新生・日本海リーグの船出 開幕戦は富山GRNサンダーバーズが先勝
■新生・日本海リーグが開幕
日本海リーグが船出した。
これまで外国人選手を含めNPBに計31選手(石川15人、富山16人)を輩出してきた、日本の独立リーグ球団の中でも老舗である石川ミリオンスターズと富山GRNサンダーバーズ。創設メンバーだったルートインBCリーグから分離し、昨年は日本海オセアンリーグで新たな取り組みを試みようとした。しかし紆余曲折あり、今年はこの2球団だけで新リーグを立ち上げることとなった。それが日本海リーグだ。
例年に比べてやや遅い開幕とはなったが、4月29日、富山県黒部市の宮野運動公園野球場で日本海リーグ最初の試合を開催した。
オープニングセレモニーであいさつに立った富山球団の永森茂社長は「このリーグだからこそできる、さまざまなことにチャレンジしていきたい。そして、光る原石を見つけて大きく育てるという方針のもとに頑張っていきたい」と述べ、この2球団からNPBのみならずメジャーリーグなど世界へも羽ばたく選手が出現してほしいと夢を描く。
この日をスタートに40試合の直接対決が組まれる。そのほかNPB球団のファームとの対戦に加え、IPBLに加盟したことによって地元の社会人や大学との交流試合など、昨年はできなかった試合なども企画されている。
また、独立リーグ日本一を決めるグランドチャンピオンシップにも参戦できるという楽しみも生まれた。
開幕ゲームは全日本プロレスの安齋勇馬選手による始球式で幕を開けた。
では今回は4月29日の開幕戦を振り返ろう。
■4月29日 宮野総合運動公園野球場
◆ランニングスコアとバッテリー
石川 000 000 110=2
富山 020 100 13×=7
石川…●村上(6.1)・藤川(0.2)・青山(1)―植
富山…〇瀧川(7.0)・日渡(1)・快(1)・山川―大上
◆経過
先制したのは富山だった。二回、1死一、三塁の場面で大上がタイムリーを放ち、なおも一、三塁で圭汰も連打で2点目をたたき出した。
富山は四回にも墳下、石橋の4番5番コンビで1点追加。七回にも松重のタイムリー二塁打、さらに八回には1死一、二塁からまたもや大上が左中間を割ってダメ押しの2点を挙げるなど、3得点をマークした。
石川も七回に押し出しの1点、八回に内野ゴロで1点を刻み、九回もチャンスは作ったが、反撃は及ばなかった。
富山の開幕投手・瀧川は六回まで2安打無失点、七回に先頭から4連続四球と崩れて1失点。無死満塁で降板したが、バトンを受けた日渡が3者連続三振でスタンドを沸かせた。最後は山川が走者を背負いながらも無失点で締め、7―2で富山が勝利した。
■吉岡雄二監督(富山)に聞く
◆瀧川優祐について
吉岡雄二監督は、まずは開幕マウンドを託した瀧川優祐投手について「もともとテンポのいい子。先取点を取ったあとくらいからリズムが出てきた。アウトの取り方も非常によかった。本来のピッチングができたんじゃないかな」と讃えた。
右のサイドスローで、インステップする。「変則気味で投げる中での球筋で、ちょっと芯をズラすところが特徴」とし、テンポよく球数少ないピッチングは味方も守りやすく、また攻撃に転じやすかったようだ。
オープン戦では5回が最長イニングだったが、インターバルを挟んで六回まで順調に進んだ。さらに未開の領域である七回のマウンドにも送られたが、ここで制球を乱して無死満塁のピンチを作り、押し出しの1点を与えた。
「オープン戦でもやっていない負荷のところまでいったので、七回に関してはコントロールが難しかったと思うけど、あそこまでいけたのはよかった」。
球数と本人の状態を見ながら継投のタイミングを計っていた吉岡監督は「3点差あったので」とどっしり構え、満塁になってさらにもう1人の対戦を見てから交代させた。四球の押し出しで失点はしたが、この対戦は経験として後に活きることだろう。
◆日渡柊太について
代わった日渡柊太投手が見事だった。宮沢和希選手をカットボールで空振り、大谷和輝選手を147キロのストレートで見逃しと連続三振を奪うと、倉知由幸選手をカット2球で追い込んだあと、この日の最速149キロで空振り三振に斬った。わずか10球の“奪三振ショー”だ。
「オープン戦でも回の途中は経験していない。非常にプレッシャーのかかる場面だったけど、自分の持っている力を出してくれ、三者三振で流れを引き寄せてくれた」と相好を崩した吉岡監督は、「まだまだこれからスピードも変化球のキレも上がる」と、さらなる伸びしろに期待している。
ストレートのパワーはもちろんだが、変化球でもストライクがとれるところも強みで、「僕が見た中で、今日は一番いいボールを投げていた」と花丸を与えていた。
◆大上真人について
攻撃については「先取点を取れたのが非常に大きかった。チームを元気づけ、リズムをもたらせてくれた」と大上真人選手の殊勲打に感謝する。「大上と圭汰、下位打線がつながると非常に得点が入りやすい。今日はいいものを出してくれた、粘りも含めて。いいつながりだった」と満足げに振り返った。
キャッチャーとしても「ワンバンも止めていたし、練習の成果が出た」と賛辞を贈り、「去年は3番手のキャッチャーだったので、実質、今年が1年目みたいなもの。かなり緊張しているように見えたけど、要所要所は冷静にできていた。メイン(正捕手)でやっていく自覚もあると思うので、勉強しながら、いろいろと話しながら成長してほしい」と目を細めていた。
◆打撃、ほか
しっかり積極的にスイングし、粘りも見せた雷鳥打線。「積極的にというところは基本線にある。積極的の中身は選手によって違うけど。どんどんいく中で、今日はしっかりトライしにいけた。石橋(航太)も非常にいいものを出してくれた。これからが楽しみ」と、指揮官も教え子たちの姿勢に賛辞を惜しまなかった。
「声出し応援も解禁になって、お見送りも復活した。選手もファンの人たちとの距離を近く感じると思う。今日も『ナイスゲーム』とか『ありがとう』という言葉をかけてもらって、そこが一番よかったかなと思います」。
完全にではないが、かつての独立リーグの景色が戻りつつあり、吉岡監督自身もファンの応援のありがたみを改めて嚙みしめていた。
そして「社長も挨拶で言っていたように、原石を育てるというところも考えながら戦う。同じ相手と40試合戦うことは難しいところもあるけど、いろんな選手を起用しながら最後まで落ち着いてやっていきたい」と、翌日以降のゲームに目を向けていた。
■各選手のコメント
◆瀧川優祐
栄えある新リーグの開幕投手を任された瀧川投手は「強い気持ちで」向かっていったと振り返る。「先取点が欲しかったので、攻撃に流れがいくように」とテンポを意識したという。
「六回までは自分の思いどおりテンポよく投げられたのでよかったんですけど、七回に崩れてしまったのは課題です。テンポを意識しすぎて置きにいって、それがフォームに出てしまった。(日渡投手には)すごく感謝しています」。
スタミナ的には問題なかったと強調するが、イニングの途中で、しかもピンチを作っての降板には悔しさを滲ませる。しかしこれを糧とし、次回登板に活かしていくことを誓う。
自己最速146キロ(この日は143キロ)のストレートにスライダーとカットボールが持ち球だ。中学2年でピッチャーを始めたときからサイドスローで、踏み出しもインステップだったという。
「同級生にオーバースローのすごくいいピッチャーがいたので、サイドスローのほうがいいかなと。でも、自分でも横のほうが投げやすかったので」。
完全なサイドよりやや高いが、「僕の感覚的にはサイドです」とうなずく。
4日前に告げられた開幕投手にも至学館大学時代と変わらない調整で、平常心をもって臨んだ。前日はいつもどおり自炊で、豚肉を焼きマカロニサラダを作って食べ、緊張することもなく眠りについた。
初勝利のウィニングボールは「親に見せたい。帰ったら実家に置いておこうと思います」と笑顔を見せる。「次は無失点で、テンポよく投げきりたい」。第一歩を踏み出した。ここからいくつもの白星を積み重ねていく。
◆日渡柊太
一発逆転のピンチを救った三者連続三振だった。試合後のお立ち台で「打たれるわけにいかないと思って投げました」と言うと、拍手喝采を浴びた。
「投げさせていただいたことにまず感謝している。内容的にも満足できる結果だったので、これに驕らず次も頑張っていきたい」。
強気でぐいぐい攻めるピッチングとは打って変わって、試合後のコメントは非常に謙虚だ。
そろそろ出番だとブルペンで肩を作っていたので、試合は見ていなかったという。だが、満塁という状況だけは聞かされて送り出された。
「そんなノーアウト満塁っていう意識もなく、マウンドに行ったら『満塁だなぁ』みたいな感じだったので、特別なアレはなかったですね」。
プレッシャーも感じず、飄々としている。ただ、先発・瀧川投手の勝ちだけは守ってあげたかった。
初対戦の石川打線に、自信のあるストレートがどれくらい通用するのか試したい思いもあった。スタンドのどよめきも耳に入らず、キャッチャーだけを見つめて腕を振った。「前に飛ばされたら負けだなくらいに感じている」と、三振にこだわっている。
この日は自己最速の153キロには及ばなかったものの、スピンの効いた149キロは数字以上の威力を感じさせた。また強気にインサイドを攻める度胸も満点だ。
加えて変化球のコントロールもいい。カットボールはカウント球にも決め球にも使える。スライダーとチェンジアップも持つが、この日は投げなかった。
“らしい”ピッチングで鮮烈な自己紹介とした日渡投手。今後、NPB球団のスカウトたちがこぞって視察に訪れるであろうと確信させてくれた。
◆大上真人
打っては2安打3打点、守っても4投手を好リードして2失点に抑え、開幕勝利の立役者となった大上捕手。「開幕戦、勝てたことが一番よかった」と、まずはチームの勝利を喜ぶところはキャッチャーらしい。
試合後のお見送りでファンから「村神様」をもじって「大神様」と声をかけられ、照れ笑いしていた。
打席では「後ろにつなぐこと」と「強くスイングすること」を意識していたという。それが結果として出たことに「ホッとしたというか、うれしい」と笑顔を見せる。
守りではどんなボールでも止めるつもりで、投手には「思いっきり投げてきて」と口にしていた。そのとおり、ワンバウンドのボールも懸命に止めていた。
「『一つ一つ』というのを一番意識していた。普段から『流されないように』というのは言われているので、しっかり『一人一人』であったり、『一つ一つのプレーをしっかり最後までやる』というのを意識してやっている」。
それが快勝の要因であったと振り返っていた。
富山で2年目を迎えるが、昨年は3番手捕手。今季は吉岡監督から「メインのキャッチャー」と正捕手を明言されている。
「(昨年まで正捕手だった)谷口さんの代わりになろうとか、なれるとも思っていない。自分は自分なりにやっていくのがベストだと思う」と気持ちを引き締める。昨年も出番は少ないながらも、出場したときには見事なスローイングで走者を刺し、長所をアピールしていた。この試合でも盗塁刺は2つ記録した。
「今、一番の課題はブロッキング、キャッチングです。これまで捕りにいっていたけど、もっと近くで捕るように工夫しています。構えとかNPBの選手を参考にしますし、身長が小っちゃい(161cm)ので甲斐拓也選手が送球やステップをどういうふうにしているのか動画を見たりもしています」。
ただ、すべてを真似るのではなく、取捨選択して自分に合うものを取り入れている。
「今年はやってやろうっていう気持ちが一番強い」。
小さい体に漲る強い闘志。扇の要には大上真人がどっしり座る。
◆石橋航太
第1打席でショートのグラブを弾く内野安打(リーグ初ヒット)を放つと、その後も安打を重ね、開幕戦でいきなりタイムリー1本を含む3安打と気を吐いた。最終打席でも四球を選び、相手を突き放す貴重な2得点につなげた。
「1打席目でヒットが出ると、次の打席もいい感じでバットが振れるんです。実は最近、バットが全然振れてなかった。だから、とにかくバットをしっかり振るということを意識して臨みました」。
「振れないから振ろう」―。そうは思っても、なかなか振れるものではない。そこでアドバイスをくれたのが細谷圭コーチだ。「振れるスイングの仕方を教えてもらったら、振りやすくなった。あまり力を入れなくても振れる感じが身についてきた」という。
さらに引っ張りの意識が強すぎることも指摘され、ライト方向に意識を向けるようにした。結果的にヒットの方向はすべて左ではあったが、逆方向を意識することでボールをしっかり引きつけることができた。
大学時代は出場機会に恵まれず、NPBスカウトの目に留まることもなかった。しかし「野球を続けたい。ここで力をつけて、上でやりたい」と意気込む。「それにはやっぱ、飛び抜けた武器が必要だと思う。もっとパワーをつけて、長打を打っていかないと」とパワーを磨くため、ウエイトトレに力を入れ、食事もバランスよくしっかり摂ることを意識している。
富山県は魚津市出身だ。富山商業高校から金沢星稜大学を卒業後、富山に戻ってきた。地元の球団からのNPB入りを誓う。
■“ミニマムリーグ”が大きく飛躍する
今年の開幕戦は黒部市の宮野運動公園野球場だったにもかかわらず、522人のファンがつめかけ、大いに賑わった。「グッズもかなり買っていただいた」と永森社長も目尻を下げていた。
リーグの瀬戸和栄代表は「世界一小さなミニマムリーグ」と表現したが、これから大きく飛躍することが期待できるリーグが北陸に誕生した。
次回は2戦目、4月30日の対戦をお伝えする。⇒(逸材ぞろいの日本海リーグ 開幕2戦目のシーソーゲームを制したのは・・・)
(表記のない写真の提供は富山GRNサンダーバーズ)
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