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「安全・確実・実質マイナス」に注意 新入社員が確定拠出年金に入るとき運用はどうする【'23年版】

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
自己責任といわれても? それより怖い「安全・確実・実質マイナス」(写真:アフロ)

前回は「新入社員が確定拠出年金に入るかと言われたら、基本的に入れ!」という話でした。今回は加入を決めたあとにやってくるもうひとつの難問(しかもすぐ決めさせられる)について解説します。

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※今回の記事のYouTubeチャンネルでの解説動画リンクは記事ラストにあります。

確定拠出年金に入ったら「自己責任」という「圧」におびえなくていい

確定拠出年金は自分の退職金に相当するお金を積み立てていくわけですが、その「増やし方」は自分で選びます。普通の退職金や企業年金が、会社が勝手に積み立て、勝手に増やしてくれるのとはここが大きく違うところです。

基本的な資産運用の方法は研修などで教えてくれるのですが、このとき「自己責任」と何度も強調されます。「圧」を感じてしまうこともあります。ついつい「安全・確実・低利回り」な銀行預金を選んでしまいます。

しかし、「自己責任」という言葉にあまりおびえる必要はありません。そもそも、社会人になれば基本的にあなたの人生はすべて、自分で決断し、それを自分が背負うものです。つまりこれからの人生はすべて「自己責任」なのです。

家を買うことになったら、数千万円のローンと数千万円の価値を持つ家を手にします。ローンがいい条件か、物件がいい家だったかを決めるのは自分の判断です。

軽い気持ちでキャッシングやカードローンでお金を借りるのも自由ですが、後日そのツケに苦しみます。ソシャゲのガチャに何万円もつぎ込み、ムダづかいしたあと、後悔するのも自由ですが、自己責任です。

自己責任といわれるとついつい身構えてしまいますが、「社会人にとって、当たり前のことを念押しされている」とまずは考えてみましょう

基本的な選択肢は「元本確保型(安全・低利回り)」か「投資信託(リスクあり・高利回り期待)」

確定拠出年金の運用は自分で自分の掛金や資産の配分を決め、指図することになります。ほとんどの作業はブラウザベースで行いますが、スマホやタブレットからも実行可能です。

商品は何でも好きに選べるわけではなく、各社の確定拠出年金ごとに商品ラインナップが提示されます。

具体的な運用の選択肢は「元本確保型商品」と「投資信託」になります。

「元本確保型商品」とは「満期まで保有すれば元本+利息が戻ってくる金融商品」です。中途解約の場合は条件によります。一般的には銀行の定期預金か生損保会社の保険商品になります。「5年満期:年0.1%」のように購入時点で利率が確定したものを購入します。

「投資信託」とは、個人向けの資産運用に適した金融商品です。投資というと「株の売買!」というイメージがあるかもしれませんが、直接個別企業の株を買うのではなく、投資信託を通じて購入します。例えば「日本の上場企業をすべて買う投資信託」とか「先進国の上場企業をすべて買う投資信託」のようなものを選ぶと、好きな金額から同様の投資ができる仕組みです(本来だったら一社買うのに数万~数十万円以上する)。

投資対象が下落したときは値下がりし、元本割れすることもありますが、上昇したときはそのまま自分の利益となります。金融機関は予め定められた手数料のみを受け取ります(運用管理費用ないし信託報酬という名で年率の手数料が開示されている)。

「安全・確実」な定期預金が、今は「実質マイナス」になっていることに注意(2023年最新情報)

このとき注意したいのは「安全・確実」であるはずの元本確保型商品が「実質マイナス」に陥っているということです。2022年、物価の上昇率は+2.5%(消費者物価指数)でしたが、多くの元本確保型商品は年0.1%以下です。これはつまり「安全・確実だけど、実質はマイナス2.4%」という運用だということです。

5年満期の定期預金、のような場合、今月買った定期預金は5年間、どんなことがあっても今月決められた超低金利のままです。今年も物価が上がればまた実質マイナスになります。

新入社員の場合、毎月の掛金が数千円程度からスタートすることが多いのですが、わざわざ実質マイナスの商品を買う必要はないと思います。

もし、こうした商品にメリットが出るとしたら、物価上昇率をちょっと上回るような金利が提示されるようになってからだと思います。

投資は事前予想が極めて困難だが、長い目でみればプラスになる可能性が高い

では投資信託はどうか、というと株式や債券(商品によっては不動産なども含む)といった値動きが変動する商品で運用を行います。

たとえば世界中の株式で運用する投資信託を保有したとします。世界中の株価の平均値が10%上がれば、あなたの投資信託も10%増えるという感じです。しかし、経済ショックなどで平均がマイナス10%下がれば、あなたの投資信託もマイナス10%下がります。

ただし平均値としていえばプラスになる可能性が高く、また元本確保型商品よりも物価上昇率よりも高い利回りを期待できるのが投資です。

先ほども指摘したとおり、新人の毎月の掛金は少ない場合は1000円程度、たいていの場合は数千円程度だと思います(新卒から月10000円以上積み立ててくれる会社はかなりの好待遇です)。

だとしたら「投資の経験」を積むという意味でも、投資信託を購入してみてはどうでしょうか。月1000円なら「○×ショック」で30%値下がりしても金額的にはたいしたことがありませんし、むしろそこから株価が回復する流れを実体験できれば、金額以上の経験の価値が生まれます。

将来的に、数百万~数千万円の資産運用を行うステップの第一歩としても、ここで投資信託を選んでみてはどうでしょうか。

悩んだら「バランス型」の投資割合が高いものを選ぶ

あなたがもし「投資をしてみてもいい」と考え、具体的な投資対象がイメージできるなら、その投資対象で運用する投資信託を選択します。「日本はもうダメだから、外国の企業だけに投資したいので、外国株式だけを対象とする投資信託を買おう」とかそういうイメージです(私はまだまだ日本企業には力があると踏んでますが)。

もし、「何に投資をすればいいか分からない」のであれば、バランス型と書かれた投資信託を選んでみましょう。これは「日本株式X%:外国株式X%:日本債券X%:外国債券X%」のような形で複数の投資対象をブレンド保有する仕組みです。一般的には分散投資によるリスク低減効果が期待できます。言い換えれば「極端な大幅下落を回避するので、極端な急騰も起きない」投資方法です。

ただし条件が2つ。まず低コストのものであるか確認をしてください。できれば年0.5%以下、どんなに高くても年1.0%以上の運用コストを払う必要はありません。iDeCo(個人型確定拠出年金)の場合低コストの投資信託がたくさんあるのですが、企業型の確定拠出年金、しばしば高コストの投資信託しかないことがあり(特にバランス型)注意してください。

2つ目の条件は「バランス型が3つある場合、株式投資比率が高いものを選ぶ」ということです。同じ投資信託の名前で、「安定型・成長型・積極型」のように3本があったとしたら、これは株式投資比率が異なる(ブレンド比率が異なる)ということです。株式投資比率をズバリ表し「○×バランス25・50・75」のように並んでいることもあります。

このとき、安定型や株式投資比率25のタイプを選ぶと、株価が上昇しても投資信託の値はあまり上がりません。例えば株価が20%急上昇しても、株に投資する割合が25%であれば5%分しか値上がりしないという感じです。自分はリスクを取って株式投資にチャレンジしているつもりが、実態としてはほとんどリスクを取っていない、ということがしばしばあります。中長期的には株式投資比率が高い「積極型」とか「○×75」のほうを選んでおくことをオススメします。

入社時の決断が、一生を左右するかも 勇気を持って「加入し、投資しよう」

さて、2回にわたって新社会人向けの確定拠出年金の話をしてきましたが、このときの「加入する」決断と「投資をする」という決断の2つが、もしかすると人生を左右するかもしれません。

「入社時に決めなくても、いつでも確定拠出年金に加入できるよ」

「入社時に決めなくても、いつでも投資割合を変更することができるよ」

と人事部の人が説明することがありますが、おそらくほとんどの人は「最初の決断」が何年も固定されてしまいます。

「後で考えよう」は多くの場合「後になっても動かない」になってしまうからです。

仕事は忙しいし、また学ばなければならないことも山積みですし、プライベートでも楽しくドタバタした日々が続きます。はっきりいって、確定拠出年金のことなんか思い出すこともなく一年が過ぎ去るはずです。5年あるいは10年過ぎることもあるはずです。

アラフォー、アラフィフになってからようやく気がついても社会人人生の半分、積み立てをしなかった差は大きいものがあります。それくらいなら、入社時点から加入し投資をしておいたほうがいいはずです。

もともとは、会社があなたに渡さずに積み立て・運用をして増やしていたはずのお金なのですから。ぜひ、勇気をもって「加入し、投資し」てみてください。

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※なお、本コラムはあなたの運用成績を保証するものではありませんので、ご了承ください

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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