Yahoo!ニュース

囮無人機を大量に混ぜるロシア軍の新戦法は効果無し:ウクライナ迎撃戦闘2024年12月分の傾向

JSF軍事/生き物ライター
12月21日キーウ、ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍の囮無人機「パロディ」

 2024年12月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で2073発でした。ただし最近数カ月は安価な囮無人機が大量に混じり出したので、無人機については過去の飛来数との比較が意味を為さなくなってしまっています。出典:ウクライナ空軍司令部

○2024年12月:2073飛来859未到達1125撃墜(撃墜率90%)

  • 弾道ミサイル:28飛来7撃墜(撃墜率25%) ※北朝鮮製KN-23×14
  • 転用ミサイル:26飛来0撃墜(撃墜率0%) ※12月31日にKh-22×8
  • 巡航ミサイル:169飛来151撃墜(撃墜率89%) ※大規模攻撃2回
  • 敵性ドローン:1850飛来859未到達967撃墜(撃墜率98%) ※囮を含む 

※「報告時点で滞空中」は集計の簡略化のため「未到達」に含める。12月の「報告時点で滞空中」は無人機6回分8機。

※「未到達」は主にウクライナ領内でのレーダー反応の消失(燃料切れで勝手に墜落)したものと、ウクライナ領外へ迷走していったもの。

※「撃墜率」は未到達があった場合は飛来数から除外して計算。

弾道ミサイルの12月の傾向

  • イスカンデルM弾道ミサイル×9飛来1撃墜
  • イスカンデルM/KN-23弾道ミサイル×14飛来5撃墜
  • キンジャール空中発射弾道ミサイル×5飛来1撃墜

※12月25日のKN-23弾道ミサイル2発は単独表記。

※空軍司令部の集計報告にはない弾道ミサイルの飛来が複数ある。

 12月の弾道ミサイル飛来数28発は最近半年間の傾向と同程度の推移です。ただしそれは最近半年間は北朝鮮製KN-23弾道ミサイルの供給が続いており使用が継続していることを示しています。以下はKN-23の発射数に絞った記録の推移です。

北朝鮮製KN-23の使用数の推移

  • 12月:KN-23×14発
  • 11月:KN-23×2発
  • 10月:KN-23×9発
  • 09月:KN-23×24発
  • 08月:KN-23×24発
  • 07月:0発
  • 06月:0発
  • 05月:0発
  • 04月:0発
  • 03月:0発
  • 02月:KN-23×7発
  • 01月:未詳BM×12発 ※KN-23の疑い
  • 12月:未詳BM×44発(14発) ※2023年12月29日の14発がKN-23の疑い

※BMは弾道ミサイル(Ballistic Missile)の略。未詳BMの一部はKN-23である可能性が高い。

※KN-23は「イスカンデルM/KN-23」と報告される場合が多い。KN-23と飛行特性が酷似している同じ地上発射型のイスカンデルMとの混同はどうしても避けられないので、上記の報告数は確実ではない。残骸を回収して初めて種類が確定する。

転用ミサイルの12月の傾向

  • S-300地対空ミサイル×18飛来0撃墜(ハルキウ方面に10発)
  • Kh-22空対艦ミサイル×8飛来0撃墜(12月31日に発射) 

※S-300の攻撃は4回、うち2回はS-300/S-400という表記。

※Kh-22の攻撃は1回のみ。

 12月のS-300地対空ミサイルとKh-22空対艦ミサイルの対地転用は11月と比べて約2倍の26発。最近半年間ではやや多い数ですが、2024年1月~4月の1カ月あたり40~70発規模と比べると少ない。しかし6月以降にHIMARSの越境砲撃でハルキウの周辺から追い散らされていたS-300が徐々にですが戻ってきた傾向が見られ始めます。

巡航ミサイルの12月の傾向 

  • Kh-69空対地ミサイル×21飛来16撃墜 ※散発的攻撃9回
  • 長距離巡航ミサイル×148飛来135撃墜 ※大規模攻撃2回

※長距離巡航ミサイルの内訳はKh-101空中発射巡航ミサイル、カリブル艦船発射巡航ミサイル、イスカンデルK地上発射巡航ミサイル。同じ亜音速で飛翔し低空飛行や射程も似通っており判別が難しいため、発射数のみ数えて撃墜数は3種類を纏めて集計している。

 散発的な使用に止まっているKh-69を除いた長距離巡航ミサイルのうち、特に主力である2種類(Kh-101、カリブル)は使用回数を減らして1回あたりの攻撃数を増やして飽和攻撃を狙う戦法が続いています。

※イスカンデルKはカリブル派生の地上発射型で纏めて集計される場合も多いが、イスカンデルKの1回あたりの使用は何時も数発程度で単体での大規模発射例がない。

Kh-101とカリブルの発射数の推移

  • 12月25日:Kh-101×50発、カリブル×12発
  • 12月13日:Kh-101×55発、カリブル×24発
  • 11月28日:Kh-101×57発、カリブル×28発
  • 11月21日:Kh-101×7発
  • 11月17日:Kh-101とカリブルの合計×101発
  • 11月13日:Kh-101×2発
  • 09月04日:Kh-101×14発
  • 09月02日:Kh-101×6発
  • 08月26日:Kh-101×77発、カリブル×28発

※11月17日は撃墜数だけでなく発射数も正確に数えられておらず纏めて集計。

 開戦初期の奇襲効果が失われてウクライナ軍の防空体制が立て直されると、亜音速で飛翔する遅いロシア軍の巡航ミサイルはほとんどが阻止されるようになっていきます。数発程度の小規模発射では完封されることも珍しくありませんが、それでも数十発から100発の規模で纏まって大量投入すると飽和攻撃が成立して、1~2割が突破してしまう状況が続いています。

敵性ドローンの12月の傾向

  • 1850飛来
  • 967撃墜
  • 832消失 ※未到達(燃料切れなどでウクライナ領土内で墜落)
  • 19迷走 ※未到達(ロシア、ベラルーシ、占領地域へ飛び去り)
  • 8滞空 ※未到達(集計の簡略化の都合上、未到達に分類する)
  • 24突破

 長距離ドローン攻撃の集計については、数ヵ月前から囮機が大量に混じり出した現在とそれ以前では飛来数と撃墜数の比較は意味が無くなってしまったので、先月から「突破数」を中心に各月の推移を見比べていく方針に変更しています。

  • 囮無人機「ガーベラ」、「パロディ」
  • 自爆無人機「シャヘド136」、「シャヘド131」

※ウクライナ空軍司令部の迎撃戦果報告では敵目標について「飛来」「撃墜」の他に、「宇領土内で位置消失(レーダー航跡消失)」「迷走し宇領土から去る」「報告時点で滞空中」などがあるがこれらを纏めて「未到達」扱いとする。

※「報告時点で滞空中」の数は厳密には未到達ではないが、集計の都合上、未到達扱いとする。その日の迎撃戦闘がほぼ終結した落ち着いた段階でレーダーで把握されている数機がまだ滞空中というケースになるので、どのみち突破は困難と思われる。

※「宇領土内で位置消失(レーダー航跡消失)」は囮無人機が燃料切れで勝手に墜落したケースがほとんどだと見られる。また囮無人機は撃墜数の中にも含まれており、撃墜した残骸の全調査が数量的に非現実的のため、自爆無人機の飛来数を正確に把握することが不可能になった。

囮無人機が混じり出した2024年7月以降の突破数

  • 2024年12月:24突破1850飛来859未到達967撃墜、迎撃率98%
  • 2024年11月:68突破2436飛来1060未到達1308撃墜、迎撃率95%
  • 2024年10月:85突破1912飛来729未到達1098撃墜、迎撃率93%
  • 2024年09月:47突破1331飛来177未到達1107撃墜、迎撃率96%
  • 2024年08月:55突破781飛来72未到達654撃墜、迎撃率92%
  • 2024年07月:36突破426飛来17未到達373撃墜、迎撃率91%

囮無人機が混じっていない2024年6月以前(過去1年分)

2023年7月~2024年6月:691突破4427飛来3736撃墜、迎撃率84%

  • 1カ月の平均:58突破369飛来311撃墜、迎撃率84%

囮無人機を大量に混ぜる戦法は効果を上げていない

 結論から言えば2024年12月のロシア軍の長距離ドローン攻撃に囮無人機を大量に混ぜる戦法は全く効果を上げていません。囮無人機が混じっていない時期よりも突破数が半減しています。あからさまに囮だと分かる飛行パターンのものは無視されており、自爆無人機と怪しき目標は囮無人機ごと叩き落とされており、迎撃率が過去に例が無いほど上昇しています。これは自爆無人機より撃墜しやすい脆弱な囮無人機が撃墜数のカウントに大量に混じっていることを意味しています。囮無人機を大量に混ぜる戦法にやや効果があったと判定できるのは2024年10月のみですが、直ぐにウクライナ軍が気付いて対策を取って無力化されているように見えます。

※ただしロシア軍が囮無人機を大量使用し始めたと言えるのは2024年10月からなのでまだ3カ月しか経っておらず(試験投入はおそらく7月以降に開始)、データとして少ない。今後の推移に注意。

※今のところ囮無人機を大量に混ぜても自爆無人機の突破率を向上させる効果は上げていないが、防空システムに負担を掛ける効果はある。

※以下2023年5月(パトリオット防空システム投入開始)以降の推移

【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移 

  • 2024年12月:28飛来(7撃墜) ※キンジャール×5(1)
  • 2024年11月:22飛来(10撃墜) ※キンジャール×2(2)
  • 2024年10月:25飛来(2撃墜) ※キンジャール×3(2)
  • 2024年09月:38飛来(9撃墜) ※キンジャール×2(0)
  • 2024年08月:40飛来(9撃墜) ※キンジャール×3(1)
  • 2024年07月:22飛来(4撃墜) ※キンジャール×1(1)
  • 2024年06月:16飛来(1撃墜) ※キンジャール×3(1)
  • 2024年05月:10飛来(0撃墜) ※キンジャール×2(0)
  • 2024年04月:20飛来(0撃墜) ※キンジャール×10(0)
  • 2024年03月:29飛来(4撃墜) ※キンジャール×11(1)
  • 2024年02月:13飛来(1撃墜) 
  • 2024年01月:57飛来(15撃墜) ※キンジャール×20(10)
  • 2023年12月:37飛来(18撃墜) ※キンジャール×5(0)
  • 2023年11月:5飛来(1撃墜)
  • 2023年10月:7飛来(0撃墜)
  • 2023年09月:2飛来(1撃墜)
  • 2023年08月:7飛来(1撃墜) ※キンジャール×7(1)
  • 2023年07月:7飛来(0撃墜)
  • 2023年06月:9飛来(9撃墜) ※キンジャール×9(9)
  • 2023年05月:23飛来(21撃墜) ※キンジャール×7(7)

※イスカンデルM、KN-23(北朝鮮製)、キンジャール、オレシュニク

※ツィルコンは極超音速スクラムジェット巡航ミサイルだが高速なので、筆者の集計では簡略化のため弾道ミサイルのグループに入れる。

※Kh-31P対レーダーミサイルは超音速巡航ミサイルの一種で高速だが、攻撃目標がレーダーに限定されるので筆者の集計では除外する。

※トーチカU弾道ミサイルは開戦初期にほぼ使い切っている。

【高速目標】転用ミサイル発射数の推移

  • 2024年12月:26飛来(0撃墜) ※うちS-300×18(0)
  • 2024年11月:12飛来(4撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2024年10月:14飛来(0撃墜) ※うちS-300×11(0)
  • 2024年09月:18飛来(0撃墜) ※うちS-300×12(0)
  • 2024年08月:11飛来(1撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2024年07月:2飛来(0撃墜) ※うちS-300×0(0)
  • 2024年06月:1飛来(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
  • 2024年05月:19飛来(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
  • 2024年04月:42飛来(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
  • 2024年03月:69飛来(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
  • 2024年02月:37飛来(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2024年01月:67飛来(0撃墜) ※うちS-300×45(0) 
  • 2023年12月:32飛来(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2023年11月:17飛来(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
  • 2023年10月:11飛来(0撃墜) ※うちS-300×11(0) 
  • 2023年09月:3飛来(0撃墜) ※うちS-300×1(0) 
  • 2023年08月:12飛来(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2023年07月:37飛来(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年06月:22飛来(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年05月:17飛来(0撃墜) ※うちS-300×12(0) 

※S-300(地対空ミサイル転用)、Kh-22(空対艦ミサイル転用)

※S-400の上位版S-400も時折報告されている。

※P-800オーニクス(地対艦ミサイル転用)の使用は長らく報告されていない。

※Kh-35(空対艦ミサイル転用)がごく稀に報告されている。

【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移

  • 2024年12月:169飛来(151撃墜、撃墜率89%)
  • 2024年11月:224飛来2未到達(190撃墜、86%)
  • 2024年10月:22飛来3未到達(8撃墜、42%) 
  • 2024年09月:54飛来7未到達(39撃墜、83%)
  • 2024年08月:138飛来(111撃墜、80%)
  • 2024年07月:54飛来6未到達(40撃墜、83%)
  • 2024年06月:105飛来(81撃墜、77%)
  • 2024年05月:79飛来(62撃墜、78%)
  • 2024年04月:71飛来(55撃墜、77%)
  • 2024年03月:116飛来(95撃墜、82%)
  • 2024年02月:46飛来(39撃墜、85%)
  • 2024年01月:124飛来(102撃墜、82%)
  • 2023年12月:109飛来(101撃墜、93%)
  • 2023年11月:4飛来(4撃墜、100%)
  • 2023年10月:5飛来(4撃墜、80%)
  • 2023年09月:90飛来(78撃墜、87%)
  • 2023年08月:114飛来(90撃墜、79%)
  • 2023年07月:92飛来(78撃墜、85%)
  • 2023年06月:163飛来(144撃墜、88%)
  • 2023年05月:145飛来(133撃墜、92%)

※Kh-101(空中発射型)、カリブル(艦船発射型)、イスカンデルK(地上発射型)、Kh-69(空中発射型)

※Kh-59は射程が短いので筆者の集計では除外している。

【低速目標】敵性ドローン発射数の推移 

  • 2024年12月:24突破1850飛来859未到達(967撃墜、撃墜率98%)
  • 2024年11月:68突破2436飛来1060未到達(1308撃墜、迎撃率95%)
  • 2024年10月:85突破1912飛来729未到達(1098撃墜、迎撃率93%)
  • 2024年09月:47突破1331飛来177未到達(1107撃墜、迎撃率96%)
  • 2024年08月:55突破781飛来72未到達(654撃墜、迎撃率92%)
  • 2024年07月:36突破426飛来17未到達(373撃墜、迎撃率91%)

囮無人機が混じっていない2024年6月以前(過去1年分)

2023年7月~2024年6月:691突破4427飛来3736撃墜、迎撃率84%

  • 1カ月の平均:58突破369飛来(311撃墜、迎撃率84%)

※シャヘド131/136自爆無人機、ガーベラ囮無人機、パロディ囮無人機

※2024年7月頃から囮無人機が混ざり出し、9~10月頃に確定する。膨大な数の安価な囮無人機が混ざり出したので、ドローン飛来数を過去の記録と比較することは意味が無くなり、自爆無人機と囮無人機の区別ができないために自爆無人機の飛来数は分からなくなってしまった。

※迎撃率が上がったように見えるのは撃墜数の中にも落としやすい囮無人機が混ざり出したため。

※ランセット自爆無人機は射程があまり長くはなく前線の戦術目標に使用されることがほとんどなので、ウクライナ空軍司令部の集計報告では除外されている。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

JSFの最近の記事