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北朝鮮製KN-23再投入、S-300排除、シャヘド迷走急増:ウクライナ迎撃戦闘2024年8月分の傾向

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ国家非常事態庁より、8月26日の攻撃で撃墜した巡航ミサイル残骸の回収

 2024年8月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で970発でした。これは先月の7月の504発から倍増しており、最近の半年間では3月の810発を上回る大規模攻撃でした。なお攻撃は8月26日以降に8月分の半分近くが集中しています。出典:ウクライナ空軍司令部

※当記事では迎撃難易度でミサイルを「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類。迎撃困難な高速目標と迎撃容易な低速目標を混ぜた数を比較してもあまり意味が無いため。なお集計からKh-59空対地ミサイルは除外してKh-69巡航ミサイルは含む。

○2024年8月:970発(775撃墜、80%) ※73未到達を除外で86%撃墜

  • 弾道ミサイル:40発(9撃墜、23%) ※1未到達。※北朝鮮製KN-23は24発
  • 転用ミサイル:11発(1撃墜、9%) ※S-300は8発(ハルキウ飛来2)
  • 巡航ミサイル:138発(111撃墜、80%) 
  • 自爆ドローン:781発(654撃墜、84%) ※72未到達を除外で92%撃墜

弾道ミサイルの8月の傾向

 弾道ミサイルは8月合計飛来数が40発で、このうち北朝鮮製KN-23の可能性(関連記事)があるものが8月6日~8月26日の間に8回で合計24発が報告されています。KN-23は2024年2月27日以来の使用再開となり、北朝鮮からロシアへの供給が再開された可能性があります。弾道ミサイルは7月(22発)→8月(40発)と飛来数が大きく増えていますが、KN-23が追加されたことによる影響が大きいと考えられます。

転用ミサイルの8月の傾向

 転用ミサイルのS-300地対空ミサイル対地攻撃運用によるハルキウ攻撃は再開されましたがこの方面へは2発のみで損害は軽微で、HIMARSによる越境攻撃でS-300の発射機を排除できている傾向は6月以降の3カ月間連続で続いています。ただし8月30日にハルキウ市街にロシア戦闘機からの滑空誘導爆弾の攻撃があり民間人7名が死亡し77名が負傷する大きな損害が生じており、この方法への攻撃はまだ排除できていません。

巡航ミサイルの8月の傾向

 巡航ミサイルは8月26日の大規模攻撃(関連記事)の115発が8月分(138発)の大部分を占めています。先月の7月は巡航ミサイルの発射が低調でしたが、使用を控えて貯め込んだ生産分を一度の攻撃に集中投入してきました。なお8月18日の攻撃で種類不明巡航ミサイル3発と報告されているものはKh-101巡航ミサイルのクラスター弾頭型である可能性が濃厚(関連記事)です。

自爆ドローンの8月の傾向

 自爆ドローンは8月分が飛来781と非常に多く1カ月分としては過去最大です。しかし迷走して未到達だったものが72も報告されており、8月21日以降に迷走の報告が急増しています。特に8月31日は飛来52のうち約半数の25発が迎撃していないのに未到達とされています。電子戦(GPSやグロナスに対する妨害電波による)が効果を上げているのか、あるいはロシア国内でライセンス生産が始まったシャヘド136自爆無人機の製造不良が大幅に増えている可能性があります。

【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移 

  • 2024年08月:40発(9撃墜) ※うちキンジャール×3(1) 
  • 2024年07月:22発(4撃墜) ※うちキンジャール×1(1)
  • 2024年06月:16発(1撃墜) ※うちキンジャール×3(1)
  • 2024年05月:10発(0撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
  • 2024年04月:20発(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
  • 2024年03月:29発(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
  • 2024年02月:13発(1撃墜) 
  • 2024年01月:57発(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
  • 2023年12月:37発(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
  • 2023年11月:5発(1撃墜)
  • 2023年10月:7発(0撃墜)
  • 2023年09月:2発(1撃墜)
  • 2023年08月:7発(1撃墜) ※うちキンジャール×7(1)
  • 2023年07月:7発(0撃墜)
  • 2023年06月:9発(9撃墜) ※うちキンジャール×9(9)
  • 2023年05月:23発(21撃墜) ※うちキンジャール×7(7)

※イスカンデルM、キンジャール、KN-23(北朝鮮製)。なおKN-23は製造時の不具合が多いのか迎撃せずとも未到達の報告が多い。

【高速目標】転用ミサイル発射数の推移

  • 2024年08月:11発(1撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2024年07月:2発(0撃墜) ※うちS-300×0(0)
  • 2024年06月:1発(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
  • 2024年05月:19発(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
  • 2024年04月:42発(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
  • 2024年03月:69発(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
  • 2024年02月:37発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2024年01月:67発(0撃墜) ※うちS-300×45(0) 
  • 2023年12月:32発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2023年11月:17発(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
  • 2023年10月:11発(0撃墜) ※うちS-300×11(0) 
  • 2023年09月:3発(0撃墜) ※うちS-300×1(0) 
  • 2023年08月:12発(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2023年07月:37発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年06月:22発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年05月:17発(0撃墜) ※うちS-300×12(0) 

※S-300/S-400(地対空ミサイル転用)、Kh-22/Kh-32(空対艦ミサイル転用)。P-800オーニクス対艦ミサイルの使用は2023年11月11日が最後の報告。

【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移

  • 2024年08月:138発(111撃墜、80%)
  • 2024年07月:54発(40撃墜、74%) ※6未到達を除外で83%撃墜
  • 2024年06月:105発(81撃墜、77%)
  • 2024年05月:79発(62撃墜、78%)
  • 2024年04月:71発(55撃墜、77%)
  • 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
  • 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
  • 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
  • 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
  • 2023年11月:4発(4撃墜、100%)
  • 2023年10月:5発(4撃墜、80%)
  • 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
  • 2023年08月:114発(90撃墜、79%)
  • 2023年07月:92発(78撃墜、85%)
  • 2023年06月:163発(144撃墜、88%)
  • 2023年05月:145発(133撃墜、92%)

※Kh-101/Kh-555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69(Kh-59は除外)

【低速目標】自爆ドローン発射数の推移 

  • 2024年08月:781発(654撃墜、84%) ※72未到達を除外で92%撃墜
  • 2024年07月:426発(373撃墜、88%) ※17未到達を除外で91%撃墜
  • 2024年06月:328発(309撃墜、94%)
  • 2024年05月:355発(347撃墜、98%)
  • 2024年04月:287発(258撃墜、90%)
  • 2024年03月:596発(511撃墜、86%)
  • 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
  • 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
  • 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
  • 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
  • 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
  • 2023年09月:503発(396撃墜、79%) 
  • 2023年08月:162発(145撃墜、90%)
  • 2023年07月:238発(201撃墜、84%)
  • 2023年06月:199発(166撃墜、83%)
  • 2023年05月:399発(362撃墜、91%)

※シャヘド136/131。イラン製だが、2024年3月にロシア国内のライセンス生産工場の稼働が確認されている。

【総合計】

  • 2024年08月:970発(775撃墜、80%) ※73未到達を除外で86%撃墜
  • 2024年07月:504発(417撃墜、83%) ※23未到達を除外で87%撃墜
  • 2024年06月:450発(391撃墜、87%)
  • 2024年05月:463発(409撃墜、88%)
  • 2024年04月:425発(316撃墜、74%)
  • 2024年03月:810発(610撃墜、75%)
  • 2024年02月:475発(332撃墜、70%)
  • 2024年01月:582発(385撃墜、66%)
  • 2023年12月:776発(609撃墜、78%)
  • 2023年11月:406発(308撃墜、76%)
  • 2023年10月:308発(233撃墜、76%)
  • 2023年09月:598発(475撃墜、79%)
  • 2023年08月:295発(236撃墜、80%)
  • 2023年07月:374発(279撃墜、75%)
  • 2023年06月:393発(319撃墜、81%)
  • 2023年05月:584発(516撃墜、88%)

※2023年5月からキーウ配備のパトリオット防空システム実戦投入開始。

※低速目標の迎撃率はずっと高いまま安定しており、総合計の迎撃率の増減は「高速目標がパトリオット未配備地域を狙ってきた数」に起因している。

※報告数はウクライナ空軍司令部の発表したものであり、未報告のミサイルなどもあるため(前線部隊の戦術目標への弾道ミサイル使用などは入っていない)、数は厳密には正確なものではないことに留意。

関連記事:開戦からのウクライナ迎撃戦闘のミサイル・ドローンの飛来数や撃墜数など合計数をシルスキー総司令官が発表(2024年8月21日)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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