Yahoo!ニュース

今年の『紅白歌合戦』、メドレー激減の異変──【2021年版】データで読み解く『紅白歌合戦』:2

松谷創一郎ジャーナリスト
筆者作成。

メドレー急減の怪

 3日後に迫った『NHK 紅白歌合戦』。27日には曲順も発表され、ラインナップも出揃った。今年は、MISIAが昨年に続いて大トリを飾ることとなった。

 だが、そんな今年の『紅白』には異変が生じている。紅組と白組の全43組に、メドレーを披露するアーティストが一組もいないからだ。

 メドレーとは、1組のアーティストがダイジェスト的に2曲以上を披露することだ(たいていは2曲のみ)。今年は特別出演の細川たかしが2曲のメドレーを披露するが、あくまでもそれは企画枠。

 「紅白対決」として出場するアーティストから、メドレーが突然消えたのである──。

2010年代に増えたメドレー

 近年の『紅白』では、メドレーを披露するアーティストがとても目立っていた。たとえば過去2年では以下のような状況だった(企画枠は省く)。

  • Hey! Say! JUMP「紅白SPメドレー 〜みんなでエール2020〜」(2020年)
  • LiSA「アニメ「鬼滅の刃」紅白SPメドレー」(2020年)
  • Perfume「Perfume Medley 2020」(2020年)
  • 郷ひろみ「筒美京平 トリビュートメドレー」(2020年)
  • 嵐「嵐×紅白2020スペシャルメドレー」(2020年)
  • DA PUMP「DA PUMP 〜ONE TEAMメドレー〜」(2020年)
  • King & Prince「King & Prince 〜紅白スペシャルメドレー~」(2019年)
  • MISIA「アイノカタチメドレー」(2019年)
  • RADWIMPS 三浦透子「天気の子 紅白スペシャル」(2019年)
  • TWICE「Let's Dance Medley 2019」(2019年)
  • ゆず「紅白SPメドレー 2019-2020」(2019年)
  • 関ジャニ∞「関ジャニ∞ 前向きにきばってこーぜ! OSAKAメドレー~」(2019年)
  • 松田聖子「Seiko Best Song Medley」(2019年)
  • 氷川きよし「紅白限界突破スペシャルメドレー」(2019年)
  • 福山雅治「デビュー30周年直前SPメドレー」(2019年)
  • 嵐「嵐×紅白スペシャルメドレー」(2019年)

 昨年は11%、一昨年は過去最多の25%がメドレーだった。それが今年は企画枠の1組のみ。2%にまで急減した。あまりにも不自然な減り方だ。

 歴史を振り返れば、メドレーは80年代後半頃から増えてきた(図1)。番組が現在に続く2部制となり、放送時間が広がって出演者や企画枠も増えたからだ。

 だが、本格的に増えるのは2010年代に入ってからだ。とくに目立つのはジャニーズで、嵐は初出場の2009年から昨年までの12年間すべて「スペシャルメドレー」だった(昨年は特別枠で「カイト」も披露している)。

図1:筆者作成(2021年12月28日現在)。
図1:筆者作成(2021年12月28日現在)。

2010年代に新曲割合が低下

 メドレーの著しい増加は、『紅白』がなかば「歌合戦」のコンセプトではなくなってきたことを示唆している。それよりも複数曲を見せることで、アーティスト本人をアピールすることに重点が置かれている。そして、これによって減っていったのは、新曲(2年以内に発表された曲)の披露だ。

 新曲は、『紅白』の視聴率が急落する80年代後半から割合が下がっていった。前述したように、この頃から出演枠が拡大したことで、結果的に功労的な扱いも増え、それによって新曲も減っていった。

 なかでも演歌勢は、とくに新曲を発表することが少ない。その代表的な存在が、今年44回目の出演となる石川さゆりだ。石川が特異なのは、2008年以降は「天城越え」と「津軽海峡・冬景色」を1年ずつ交互に歌っていることだ。

 それは演歌に対する特別扱いのように思えるが、それ以前は演歌でも新曲割合が多かった。1984年にはその割合が98%にまで達し、この年は都はるみの引退によって視聴率が78.1%にまで高まった。現在のほとんどの演歌が流行曲(各時代のヒット曲)でないことは自明だが、80年代はポピュラー音楽(流行曲)だったのである。

 だが、新曲の割合が著しく減るのは2010年代以降のことだ。2015年にはついに半分を割り、翌2016年には44%と過去最低を記録する(図2)。そしてこのタイミングがメドレーの増加と重なるのだった。

 メドレーの増加や新曲披露の減少──それは、『紅白』がその年に流行した単一の楽曲を披露する場ではなくなっていることを意味していた。

図2:筆者作成(2021年12月28日現在)。
図2:筆者作成(2021年12月28日現在)。

「メドレー禁止」に込められたメッセージ

 が、今年は2010年代以降にさらに強まってきたメドレー増加に突然ストップがかかった。そして、これによって新曲割合もふたたび上昇傾向を見せている(図3)。

 年によって上下はあっても、突然メドレーが(企画枠以外で)ゼロになるのは明らかに不自然だ。よって、これはおそらくNHK側が出演者に「メドレー禁止」の条件を出したのだと推測される。フル尺かどうかは始まってみるまでわからないが、1曲にこだわったということだ。

 とはいえ、それは「歌合戦」のコンセプトに先祖返りすることを意味するわけでもないだろう。もはやそのコンセプトは形式的でしかなく、昭和の時代のように応援合戦をやったりその勝敗をめぐって盛り上がるようなことはない。

 おそらく「メドレー禁止」は、シンプルに1曲をしっかり披露することに重点を置くためなのだと推察される。それは、『紅白』がアーティストのプロモーションの場ではなく、しっかりと歌(曲)を聴かせるステージだというメッセージなのかもしれない。

図3:筆者作成(2021年12月28日現在)。
図3:筆者作成(2021年12月28日現在)。

■関連記事

・『紅白歌合戦』、ジャニーズ頼りからの脱却か?──SMAP・TOKIO・嵐がいない大みそか(2021年12月24日/『Yahoo!ニュース個人』)

・1980年代の『紅白歌合戦』になにがあったのか──メディアの変化、そして歌謡曲からJ-POPへ(2021年12月7日/『Yahoo!ニュース個人』)

・“しがらみ”から抜け出せない『紅白歌合戦』──中途半端に終わった2020年と今後のありかた(2021年1月2日/『Yahoo!ニュース個人』)

・紅白落選も必然だった…AKB48が急速に「オワコン化」してしまった4つの理由──AKB48はなぜ凋落したのか #1(2020年12月27日/『文春オンライン』)

・なにをやっても文句を言われる『紅白歌合戦』──「国民的番組」としての期待と多様な日本社会とのギャップ(2017年12月31日/『Yahoo!ニュース個人』)

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

松谷創一郎の最近の記事