地球温暖化は紛争を多発させる――COP27でも問われる気候安全保障
- 地球温暖化は洪水や熱波などの異常気象を引き起こし、これは社会や経済に大きなダメージとなる。
- それは避難民も増やしており、こうした緊張が安全保障上の懸念も高めている。
- とりわけアジアは、その懸念が最も高い地域の一つである。
ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ世界各地には対立と緊張が蔓延しているが、地球温暖化はこれをさらにエスカレートさせかねない。
地球温暖化は安全保障上のリスク
エジプトで開催中の第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で8日、バチカン代表は地球温暖化が食糧危機、経済の混乱、格差などとともに、紛争にも深く結びついており、トータルで取り組む必要を強調した。
地球温暖化と国家の安全保障を結びつける考え方は気候安全保障(climate security)と呼ばれる。
地球温暖化はさまざまな自然災害を増やし、社会や経済に大きなダメージを与え、これが国同士の対立をエスカレートさせると考えられるのだ。
これまでも自然環境の悪化が軍事衝突をエスカレートさせる一因になることは確認されてきた。
しかし、気候安全保障への懸念は深刻さを増している。今夏ヨーロッパが500年ぶりともいわれるほどの熱波に見舞われ、インド洋沿岸でも洪水が相次ぐなど、地球温暖化による自然災害が、これまで以上に増えているからだ。
北朝鮮ミサイル危機と温暖化
ミサイル実験が相次ぐ北朝鮮情勢も、地球温暖化と無縁でないといわれる。
今年6月にはシンガポールで気候安全保障に関する国際会議が開催され、ここにも参加した国際戦略研究所フェロー、ジェフェリー・マツォ博士は「北朝鮮による核・ミサイル危機が地球温暖化で加速しかねない」と警告した。
北朝鮮では世界食糧計画の推計で1000万人以上が食糧不足に直面しているが、その一因はこの数年相次ぐ洪水などの自然災害にある。
北朝鮮の核・ミサイル開発はアメリカに「対等な交渉相手」と認めさせる手段だが、ミサイル実験には国威発揚など国内向けのデモンストレーションという側面もある。
国内で生活苦が広がり、不満がたまるほど、そうした鬱憤を晴らすように、あるいは「食糧危機で弱っている」という海外の見方が強まるほどそれを否定するために、金正恩の引き金が軽くなっても不思議ではない。
避難民の増加
リスクは北朝鮮だけではない。地球温暖化は数多くの避難民も生んでいる。
近年では各国で記録的な大雨や超巨大台風が発生する一方、その正反対に日照りや熱波が続くことも珍しくなくなった。
ノルウェーの国内避難民監視センターによると、2021年に発生した国内避難民は世界全体で3800万人にのぼったが、このうち紛争によるものが約1400万人だったのに対して、自然災害によるものは約2400万人を占めた。
なかでも目立つのは、中国(603万人)、フィリピン(568万人)、インド(490万人)などアジア諸国での多さだ。
アジアのリスク
アジアには火種を抱えた国も多く、これが地球温暖化で加速しかねない。
例えば、インドとパキスタンはカシミール地方の領有権をめぐって70年以上にわたって対立し、しばしば軍事衝突を繰り返してきただけでなく、1998年にはそれぞれ核保有を宣言するに至った。
両国は2019年にも国境付近で衝突した。
これらの国で日照りや洪水が増え、生活に困窮する人々が増えるほど、政府は食糧調達に力を入れる。それは農業に欠かせない水の重要性を飛躍的に高める。
パキスタンの農業用水の9割はインダス河からのものだが、インダス河はインド国内も流れていて、その水利をめぐる対立は両国の長年の懸案の一つであり続けてきた。
国際戦略研究所のマツォ博士は、アジア最大の火種の一つであるインド・パキスタン対立は、地球温暖化によって加熱しかねないと警告するが、それは中国を巻き込む対立に発展する懸念さえある。
中国は「一帯一路」構想を通じてパキスタンをテコ入れしている一方、インドとは国境問題を抱えているからだ。
一年ほど前、麻生副総理(当時)は「地球温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」と発言し、品種改良に取り組んできた農家の努力を無視していると批判されたが、そればかりでなく「だから地球温暖化は悪いことばかりではない」という趣旨は、地球温暖化にまつわる多くの問題を軽視するものでもある。地球温暖化は気温だけでなく国家対立までヒートアップさせているのだから。