スキマバイトで人気のタイミー、新たな「年収の壁」回避策とならないか
タイミー上場、スキマバイトはフリーランスが糊口をしのぐ救世主?
スキマ時間でサクッと働き収入を得られるタイミーが人気です。今年の7月26日に上場してさらに話題となっています。スマホを活用して、わずかな時間を活用してちょっとしたお金を稼げるというのは確かにイノベーションです。
私の友人でフリーランスの人がいますが、「今日と明日、仕事がまったくない! しかも月末まで資金繰りが辛い!」という状態になりました。フリーランスや個人商店ではよくあることです(私もあります)。
とはいえ、本業の仕事があるので週3~4日通うようなパートをずっと続けるわけにもいきません。かといって、この2日を無収入確定で過ごすのももったいない。
そこで試しにタイミーに登録してみたところ、人手不足で困っていたお店とすぐにマッチングが成立、数時間ずつ2日働いて収入を得、「これで数日を食いつなぐことができましたよ!」とのこと。
個人にとってはちょっとしたスキマ時間を仕事にすることができ、お店にとっては急場をしのぐ人手を確保するチャンスを得られた、というわけで、まさにタイミーが提供するサービスが、社会の課題を解決した例といえます。
タイミーのWEBサイトでは、会社員がすきま時間の副業として使う例が3分の1、バイト・パートの利用が約2割、、学生の利用が2割弱、フリーランス等の利用が8%だそうです。
しかしこのタイミー、「年収の壁」の視点で見るとちょっとだけ危うさがあります。
タイミー プレスリリース スキマバイトサービス「タイミー」 累計ワーカー数 400万人を突破 ~約1年間でワーカー数は2倍に増加~
スキマバイトが「年収の壁」対策、非正規雇用の一形態にならないか
「年収の壁」とは、一定の年収に達すると、税の負担発生、社会保険料の負担発生、配偶者の扶養から外れる、などのマイナス面のほうが年収増を上回ることをあらわした言葉です(それぞれ金額が異なるからややこしい)。
今の時代、年収の壁の手前で「働き止め」をしていることはむしろ働く側にマイナスが生じるようになってきています。最低賃金がアップしていく中で労働時間を減らして調整することはできますが、物価上昇を考えると買えるモノは減り続けていき、デメリットです。
現状では、年収の壁対策として補助金政策があります。しかし、会社のほうも、個人のほうも「手前で働くのがお得」と考えている人がまだ多いようです。
タイミーの働き方はどうか、というと、そもそもが年収の壁の手前で働くことを想定しており、社会保険適用外を基本としています。数時間の隙間で働くことが年収の壁を超えることはないという考え方です。
具体的には4つの要件があって
- 「1日1件まで」
- 「週39時間未満」(残業に影響する労働時間内に収めるための制限)
- 「同企業での報酬は月78,000円未満」(社会保険の加入対象外に確実にするための制限)
- 「同企業での報酬は前年12月1日~同年11月30日の期間で28万円未満」(給与支払報告書の提出要件となる年間30万円を超えないための制限)
となっています(タイミーのヘルプページを筆者がまとめ、補足したもの)。
とはいえ、これは1社のみでのくくりなので、複数企業で働く場合は、合計月収や合計年収で枠を超えることはできます。
また、これはタイミー分のみでカウントですから、スキマバイトをするライバル社も併用し、「サブ垢を使いこなして、スキマバイトだけで年収の壁を超えて働く、かつ負担増は回避」ということはできてしまう恐れがあります。
(なお、所得税・住民税については複数箇所で働いても合計で考えるので、合計年収103万円を超えたら自分で確定申告しないと脱税になると考える必要があります)
タイミー ヘルプ お仕事の申し込み制限について
タイミーラボ スポットワークTips【税理士監修】扶養内で働けるのはいくら?103万円・130万円の壁や気をつけたい点を解説(2024年最新版)
タイミー 法人向け解説ページ
タイミーが悪いのではなく、スポットワークに従来の制度が対応できていない
厚生年金、健康保険、雇用保険といった社会保険制度を対象外とする働き方なのがスポットワークだとして、労災保険については少し気になります。労災保険とは業務上の事故、ケガなどの治療費を働く人は負担せずにすむ仕組みです。
タイミーのヘルプページでは、雇用契約での募集(業務委託契約以外)は労災保険の加入となりうる、としています。会社は正社員、パートやアルバイト、雇用保険対象外の人に払った給与等の合計額を申告、労災保険料を納めます。そうすればスキマバイトも労災の給付を受けられます。
ところが、WEBを検索すると、労災トラブルも散見されます(労災の対象にはしてもらったが、タイミーのアカウントが停止されて他社の募集に応じられなくなったなど。アカウント停止問題はここでは詳述しませんが、スキマバイトの課題のひとつです)。
税金のほうもスポットワークを前提として作られていませんので、たくさんの会社から合計年収で年収103万円以上を受け取った場合(副業として働いており収入が20万円を超える場合)は、個人が確定申告を行わなければいけません。それなりの式も必要となりちょっと大変です。
全体としてみると、法令に反している、というわけではなく、スポットワーク、スキマバイトのような働き方に、税制や社会保険制度が対応し切れていない、と考えるべきなのでしょう。
近年、「正社員」と「非正規」の不合理な待遇格差については同一労働同一賃金の取り組みを行ったり、社会保険の適用拡大を行ってきたことで不公平の解消が進んでいます。しかし、これは常勤で働くアルバイト、パート、契約社員までをフォローするのが限界です。
「ときどき、数時間だけ働き、もしかしたら二度と働くことはない」というようなスキマバイトの労働が、どうケアされていくのかはこれから考えていかなければいけない課題といえます。
タイミー スキマバイト採用で労務管理の負担軽減!タイミーが提供する簡単な解決方法
タイミーラボ スポットワークTips 労災とは?スキマバイト中に怪我しないためのポイントも解説
雇う会社は「正社員採用のチャンス」としてほしい
なんだか悪い話をしているようですが、そうではありません。タイミーが「人材難のなかで正社員採用のチャンス」として機能する面もあります。
なかなかバイトの募集・採用が集まらないとき、スポットワークで数時間働いてくれた人が、まじめでいい人だと分かれば、これはバイトの面接・試用期間を一気にクリアしたのも同然です。バイトの募集から本採用にするハードルは一気に下がります。
タイミーは「引き抜きOK」を法人向けページでは明記しています。そこで手数料を取らないことも示しています。これはなかなかすごいことだと思います。
ここで想定しているのは、長期のアルバイトやパートとしての引き抜きですが、タイミーのWEBページでは、4割の事業者(雇うほう)が、長期採用の打診をかけたことがある、とのことです。
実際、私の友人のフリーランスは「もしよかったら、本気でバイトとかどうですか?」と声をかけられたそうです。ありがたい申し出だったが、本業もあるので断ったとのことですが、評価されたことは素直に嬉しかったとのこと。
できれば、さらにその先、正社員登用も視野に入れた形でスポットワークが機能してくれると素晴らしいのではないかと思います。
――もともと日雇いバイトの募集はアルバイトの定番のひとつでしたが、これをスマホとITの力でシステマティックにしたのがスキマバイト、スポットワークです。
タイミー以外にも同種のサービスを提供する各社もユーザーを増やし、しのぎを削っています。健全な競争と労働者のサポートを前提としつつ、普及していくことを期待します。
タイミーラボ タイミー通信 タイミー利用事業者1477名に聞いた!「マッチング時に気にする箇所は?引き抜きするのはどんな人?」ワーカーさんのココが気になるアンケート調査