知らないと恥ずかしい、食のサステナビリティ
サステナビリティ(Sustainability)
サステナビリティという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
サステナビリティは英語の「sustainability」のことであり、「持続可能性」を意味しています。また、以下のようにも説明されています。
サステナビリティはCSR=Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)と切っても切れない関係にあり、そのため、CSRの文脈としても知られています。
しかし実は、サステナビリティは、CSRだけではなく、食に関しても非常に重要な考え方を持っているのです。
食のサステナビリティ
では、食のサステナビリティとは一体何でしょうか?
これはすなわち、食が「持続可能性」を持つということであり、今食べられるからそれでよいということではなく、この先の未来もずっと食べられるようにするということです。
漁業においては、網にかかった魚介類を根こそぎ乱獲していれば、やがて魚はいなくなります。また、農業においては、農地を開拓する時にむやみに森を切り崩したり、水資源を過剰に使用したり、農薬で土や水を汚染したりすると、もとの自然環境は壊れてしまい、元に戻らなくなるでしょう。
このようなことにならないようにするため、人類が自然と共に歩んで行くという考え方が、食の持続可能性であり、食のサステナビリティなのです。
取り組み
では、食のサステナビリティ(以下、「サステナビリティ」は「食のサステナビリティ」を指す)のために、どのような試みが行われているのでしょうか。
以下のような宣言や取り組みが行われています。
世界や日本を代表する名だたる企業が、サステナビリティに対して積極的に取り組んでいることに注目したいです。
また自治体でも取り組みは行われており、富山県氷見市では、400年もの歴史を持つ「越中式定置網」で魚を獲っています。「越中式定置網」では、いったん網に入った魚も出て行くことができるので、最終的に捕獲するのは網に入った魚の2~3割だけとなり、魚を獲り尽すことがありません。
2016年「アジアのベストレストラン50」で「注目のレストラン賞」を受賞したミシュラン1つ星「フロリレージュ」では、食肉に適さないとされている経産牛をおいしく仕上げることによって、無駄をなくし、大切な命を尊んでいます。
加えて、オーナーシェフである川手寛康氏は、2016年「アジアのベストレストラン50」で16位に選出されたミシュラン2つ星「レフェルヴェソンス」総料理長の生江史伸氏などと共に、「命をいただく」ことについて真正面から考える「いただきますプロジェクト」でも精力的に活動しています。
他にも最近特にサステナビリティに力を入れているレストランがあるので、ご紹介しましょう。
ジビエを中心としたフランス料理「Lature(ラチュレ)」
渋谷にジビエ料理で有名な「deco」というフランス料理店がありました。そのシェフであった室田拓人氏が独立し、2016年8月17日にオープンしたのがフランス料理「Lature(ラチュレ)」です。
室田氏は2009年に狩猟免許も取得し、特にジビエ料理に定評がありましたが、自身がオーナーとなってからは、生き物を食べるということに対してより真摯向き合うようになっています。それは、室田氏による造語「Lature」の説明を読んでも分かります。
ジビエにこだわりを持ち、アミューズからデザートまで、何かしらジビエに関連する要素を取り入れています。アミューズのマカロンには鹿のブーダンノワールが挟まれており、そのマカロンの下に敷かれているのは鹿の毛皮、鹿の血一滴、鹿の毛一本たりとも無駄にしないというメッセージが込められています。
群馬県産ライ麦のパンには、鳩を模したバターナイフが添えられ、ここでも食材となる生き物のことを連想させられるのです。メインディッシュの鹿のローストには、TOJIROとMARUNAOがコラボレーションしたLATUREの刻印がある特注ナイフを用意し、これから食す肉に対して敬虔な気持ちを抱かせます。
デザートのチョコレートミルフィーユには、猟師が狩りの時に黒文字の木を使って作るお茶「またぎ茶」を使用。最後の小菓子であるフィナンシェには、バターの替わりに熊の脂を使っています。
生き物を狩り、その生命を奪う代償として、よりおいしく、より無駄なく、その生き物を扱わなければならないという信念がよく伝わってくるコースです。
こういった考えや実践が、食材の過度な供給や食べ残しなどから生じる廃棄問題を改善し、食のサステナビリティに貢献するものだと私は考えています。
パーク ハイアット 東京
ホテルグループで、積極的にサステナビリティに取り組んでいるところがあります。それは、パーク ハイアット、グランド ハイアット、アンダーズなどを擁し、「Food. Thoughtfully Sourced. Carefully Served(思慮深く調達され、丁寧に提供される、食)」を理念に掲げているハイアットグループです。2014年8月には、ヒレのためだけにサメを獲ることに疑問を投げかけ、フカヒレの消費や調達を全面禁止したり、WWFが絶滅危惧種に指定しているその他の水産物の調達を削減したりするなど、サステナビリティに力を入れています。
そのハイアットグループの中でも、パーク ハイアット 東京は、以下の通りさらに一歩進めています。
自然がもたらす豊かな贈り物に深く感謝し、海の恵みを未来へ繋げる“サステナビリティ”(資源の持続可能性)を推進しています。海洋環境に配慮して食材を調達する姿勢が認められ、日本のホテルとしては初めて、MSC(海洋管理協議会)およびASC(水産養殖管理協議会)によるCoC認証(※注参照)を取得しました。
CoCとはChain of Custodyの略。加工、流通の全過程を通じて、認証品が確実に管理、製造されていることを認証するもの。トレーサビリティ制度の一種。
2016年7月15日から30日にかけて、パーク ハイアット 東京41階にある「ジランドール」で「オーシャン トゥ フォーク」と題されたフェアを行いました。
産地や生育環境に着目して厳選したアトランティックサーモンや北海道産帆立貝などのサステナブルシーフードをマリネ、グリル、ローストなどの多彩な調理法で仕上げ、サステナビリティに配慮しながらも、味に満足のいく特別なコースを作り上げたのです。
このサステナビリティの考えが支持されたこと、おいしいコースに仕上がったことで、世間の耳目を集め、定常的にサステナブルシーフードを提供することにしたのです。
「肉好きには知っておいてほしい、新肉ブーム「ノーズ トゥ テール」」でもご紹介したように、同じパーク ハイアット 東京の52階にある「ニューヨークグリル」では、今年で2回目となる、鼻先から尻尾まで、牛をおいしく食べようというフェア「ノーズ・トゥー・テール」が行われました。
世界で最も多くの牛肉を食すと言われているアルゼンチン人の「ニューヨークグリル」料理長フェデリコ・ハインツマン氏による、牛を少しでも無駄にしないという考え方に基づいています。これも立派なサステナビリティの一環であると言えるでしょう。
サステナブルシーフードの課題
おいしく食べられ、しかも、海洋資源も守れるのであれば、サステナブルシーフードは素晴らしいことだらけです。ですが、サステナブルシーフードを使用するにあたって、課題もあります。
副料理長の米田浩一氏は「値段が高いというよりも、物量の少なさの方が大きな課題」と話します。確かに、海洋環境に配慮して魚介類を調達していては、簡単に物量が集められません。ホテルでは、複数のレストランやバー、ラウンジだけではなく、結婚式などの宴会、ルームサービスで料理を提供しているので、町場にある1つのレストランが扱うよりも、はるかに多くの食材を必要としています。その全てをサステナブルシーフードで調達するには、あまりにも物量が足りないのです。
また米田氏は「トレーサビリティもとても重要。ホテルのキッチンやサービスのスタッフ、購買部はもちろん、卸業者もみんなで意識を持たなければならない。食材がどのように入荷したのかをきっちりと把握できなければ、サステナビリティに配慮できない。そのため、マニュアルも作り、全従業員が理解できるようにしている」として、教育や啓蒙も必要と力強く説明します。
米田氏の指摘に加えて、私は食べる側でも同じように理解する必要があると考えています。同じ食肉や魚介類であって、どのようにして入荷してきたのかを考えなければ、近い将来そのおしい食肉や魚介類を味わえなくなってしまうからです。
適切に調達して適切に消費する
Sustainable Japanの記事によると「食品消費財サステナビリティ調達優良企業はわずか22社。日本からは花王」と紹介されています。また「地球村」によると、日本は年間 5500万トンの食料を輸入しながらも、世界の食料援助総量470万トンを上回る1800万トンを廃棄しています。日本の食料廃棄率は、世界一の消費大国であるアメリカをも上回っているのです。
このように食料の廃棄は大きな問題となっていますが、食料をどのように消費しているのかという問題に加えて、食料をどのようにして調達したのかという問題についても、これからはよく考える必要があるのではないかと思うのです。
元記事
レストラン図鑑に元記事があるのでご参考にしてください。