逸材ぞろいの日本海リーグ、開幕2戦目のシーソーゲームを制したのは・・・
■「黒部市民の日」は1時間45分遅れで開催
4月29日に開幕した新生・日本海リーグ。開幕戦に続いて翌30日も黒部市の宮野運動公園野球場で開催された。この試合は「黒部市民の日」と銘打たれ、黒部市民によるファーストピッチや黒部市に関する景品が当たる抽選会が行われるなどし、賑わいを見せた。
(開幕戦の模様は⇒「新生・日本海リーグの船出 開幕戦は富山が先勝」)
今年の富山球団には富山県出身の選手が7人(石灰一晴=射水市、大島嵩輝=砺波市、林悠太=入善町、島村功記=高岡市、武部拓海=砺波市、石橋航太=魚津市)おり、中でも快投手は黒部市出身だ。それぞれ家族や友人が応援に訪れ、大きな声援を送っていた。
この日は前日からの雨が午前中まで降り続き、やむのを待ってグラウンド整備が行われた。吉岡雄二監督も自ら手押し車で砂を運び、試合開催に向けて汗を流した。「黒部市民の日」をなんとしても遂行しようと多くの人が尽力し、1時間45分繰り下げて14時15分になんとかプレーボールにこぎつけた。
気温が低く、さらに強風の中での開催となったが、356人のファンは最後まで声を嗄らして応援していた。
■4月30日 宮野総合運動公園野球場
◆ランニングスコアとバッテリー
石川 101 000 020=4
富山 000 102 02×=5
石川…香水(5)・宝峰(1)・藤川(1)・●伊澤(1)―植
富山…林(5)・大島(2)・石灰(0.2)・〇快(0.1)・S山川(1)―大上
◆経過
初回から石川が積極的だった。併殺で2死となったあと、左越え二塁打を放った吉田を、高木が中前打で還す。さらに三回、阿部が初球を振り抜き、ライトフェンス直撃の二塁打で追加点を挙げる。
しかし富山の先発・林は五回までこの2点でしのぎ、六回からの2イニングを大島がパーフェクトに抑える。投手の好投に応えるように雷鳥打線は四回、墳下の犠飛で1点返し、六回には墳下、島村の連続タイムリーで逆転した。
すると八回、今度は石川の反撃だ。18歳ルーキー・石灰を攻めたて、2死二、三塁からベテラン・宮澤の2点タイムリーで再逆転した。
しかしその裏、富山は2本の犠飛で2点を追加して再々逆転に成功し、最後は連投の山川がシーソーゲームにピリオドを打った。5―4で富山が連勝。
■吉岡雄二監督(富山)に聞く
◆林悠太について
「試合時間も遅れたところで試合に入るのは難しかったと思う」と、まずは先発の林悠太投手を労わった吉岡雄二監督。
「最初はリズムを少しつかめなかったと思うけど、四回、五回は自分のリズムを作れて、いいピッチングができていた」。
四回を三者凡退に抑え、五回も打ち取った当たりが風に流されるというハードラックがあったが、二塁にランナーを背負いながらもしっかり耐えて、無失点で終えた。5回2失点の初登板に、吉岡監督は及第点を与えた。
「5イニング投げたのも初めてなので、ゲームを作ってくれてよかった」と讃え、次回登板への期待も口にしていた。
地元・入善町出身ということでスタンドには横断幕が掲出され、大きな声援が送られていた。桜井高校時代の保護者会のみなさんだ。もちろん、ご家族も熱い眼差しで応援されていた。
自身の役割を果たした林投手は降板後、守備から帰ってくるチームメイトたちをベンチの最前列で出迎えていた。次の登板が楽しみである。
◆大島嵩輝について
六回、七回と2回完全だった大島嵩輝投手には「しっかり投げ込めている部分があります。サイドからっていうタイプで、なおかつ緩急もうまく使えるので、バッターがタイミングをとりづらいというのが特徴。バットをしっかり振らせない」と評価を与える。スピードガン表示の数字以上のキレを感じさせる投手だ。
オープン戦から見せていた姿を公式戦の初登板でもしっかりと出し、予定の2イニングスを完璧に抑えた。今後は「もう少し経てばロングも」と言い、「ワンポイントからいろいろなバリエーションがある中で起用ができる選手。いてくれると戦力として非常に頼もしい」と、さまざまな役割を担ってくれることを期待している。
◆石灰一晴について
18歳の石灰一晴投手は先頭の山内詩季選手を左飛に抑えたものの、吉田龍生選手、高木海選手に連打を浴び、2死二、三塁から宮澤和希選手にスライダーを引っ張られて2失点。逆転を許し、連続四球で満塁としたところでスイッチした。
“ホロ苦デビュー”とはなったが、しっかりと腕を振り、若者らしい活きのよさを見せた。
「初めて投げるのが八回の1点リードというのはプレッシャーがかかったと思うけど、不安がって投げるというよりは少し力み加減くらいで投げていた。そのへんは気持ちをしっかりもって投げてくれたんじゃないかと思う」。
その投げっぷりを讃える吉岡監督は、交代したときにも「よく投げたな」と声をかけたことを明かす。
◆快について
石灰投手のあとを受けた快投手については、「昨日は自分なりに芳しくなかったと思うけど、非常に落ち着いてバッターをしっかり抑えてくれたんで、今日は別人に見えました」と笑いを交えて語る。
前日の開幕戦の登板では1回を1安打、2四球、1死球で1失点とやや荒れたが、この日は2死満塁をきっちり火消しした。「これが本来の快だから」と、吉岡監督も目を細めていた。
◆島村功記について
六回にタイムリー二塁打、八回にも同点犠飛を放った島村功記選手には、打線の核として全幅の信頼をおく。
「オープン戦から非常にいい姿を見せてくれていて頼もしい。今日は島村が4番に座ったことで打線に厚みが出てくると、試合をやってみてあらためて思った」。
二塁打も左から右に吹く強風に戻されてフェンス直撃となったが、逆風でなければおそらく柵越えしていただろう。
◆石橋航太について
吉岡監督は「石橋は実戦派」だと評する。「なるべくランナーがいる可能性のある打順で打つほうが、力を発揮するタイプ」とのこと。その言葉どおりに八回、石橋航太選手の犠飛が逆転の勝利打点となった。
「チャンスを作ってくれて石橋のところで1本出たらと思っていたけど、最後にここでというところでしっかり犠牲フライを打ってくれた。非常に自分の力を出してくれているなと思っています」。
4番に続く5番もきっちり機能し、吉岡監督も手応えを深めていた。
■各選手のコメント
◆快
八回、逆転されてなおも2死満塁という絶体絶命のピンチでマウンドに上がったが、気持ちは落ち着いていたという。「後輩の一晴がすごい顔をして降りてきたので、ここは先輩として抑えなければ」と心の中は燃えていた。
なにより「昨日は開幕戦というのもあって、力が入って不甲斐ないピッチングをしてしまった」と反省し、地元黒部市の後輩たちにいいところを見せたい思いもあった。森本耕志郎選手をショートゴロに抑えると、“快スマイル”を炸裂させた。
「昨日は昨日で切り替えて、今日は今日で絶対に抑えてやろうと思いました」。
昨年はドラフト候補として注目され、NPB数球団から調査書も届いたが、指名はなかった。不退転の覚悟で臨む今季は登録名を「松原」からファーストネームの「快」にし、心機一転戦う。
「昨年は1年目というのもあって探りながらというのがあったけど、その昨年の経験が活きている。NPBとも試合をしたし、この冬もけっこう追い込んできた。トレーニングは誰にも負けてないと思う。そういった意味で、マウンドに上がれば抑えられるという自信がある」。
昨年は防御率や勝ち負けなどの数字にこだわりすぎていたと振り返る。しかし、そこじゃないと気づいた。
「今年は1試合1試合しっかりアピールして、やりきりたいと思います」。
瞳に強い光を宿し、快投手は決意を新たにしていた。
◆島村功記
実に頼もしい4番だ。勝ち越しタイムリーに同点犠飛と、2打数1安打で2打点の大活躍だった。
「4番だからと、逆に気負わないようにしています。ただ、自分のスイングであったり、自分の考えの中で打席に立つということを意識していたら、結果がついてきました」。
浮かれることなく、冷静にどっしりと腰を据えている。踏ん張っている投手を見ながら、なんとか点を取って楽にしてあげたいという気持ちが強いのだ。
オープン戦から続く好調な打撃の要因に「スイング軌道」を挙げる。「ボールの軌道に対してスイングの軌道をどうもっていくか。冬から、体を縦に使うということを意識しながらやってきて、今はそれがいい感じに出ている状態」と説明する。
縦に使うことで「ボールの軌道に対してバットの軌道を長く入れられたり、体がうまく使えたりするので、飛距離も出ます」と話すとおり、この日も風さえなければ第1号になっていたであろうという当たりを飛ばしていた。ボールを点ではなく線でとらえらえているようだ。
「今年は1年間、ケガなくやりたい。NPBを目指しているので結果も求められてくる。その中で自分自身の考え方だったり、自分のスイングとかを強めていけたらと思います」。
夢の実現に向かって、雷鳥打線の中核はバットを振り続ける。
◆石橋航太
前日の開幕戦に続いての活躍だ。この日はセンターへの勝ち越し犠飛で、勝利を呼び込んだ。勝利打点で初のお立ち台にも呼ばれ、「いやぁ…初めてなんで、何言ったらいいかわかんなかったです」と照れ笑いした。
「1、2、3番が作ってくれたチャンスを生かすことができたのは、調子が悪い中でよかったと思う」。
最終打席を迎えるまでの3打席が遊ゴロ、左飛、三邪飛だったことを「調子が悪い」と表現して反省する。とくに第2打席は2死三塁、第3打席は1死二、三塁とチャンスだっただけに悔しかったようだ。
監督からは「チャンスに強い実戦派」というお墨付きをもらっている。実際、オープン戦から打点も挙げている。「自分でもビックリ」と謙虚だが、「今のところランナーがいる状態は打てるような気がしている」と自信も芽生えつつある。
黒部市からもほど近い魚津市の出身だ。家族や親戚も応援に駆けつけ、スタンドから「石橋ぃぃぃ~!」「航太ぁぁぁ~!」という大きな声を響かせてくれた。
「うれしいですね。昔から高校野球も応援に来てくれてたんで、野球で恩返しできるように頑張ります」。
これからも熱い応援に応えていくことを誓っていた。
■5月5日は石川ミリオンスターズの本拠地開幕
開幕カードで連勝した富山は、これで対石川戦の通算対戦成績を150勝162敗30分けとした。
声出し応援が解禁になり、お見送りも復活し、独立リーグの風景が戻ってきた。両チームの応援団もより一層、力を入れて声を張り上げ、選手にとっても力強い後押しになっている。
富山の応援団が「打線が活発なので楽しみ」と言えば、石川の応援団も「選手から元気、活気が伝わってくる」と、それぞれ今年のチームに期待している。
次の対戦は舞台を石川県金沢市民野球場に移す。今度は石川の開幕試合だ。スペシャル始球式やノベルティ配布、試合終了後にグラウンド無料開放などが企画されており、おおいに楽しませてくれそうだ。
「世界一小さなミニマムリーグ」を自称する日本海リーグ。しかし、レベルの高い戦力が充実しており、新しい企画もどんどん発信される予定だ。今後どのように成長していくのか、要注目のリーグであることは間違いない。
(表記のない写真の提供は富山GRNサンダーバーズ)