70年愛された日本一のラーメン 笹塚の老舗「最後の一日」
笹塚の老舗『福壽』が4月に閉店した
東京ラーメンの老舗、『中華そば 福壽(ふくじゅ)』(東京都渋谷区笹塚)が閉店した。創業は戦後間もない1951(昭和26)年のこと。京王線笹塚駅北口を出てから続く商店街のしんがりにあった、時が止まったかのようなノスタルジックな佇まいの店舗も今は更地となっている。
先代の創業者は戦前に新宿で日本蕎麦店を開業し「日本一の蕎麦處」と喧伝して人気を博した。戦後になって笹塚に移転する時、すでに商店街には何軒も日本蕎麦店があったことと、中華そばが当時人気だったこともあってラーメン店へと業態を変えたのだという。
「麺茹ででラーメンの味は決まる」
店主の小林克也さんは81歳でお元気。毎日一人で仕込みをして、店に立ちラーメンを作っていた。普段は気さくに常連客たちと冗談などを話しているが、鍋の前に立つと表情が一変して職人の顔になる。「麺茹ででラーメンの味は決まる」と語る小林さん。大きな鍋に張られたたっぷりのお湯を使い平ざるで麺を茹で上げる姿は、職人そのものだった。
チャーシュー、メンマの乗ったシンプルな「ラーメン」は一杯500円。玉子や椎茸などの具が盛られた「五目ラーメン」でも630円という安さだった。動物系の旨味あふれるスープにしっかりと味を主張する醤油ダレ。麺は昔ながらの縮れた細麺だ。油などは一切浮いていないのに、しっかりとした力強い味わいで物足りなさがなかったのは、日本蕎麦時代からの「カエシ」の応用によるところも大きかったのだろう。
移転ではなく完全閉店を決めた
2022年4月22日、『福壽』は70年の歴史に幕を下ろした。地域の再開発が急速に進み建物ごと立ち退きとなり、小林さんは移転ではなく完全閉店を決めた。地元のみならず多くのファンが愛した名店だったが、閉店の知らせは常連客にしか伝えずにひっそりと暖簾を畳んだ。それは照れ屋の小林さんらしい幕引きだったようにも思う。
そんな常連客しか立ち会えなかった福壽の閉店だが、唯一撮影を許されたカメラによる映像がある。それが私が監修を務める『郷愁の街角ラーメン 今すぐ食べたい!至福の12杯 2022』(BS-TBS 30日21:00〜24:00)内で放送される、福壽「最後の一日」のドキュメントだ。
メディアには一切連絡をしなかった小林さんだったが、2018年に同番組で福壽を撮影した時のディレクターにだけは連絡をした。それは番組放送後も個人的に小林さんのもとを訪れて交流を深めていた間柄だったから。おそらく再放送もされない一回限りの放送となるので、ぜひご覧いただけたらと思う。
【郷愁の街角ラーメン 今すぐ食べたい!至福の12杯 2022】
2022年12月30日(金)夜9時~深夜0時(11店舗紹介する中の1つ)
BS-TBS、BS-TBS 4Kで同時放送
番組公式サイト:https://bs.tbs.co.jp/entertainment/tokyoraamen2022/
※写真は筆者によるものです。
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