北朝鮮が新型極超音速中長距離弾道ミサイルの試験発射成功、「火星16ナ」の改良型か
1月7日、北朝鮮は前日の1月6日正午ごろに平壌付近から日本海に向けて発射したミサイルについて具体的な名称を言及せずに「新型極超音速中長距離弾道ミサイル」の試験発射に成功したと発表しました。ただし外観上の特徴は昨年2024年4月2日に発射した中距離級の極超音速滑空ミサイル「火星16ナ」と酷似しています。噴射煙の特徴から固体燃料ロケットである点も一致しています。
北朝鮮が公表した飛行データの数値は以下の通りです。
- 1次頂点高度99.8km
- 2次頂点高度42.5km
- 水平距離1500km
- 速度マッハ12
なお1月6日時点での日本自衛隊の観測(発表)では「最大高度約100km・水平距離約1100km」、韓国軍の観測では「水平距離約1100km」という数値でした。
北朝鮮は今回の発表で「新型極超音速中長距離弾道ミサイル」について、発動機体(固体燃料ロケットモーターのケースの意味)の制作には新しい炭素繊維複合材料が使用されたとしています。製造工程で何らかの新技術が導入されているようです。また飛行および誘導操縦システムにも既に蓄積された技術に基づいた新しい総合的かつ効果的な方式が導入されたとしており、滑空弾頭の操縦系統も改良されているとしています。
○性能をわざと抑えた飛行試験
明言はされていませんが、2025年1月6日に北朝鮮が発射したミサイルは「火星16ナ」の改良型であると見做していいでしょう。北朝鮮がミサイルの種類名を言及しなかった意図は不明です。なお同ミサイルは機体の規模的には少なくとも射程3000km以上、おそらく最大で射程4000~5000kmを発揮できる能力があると推定できます。
北朝鮮は1月7日の発表文でこのように述べています。これはほぼ間違いなく「グアム島のアメリカ軍基地を打撃できる」という意味が込められている筈です。平壌からグアムまで約3400kmです。
それでも過去の発射と今回の発射で1000~1500kmしか飛んでいないのは、発射試験を日本海の中で完結させるためです。通常の弾道ミサイルならば高く打ち上げるロフテッド軌道を行えば水平距離を短くしたまま全力で発射が可能ですが、極超音速滑空ミサイルは低く飛ぶことが特徴なのでロフテッド軌道では試験をする意味がありません。ですが全力を発揮させて3000km以上飛ばすと日本列島を飛び越えてしまいます。つまり北朝鮮は現状では日本を刺激し過ぎるのは得策ではないと判断しており、性能をわざと抑えた飛行試験を実施しています。
今回の発射試験について公表された「マッハ12」という最大速度ですが、同ミサイルの大きさから勘案するとむしろ遅いと言えます。つまり速度をわざと落とす工夫が行われていたことが確実です。その方法は前回の2024年4月2日に発射した「火星16ナ」について翌日に公表された際に言及されています。おそらく今回の発射も同じ方法で行われている筈です。
北朝鮮は他のミサイル(火星18)でも「上段ロケットの始動遅延(時間遅延分離始動)」によって速度をわざと落として短い射程で発射試験を実施した実績があります。意図的に性能を落として実験しているのです。
なお射程の制限で「上段ロケットの始動遅延(時間遅延分離始動)」という面倒な方法を行う理由は、固体燃料ロケットは一旦点火したら燃え続けてしまい制御が困難な性質がある為です。もし液体燃料ロケットならば噴射の制御・カットが行えるので、調整は容易です。
新型極超音速中長距離弾道ミサイル(2025年1月6日発射)
ミサイルやTEL(輸送起立発射機)の外観は昨年2024年4月2日に発射した中距離級の極超音速滑空ミサイル「火星16ナ」型と目立った違いは見当たりません。やはり完全新型ではなく改良型だと考えられます。発射地点は平壌の中心部から北東25kmあたりの大同江の河川敷になります。
地図比較:発射地点の検証(39.191389, 125.956944)
※Google地図が取得した撮影時期と比べて現在は発射場としての整備が行われており(建造物などが撤去されている)、また川の水深の変化で一部の地面が水面下にあり、見た目の地形は若干変化している。
形状比較:火星16ナと新型極超音速中長距離弾道ミサイル
※北朝鮮の極超音速滑空体(HGV)の変遷
- 上:火星16ナ(火星16B):2024年
- 中:火星12ナ(火星12B):2023年
- 下:火星8:2021年
※2025年1月6日発射「新型極超音速中長距離弾道ミサイル」は、2024年4月2日発射「火星16ナ」と形状の違いが見当たらない。同一機種の小改良型だと推定。
北東方向への発射(2025年1月6日)
※実際には真っ直ぐの飛行ではなく、左右の旋回を実施している。