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静岡新球団くふうハヤテの21歳、西濱勇星が古巣オリックスとの対戦に闘志「誰にも打たれたくない」

菊田康彦フリーランスライター
4月20日の阪神戦で今季初勝利を挙げヒーローインタビューに答える西濱(筆者撮影)

 今シーズンからプロ野球(NPB)の二軍、ウエスタン・リーグに参入した新球団くふうハヤテベンチャーズ静岡。4月6日の時点では2勝14敗1分と大幅に負け越していたものの、7日のオリックス・バファローズ戦(杉本商事BS)で今季3勝目を挙げると、12日から本拠地のちゅ~るスタジアム清水(略称ちゅ~るスタ)で行われた広島東洋カープとの3連戦で2勝1敗と初のカード勝ち越し。19日からちゅ~るスタで阪神タイガースに3連勝し、阪神と入れ替わってリーグ最下位から脱出した。

 だが、23日からの対広島3連戦(由宇)は1戦目が降雨ノーゲーム、2戦目は雨天中止となり、3戦目は1対12の大敗。阪神がこの3日間で中日ドラゴンズに2勝1敗と勝ち越したため、くふうハヤテは再び最下位の6位に逆戻りとなってしまった。それでも4月はここまで15試合で6勝8敗1分と、開幕当初は想像もできなかったような健闘を見せている。

育成1位でオリックス入団も1年で戦力外に

 そのくふうハヤテが今日、4月27日からちゅ~るスタで2連戦を行う相手が、ここまで対戦成績1勝5敗と分の悪いオリックス。このカードに「絶対勝ちたい」と並々ならぬ闘志を見せているのが、昨年はオリックスの育成選手としてプレーしていた西濱勇星(にしはま・ゆうせい、21歳)である。

 西濱は群馬県の関東学園大学附属高校から独立リーグのBCリーグ、群馬ダイヤモンドペガサスを経て、育成ドラフト1位で2023年にオリックス入団。ウエスタン・リーグで3試合に救援登板して3回3失点、防御率9.00という成績に終わり、わずか1年で戦力外を通告された。

 昨年11月に行われた12球団合同トライアウトでは打者3人に対してノーヒット、2三振とアピールしながらNPB球団からのオファーはなかったものの、今年はくふうハヤテの一員として再出発。プロ野球ではエースナンバーと言われる18番を背負い、ここまで3勝を挙げている勝ち頭の早川太貴(前ウイン北広島)らと共に、先発ローテーションの一角を担っている。

群馬から駆けつけた祖父母の前でNPB”初勝利”

 今季4度目の先発登板となった4月20日の阪神戦では、初回こそ「ちょっとソワソワというかフワフワしてて、(試合に)入りきれてなかった」と2つの四球と自らのワイルドピッチであっという間に1点を失ったが、そこからは「腹を括るっていうか、開き直った」としっかり切り替えた。味方が1回裏にすかさず同点に追いつき、3回に五番ブラウリオ・バスケスの2点打で勝ち越すと、7回110球でマウンドを降りるまで相手に追加点を許さず、今季初勝利を挙げた。

 西濱は昨年もウエスタン・リーグでは白星がなかったため、ファームとはいえこれが嬉しいNPBでの”初勝利”。群馬から応援に駆けつけていた祖父母への、最高のプレゼントとなった。

 その西濱の持ち味は、自身でも「生命線」と言うストレート。スピード自体はオリックスや独立リーグで投げていた時のほうが出ていたというが「去年は空振りがあんまり取れなかった。153(キロ)でもファウルになったりしてたんですけど、今年は146(キロ)とかでもけっこう空振りが取れるんで」と、「打者の手元でのひと伸び」への手ごたえを口にする。 

「そもそも去年まではチェンジアップしかなかった」という変化球も、先発として投げるようになった今は他にカットボール、スライダー、ツーシーム、フォークとバリエーション豊富。「変化球でも空振りとかファウルを取れるんで、意外といいですね」という。ただし、この辺りの球種にはあまり球速差がないため、「もっと緩急をつけたほうがいい」との首脳陣のアドバイスにより、新たにカーブも投げ始めた。

現在は防御率ウエスタン6位、奪三振は3位タイ

 わずか3試合の登板に終わった昨年とは違い、今年は既に5試合に登板。4度の先発では1勝3敗ながらすべて5回以上投げ、1試合の救援を含めた防御率3.00はウエスタン・リーグ6位、奪三振26は3位タイにランクされている。

「去年はその、何ていうんですかね、投げる以前の話だったんで。今年はこうやって先発で投げさせてもらって、チームの勝ち負けに関われるっていうのがすごいあるんで、毎試合楽しいです」

 もっとも今の西濱には大きな目標がある。ファームのみの球団であるくふうハヤテには一軍はないが、育成とはいえオリックスでプレーしていた彼は、アマチュアや独立リーグの経験しかない選手と違ってシーズン途中でも一軍のあるNPB12球団との契約が可能だからだ。

「(NPBに)戻るとしたら『すぐに一軍で行ける状態』じゃないと」

「僕らが(NPBに)戻るとしたらそれはもう『ファームで使える』じゃなくて『すぐに一軍で行ける状態』じゃないとっていうことなんで。そうなると球速も(NPB球団が)獲るに当たっての1つの指標になると思うんで、もうちょっと平均球速とか精度も上げていきたいですね。まあでもずっと、去年から『一軍で投げる』っていうことでやっていたので、今のところは順調かなって感じです。スピードもたぶん、今のままやってたらついてくると思うんで、地味にやり続けるって感じですね」

 そのためにも1試合1試合、どの登板も大事になるのは間違いないが、先発が予想されるこの週末のオリックス戦にはやはり特別な思いがある。

「目標は完全試合です……あ、ウソウソ(笑)。いやでも、チームが勝てたらとりあえずオッケーですけど、ホントに誰にも打たれたくないんで。とにかく点を取られないで、絶対に勝ちたいです」

 昨年10月の戦力外通告からもうすぐ7カ月。ひと回りもふた回りも成長した姿を、この静岡の地で古巣相手に見せる。その先にあるNPBの一軍という大きな目標を見据えて──。

(文中の今季成績等は4月26日現在)

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フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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