高所得者、お金持ちの年金停止はアリか、ナシか~65歳だから年金をもらうのではない?~
※Yahoo!ニュースのコメントに端を発し、10月25日にABEMAプライムニュースでコメントしてきましたので、改めてコラムとしてまとめます。ABEMAプライムのYouTube動画は公開されたらこちらにリンクを貼ります。
(目次)
- 関経連、高所得者の年金停止を要望する
- 現在では70歳未満で会社員だと年金の調整が行われる
- 自分から望んで「年金はいりません」と言うことはできるが、利用率は低い
- とはいえ実現はなかなか難しい(反対している人はご安心を)
- 「働けないから、年金をもらう」のであって「65歳だから年金をもらう」のではないはず
関経連、高所得者の年金停止を要望する
10月16日、関経連がとりまとめた「社会保障を中心とする税財政に関する提言」が話題となっています。様々な政策提言が盛り込まれている中のひとつとして、高所得者の年金停止を要望していることがニュースに取り上げられたからです。
10/16 共同通信 高所得者の年金停止要望、関経連 「痛み伴う改革を」
多くの方は、反対意見を示されていますが、私は「条件付き賛成」とコメントしています(賛成側に立つ人が誰もいなかったので、おかげでABEMAプライムに呼ばれたという…)。
最初に言ってしまうと、この案は実現はなかなか困難なので、このまま改正される可能性は低いと思われます(反対している皆さんは、まずはご安心を)。
しかし、年金に対する考え方を見直すヒントがあるように思います。そもそも「働いて十分に稼いでいる人が年金をもらうべきなのか」という問題です。
現在では70歳未満で会社員だと年金の調整が行われる
現在の年金制度は、「会社員として働きながら年金を受け取ると厚生年金の支給が調整される」という仕組みがあります。在職老齢年金です。
といっても70歳までが対象となっており(70歳になると厚生年金の対象外となってしまうため)、70歳以降は満額の年金をもらえます。
また、カットの対象となるのは厚生年金分なので、年81.6万円(満額)の老齢基礎年金はそのまま受けられます。
70歳以下の年齢であっても、仕事をすればいきなり年金がストップするわけではありません。「給与と年金の合計が月50万円」を超えたら、オーバー分の1/2を年金からカットするような段階的な調整を行います。
(厳密には「給与」ではなく、賞与も含めた年収をベースに判断する「標準報酬額」ですがここでは分かりやすく「給与」とします)
ですから、ざっくりいえば、給与と年収の合計が年600万円までなら年金はカットされません。基礎年金分はもらえますから、「必死に働いて月10万円くらいなんとか稼いでいるのに、年金をカットするのか!」ということはありません。
ただ、70歳を過ぎれば、どんなに高年収であっても年金は全額もらえることになります。役員や顧問などの肩書きで年収が1000万円でも2000万円でも、です。
自分から望んで「年金はいりません」と言うことはできるが、利用率は低い
金持ちが「私は、年金をもらわなくてもいいので辞退します」という仕組みは、あることはあります。2007年4月からスタートしている「年金の支給停止(撤回)」という制度です。
日本年金機構 年金の支給停止(撤回)を希望するとき
とはいえ、高年収の人が「私は十分に暮らしていけるだけの収入もあるので、年金は辞退します」とわざわざ申し出る可能性が高いかというと、そうではありません。普通に考えれば、「そりゃ辞退しないだろう」と思うはずです。
2023年2月末の日本年金機構のデータによれば、「年金受給権者からの申出による年金給付の支給停止件数は、1409件」だそうです。3000万人以上が年金を受給していると考えれば、ごくごくわずかです。
そう考えると高所得者の年金を減らしたいなら「年金を払う段階で仕組みとして止める(本人の意思が介在しない形)」か「もらった後に税金をしっかりかけて取るか(税率を上げる)」が考えられます。
とはいえ実現はなかなか難しい(反対している人はご安心を)
私が冒頭で「半分賛成」とした理由のひとつが、実現可能性です。高所得者を補足し、年金をカットするために、今も行われているのは「厚生年金保険料を納めているので、年金機構がデータを持てて、年金支払を調整する」というものです。
しかし、70歳以降で厚生年金に加入していない場合は、年金機構側では年収が把握できません。そうなると国税庁のデータを参照する必要が生じ、事務量は膨大なものとなります。
それでも「給与所得がある人」と「事業所得がある人」はなんとか補足できますが(例えば、大家で年収1000万円のような人はキャッチできなくもない)、今度は「株の配当で年収1000万円」は把握できません。多くの場合、株式の配当は分離課税でその場で納税、確定申告には回ってこないからです。
また、「いくらからが高所得者で年金を調整されるべきか」という問題もあります。在職老齢年金と同水準にする、というのも考えられますが、70歳以降の年金を止めるハードルはもう少し高くてもいいような感じもします。
それじゃあ、「年収1000万円から?もうちょっと高くてもいいんじゃない?」なのか「年収2000万円からなのか、いや年収2000万円とか対象者少な過ぎだろ」とか結論はすぐ出ません。もちろん対象者を少なくすれば、年金財政としては効果がほとんど出ません。
提言が指摘しているのは、厚生年金分ではなく、国民年金側、老齢基礎年金のカットだということも現状にない制度作りなので、気になります。事務的にはなかなか大変そうです。
今回の提言、議論を始めればやっかいなことが多く、また政治的にも、世論としてもこれを国会で成立させるのは困難だろう、というのが正直なところです。
でも、それでも「半分賛成」するのは、「そもそも年金って何だっけ?」という議論をするきっかけになると思うからです。
「働けないから、年金をもらう」のであって「65歳だから年金をもらう」のではないはず
私たちは「払った分くらいはもらうのが年金」だと考えていたり「65歳からもらえると約束しているのだから65歳からもらえるのが年金」と考えています。
そもそも論として、この考え方は正しいのでしょうか。
例えば、病気やケガで障害が残った人は65歳より若くても障害年金を一生涯もらえます。これは保険料を納めた金額以上になることがあります。でも「お得」とは思いません。遺族年金も遺された子の育英費用となりますが「お得」とは思わないでしょう(自分は天国にいるし)。
平均寿命より長生きをした場合、生きている限り何年であろうと年金は支払われます。長生きをすれば大きな「得」になりますが、これを言う人はあまりいません。
65歳、というのも固定された決まりではなく、「働けなくなってきて年収が下がらざるを得ない年齢」を制度として設計したのが65歳です。
例えば、1944年に厚生年金保険法ができたときは55歳受給開始でした。ちなみにデータがある1947年の日本人の平均寿命は52歳です(!)。その後、60歳、65歳と、日本人が元気で長生きする時代に合わせて引き上げてきたわけです。
国民年金制度もそうで、1961年に制度をスタートさせたときから「65歳から国民年金がもらえる」となっていました。当時の男性の平均寿命が67歳のときに、です!
Yahoo!ニュース 山崎俊輔 「60年前」から「60歳まで加入」の国民年金制度、16年寿命が延びた今、5年延ばすのってダメですか?
「働けなくなったのだから、年金がもらえる」という考え方に立てば、年金がなくても暮らしていける人たち、例えば年収が1000万円とか1500万円とかある人、会社員が大家か配当で暮らしている人などは、年金をもらわなくてもいいはずです。
少なくとも、高所得者の国民年金にあたる老齢基礎年金を年80万円程度減額することはあってもいいように思います。そもそも、現役世代の平均年収をはるかに上回っているわけですから「働けない」とはいえないからです。
……結論としていえば、「実現はたぶんしない」案でしょうし「この案のまま実現してもあまりうまくない」案だと思います。
それでも「年金って高所得者はもらうものなのか?」について、ちょっと考えるきっかけとなればと思う次第です。