新入社員が「退職金前払いにする?確定拠出年金に入る?」と聞かれたらどう答えるのが正解か【'23年版】
今日のコラムのポイント
- 新入社員の5人に1人は会社に「確定拠出年金入るか選んで」と言われるかも。
- ここで「入る」と回答するのが基本、税金の面では入らないと大損。「老後に2000万円」にも赤信号。
- ただし「自分の給料を減らして確定拠出年金に積み立てる」仕組みなら、入らないのもOK
【おしらせ】YouTube「FP山崎のシャープなこんにゃくチャンネル」で解説動画も公開していますのであわせてご覧ください。リンクは記事最後にあります。
【おしらせ2】後編記事、「新入社員、確定拠出年金に入ることになったら運用はどうするか 「安全・確実・実質マイナス」の商品に注意」をアップしました。あわせてご覧ください。
新入社員がその場で決めなければいけないお金の難問のひとつ「退職金」問題
この春、新入社員になる人、転職をして新天地に移る人は少なくないと思います。会社で入社の手続きをするとき、「会社の確定拠出年金に入るか、自分で決めて」と言われることがあります。
これは、会社が給与とは別に積立をしてくれ、退職時(老後)にお金を受け取る仕組み「退職金(企業年金)」のうち「企業型の確定拠出年金」があるということです。
最近人気となっているiDeCoは「個人型の確定拠出年金」で、同じ仲間の制度ですが、「企業型」は会社の制度として実行するのが大きな違いです。推定で800万人弱くらいが加入していると思われますが、会社員が約4000万人いるので、だいたい20%、5人に1人になります。
普通、退職金制度というのは強制的に加入させられるのが普通です(というか会社が勝手に積み立てて、退職時に受け取るので加入の有無を考えることはまずない)。しかし確定拠出年金制度は「加入するかしないか、社員自身が選べる」ということがあり、会社がこれを聞いてくるわけです。
制度のことなんかよく分からない新社会人にとっては「???」ということですが、これをどう考えるべきか、簡単に説明したいと思います。
基本的には「入ります」と答えて書類の手続きをしてください。もしかすると、あなたの人生を大きく左右する決断となる可能性があるからです。
「退職金前払い」で手取りが増えると聞かれても絶対NOと言った方がいい
説明を聞くと「60歳まで原則受け取れない」とか「自己責任で運用しなければいけない」というようなネガティブワードが出てきます。しかも「入らない」選択をすると毎月の積立額相当が給料に上乗せされて支給されるので「手取りがアップする」と言われたりします。なんだか入らないほうがいい感じがします。
それでも確定拠出年金に「入る」選択をしたほうがいいでしょう。メンタルの合理性でも、経済合理性でも、確定拠出年金加入するほうが合理的だからです。
確定拠出年金に入るかどうか選ぶということは「退職時に退職金がまとまってもらえるか」と「毎月もらって使ってしまい退職時に何ももらえないか」の分岐点だと考えてください。
○鋼のメンタルで貯められるか? まず無理!
60歳時点のモデル受取額が1000万円の確定拠出年金制度があったとして、これに入らないのであれば、現金を受け取り、まったく使わず、全額を投資に回すなどして投資で増やし、60歳まで1000万円に増やすことが必要です。
あなたが20歳代から鋼のメンタルを持って、現金受け取りしたお金を40年手つかずで増やし続けることができるなら、加入しないのもアリですが、やり遂げる自信はありますか。私はまず不可能です。
「老後に2000万円」といわれるように、国の年金に一定のお金を上乗せ準備して老後を迎えるべきですが、会社の退職金・企業年金制度があれば、「強制貯金」をしているようなものです。だから加入したほうがいいでしょう。
○運用の「お得度」でも確定拠出年金を使わない手はない
そもそも「投資条件」も確定拠出年金に入る方が有利です。
あなたのための確定拠出年金の掛金(積立額)が月2000円だったとします。これを確定拠出年金に加入すれば毎月2000円口座に入ります。しかし手元に現金で受け取ると月1600円あるいはそれ以下になります。
毎月現金でもらうとお得なようですが、実際は「所得税・住民税」「年金保険料・健康保険料」などが引かれて、手取りは数割減ってしまうからです。
また、運用で増やすとき、通常は20.315%の高税率がかかりますが、確定拠出年金の口座内なら何度売買しても非課税で利益を全額受け取れます。ざっと試算をしてみると、
(確定拠出年金口座の例)
毎月5000円、40年積立、年4.0%の利回り……最終受取額は591万円
(前払いで現金受け取りして運用の例)
毎月4000円、40年積立、年3.2%の利回り……最終受取額は389万円
となり、その差は35%近くなりました。この差は「もともとの積立額の差」でもなく「運用成績の差」でもなく、「制度を賢く活用したかどうか」の差であることに注目してください。
つまり、確定拠出年金には入らないけど、ちゃんとお金を貯めて運用した人であっても、「確定拠出年金に入る」人にはかなわないということなのです。
確定拠出年金のほう、退職時にもらうときには税金がかかりますが、一時金受け取りには非課税枠(退職所得控除)があってほとんどの場合非課税になるか、わずかな課税ですむでしょう。
入社時点の決断ひとつが、あなたの「老後に2000万円」の不安が消せるかどうか、人生の大きな分岐点になるのです。
「選択型の確定拠出年金」というキーワードが出てきたらこれは入るべきか
ただし、注意点がひとつあります。確定拠出年金に「入るか・入らないか」の選択だけでなく、「いくら積み立てるか」の選択もある確定拠出年金は注意してください。
このタイプの確定拠出年金、自分の給与を削って「企業型」の確定拠出年金に入金する仕組みになっています。これでは退職金・企業年金制度とはいえないわけですが、制度上「企業型の確定拠出年金」としているのです。
会社がお金を出すのではなく、「自分の給与から積み立てる」確定拠出年金の場合、確かに税制メリットはあります。先ほどまで説明したとおり、掛金分は税金や社会保険料の計算対象から外れます。
しかし、確定拠出年金にたくさん積み立てるほど、手取りの給与が減ってしまうことになります。新卒社会人の場合などは、限られた手取りでしっかりやりくりする方法を覚えることが優先です。
無理に確定拠出年金に積立をして、「確定拠出年金には100万円あって、消費者金融にも100万円借りている」では本末転倒ですし、借金の利息のほうがかさみます。確定拠出年金は、60歳まで中途解約できないのが原則なので、20歳代が無理をして入る必要はありません。
会社によっては、これを「社員のための会社の取り組み」としてホワイトなイメージで説明することがありますので、注意してください。
……さて、「会社がやっている確定拠出年金には基本的に入ったほうがいい」という仕組みが分かったところで、次の問題「じゃあ、運用はどうすればいい」について次のコラムではお答えしたいと思います。
→「新入社員、確定拠出年金に入ることになったら運用はどうするか 「安全・確実・実質マイナス」の商品に注意」
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