないので、18歳では早いのではないか」(国民民主党・青山大人衆議院議員)という意見もあったが、基本的には「すべて18歳に統一すべき」という意見が多数を占めた。
「前回の総会で申し上げた通り、私もすべて18歳に統一すべきだと思います」(日本共産党・本村伸子衆議院議員)
「選挙権が18歳に下がりましたけども、それは成人年齢を18歳に下げましょう、という議論の中で、先行的に選挙権を18歳に下げたんです。被選挙権においても将来的には18歳になるでしょうということで、日本維新の会の公約にすでになっています。やはり選挙に出る入り口、間口を広げることが大事。選挙で選ばれるわけですから、民意を信用しましょう、と。各選挙の年齢差も、本当に意味があるのか。何歳であってもセクハラや不倫をする。年齢で区切ることほど馬鹿げたことはないんじゃないか」(日本維新の会・浦野靖人衆議院議員)
供託金と選挙公費のバランスをどうするか?
一方、供託金については選挙公費とのバランスをどうするか議論が行われ、一つの案にまとめるまでには至らなかった。
「供託金は下げた方がいいと思うんですけども、今の日本の供託金制度は、選挙公営の仕組みとセットで設計されている。例えば、衆議院選挙はポスターも公費、はがきも公費、要はお金がなくても当選にあたって公費で負担されている部分もある。しかも供託金は返ってくる。そういう意味で、供託金を下げた場合に、公費も下げると、資金力がある人の方が選挙で受かりやすくなってしまう問題があると思います。海外で供託金10万円のところは公費をそんなに使っていないのではないでしょうか。そこはしっかり調べていく必要があると思います」(立憲民主党・落合貴之衆議院議員)
「密接に関係はしていますが、それぞれ別の制度趣旨があって、供託金は当選の意思のない売名を防ぐということ、公営につきましては、資金力がない候補者でも選挙で戦えるようにすること。公営が供託金と結びついているところは、真剣に戦うつもりがない人が公営をあてにして選挙を戦うことがないようにする意味合いもあります。ただ必ずしも、供託金があるから公営があると、セットで考える必要はないのかなと思っております」(総務省・中尾課長補佐)
「国政に出馬する前はサラリーマンでしたので、お金を供託することに対して高いなという意識がありました。あと、地方議員のなり手も少なくなっていて、地方議員の確保のためにも、公営の部分をなるべく多くしていただきたいと思っております」(国民民主党・緑川貴士衆議院議員)
「たくさん出馬すれば、その分公営の費用がかかる可能性がある。そこのバランスをどうするか。例えば、政見放送を止めて、公費負担を減らす代わりに供託金を下げるというのもありえる。もしくは、お金の勘定じゃなくて、たくさん出る方が大事だから、それぐらいの公費は税金で出す方が良いという考え方もあると思います」(自民党・小林史明衆議院議員)
「現時点で公営でやっているものに関して、本当に意味があるのか一個一個検証していく必要があると思います。例えば、政見放送よりも、討論会をやってそれをネットで中継した方が若者はもっと選挙に関心を持つかもしれない」(早稲田大学政友会・吉田薫)
「選挙運動にかかる費用よりも、その手前の政治活動にかかる費用の方が圧倒的に割合としては大きい。政治活動と選挙運動をこういう手法で変えて供託金をこう下げるというのがセットであると、下げやすいのかなと思います。具体的には、お金をあまり使わずに選挙運動ができるように、戸別訪問を解禁するのは必須だと思います。デジタルの手段を導入していくことも大事ですが、アナログのところで今まで制限されていた部分も、我々が提言していくべきだと思います」(国民民主党・城井崇衆議院議員)
「きな臭い話ですけど、首長選で1対1で争う場合、供託金が安いと別の陣営が相手の票を取るために、候補者を出すというのは実際にあるんですよね。そういう意味で、供託金についてはもっとしっかり考えた方がいいと思います」(国民民主党・青山大人衆議院議員)
供託金については、まだ議論が必要だという意見も多く、次回改めて検討していくことに。今国会中に第三回総会を開き、被選挙権年齢と供託金額引き下げについての提言をまとめる予定だ。
議論に参加したい若者団体は若者議連のHPから登録できる。