ファミリーレストランに仕事で6時間いた作家が追い出されたと主張して炎上 飲食店に長時間いてもよいか?
ファミリーレストランで長時間滞在
ファミリーレストランで数時間にもわたって勉強や仕事をしたことがありますか。
「bizSPA!フレッシュ」の記事で、元外資系金融マンの作家がファミリーレストランに6時間滞在して6000円以上も注文したのに追い出されたという話が掲載されていました。
件の方は、以下の投稿を始めとして、TwitterにいくつかTweetしており、使ったお金の多寡で客を差別しないのは、日本人のモラルとして根深いものがあるとも言及しています。
記事には、該当のファミリーレストランに確認したところ、5時間を超えたら会計するルールとなっているだけで追い出す意図はないという回答があったと紹介されています。
一連の投稿には賛否両論があり、1500回以上もリツイートされるなど議論を巻き起こしました。
6時間で6000円の支払い
私はこれまで、飲食店の空間について考察した記事を書いてきました。
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今回も飲食店における空間についての問題です。しかし、これまで取り上げたケースとは少し異なり、6時間滞在して6000円以上をオーダーし、お金を支払っています。
飲食店の長期滞在をどのように捉えればよいのか、考察していってみましょう。
ファミリーレストランの対応
まず、ファミリーレストランの対応からみていきます。
さきほど元記事を引用しましたが、該当のファミリーレストランでは、最初の注文から5時間を超えた場合に、一度会計をして締めるという方針になっており、伝票にも記載されています。
これは無銭飲食(食い逃げ)を防ぐために行われており、ファミリーレストランが説明した通り、直接的に退店を目的としたものではありません。
ランチやディナーでも、クローズ時間が近くなり、会計を促された経験をもつ人は少なくないかと思います。しかし、ファミリーレストランでは、モーニングとランチ、ランチとディナーの間にクローズしないので、会計を促すタイミングがありません。したがって、最初のオーダーから5時間後というように、経過時間を定めて会計を締めているのです。
無銭飲食しようとする客は、サービススタッフが業務に追われていたり、死角に入って見えなかったりする隙を狙います。しかし、なかなかチャンスが訪れないと、長時間滞在してしまうこともあります。
したがって、明らかに食事が終わっている様子であれば、無銭飲食を警戒して客に会計を促すのは、営業利益率の低い飲食店にとって当然のオペレーションなのです。
今回の場合には、飲食店が退店を求めたわけではありません。しかし、もしも客が、退店を求められたにもかかわらず、店内に居座ったとすれば、不退去罪に問われたり、居続けることで営業を妨害したとすれば、損害賠償を求められたりする可能性もあります。
セキュリティ面を鑑みれば、たとえば、キャッシャーに近い席で長時間滞在している客がいたとすれば、サービススタッフが警戒するのも無理はありません。
空間
これまでの関連記事でも説明していますが、飲食店が提供する空間について触れておきましょう。
飲食店の空間にはお金がかけられており、価値があります。賃料を支払ってその場所を借りており、内装を手掛け、テーブルやイスも配し、テーブルウェアを揃え、電灯をつけ、空調を行っているのです。そして、料理や飲物の代金の中には、この空間のコストも含まれています。
今回の件では、件の方は無銭滞在しているわけではなく、長く滞在するためにたくさんお金を使ったと述べているだけに、飲食店の空間に価値があると認識していることに間違いはないでしょう。
ただ、6000円分オーダーしたから6時間滞在してもよいと言及していることに対しては、私の見解を述べておきたいです。
ファミリーレストランの場合には、ディナー1回転のファインダイニングとは異なり、いかに回転数を上げるかが重要となります。
飲食店における滞在時間を考えてみると、ファストフードであれば30分程度、フルコースやデギュスタシオンが提供されるファインダイニングであれば2時間30分以上は要するでしょう。
ファミリーレストランの平均滞在時間に関しては、すかいらーくグループの調査によれば50分、トレンダーズ株式会社のプレスリリースによると71分になっています。
平均客単価に関しては、日経ビジネスによるとデニーズ八雲店が1600円から2000円、MONEYzineによると全体で1464円です。
したがって、件の方のようにいくら支払えば何時間いてもよいという論理に照らしてみれば、6時間は5回転分くらいに相当するので、支払う金額は通常の客単価の5倍くらい、つまり、だいたい7000円から12000円を支払わなければなりません。
また、同じ時間であっても、曜日や時間帯によっても空間の価値は変わるものです。土日祝日であればほぼ終日、平日であればピークタイムであるランチの12時から13時30分やディナーの18時から20時であれば、空間の価値は高騰するでしょう。
6時間という長さであれば、おそらくランチかディナーのピークタイムのどちらかに、もしくは、どちらとも重なっている可能性が高いと考えられます。
ここまで空間の価値について述べてきましたが、そもそもファミリーレストランは、空間を時間で提供する業態ではありません。したがって、ファミリーレストランにいくら支払えば何時間いてもよいと議論は不毛であるようにも感じます。
ファミリーレストランを始めとする飲食店は、ただ単に空間を提供しているのではありません。あくまでも、食事をするための空間を提供しているのです。
したがって、既に食べ終えているのであれば、たとえ1人で10人分の金額をオーダーしていたとしても、食事をとりたくて待っている客を待たせてよいということにはならないと思います。
ダイニングに対する意識
ダイニングに対する意識も重要であると考えています。
さきほどファミリーレストランは食事をするための空間を提供していると述べました。
ファミリーレストランの中には、仕事や勉強など、食事以外を目的とした利用および長時間滞在を禁止する注意書きを記しているところもあります。
禁止されていなかったとしても、それは、あくまでも禁止していないだけで、食事以外の利用を歓迎したり、推奨したりしているわけではありません。
したがって、食事を終えた後に、長時間にかけて食事以外の目的で滞在することは、特に喜ばれる行為ではないのです。
では、複数人で訪れた時のお喋りや、読書はどう考えればよいのでしょうか。
食事をする時には、たとえば、料理にワインを合わせるように、会話はひとつの食体験に含まれます。そのため、食事を終えた後の会話も、食体験の延長とみなされるやすいのです。
読書も同じような文脈で、紅茶やコーヒーを飲み、お菓子をつまみながら本を読むことは食体験に含まれるものなので、許容されやすいでしょう。
お喋りや読書と比較すれば、テーブルいっぱいに参考書やノートを広げたり、書類を書いたり、パソコンとにらめっこしたりすることは、とても食体験に内包されているようには思えません。
周囲を見渡してみれば、他の食べている客は、食事をとりに来店しているのです。そこで、明らかに食事以外の目的の人がいれば、いくらファミリーレストランといえども、雰囲気は壊されてしまうのではないでしょうか。
家族と一緒にダイニングにいるのに、自分だけが食卓に着かず、別のことをしているのと同じです。小さい頃に、こんなことをしていれば、親に怒られることは明白ではないでしょうか。
ファミリーレストランの空間は、ワーキングスペースでもオフィスでもなく、あくまでも食事をとるための空間です。食事以外の目的で空間を専有したいのであれば、コワーキングスペースに訪れたり、ホテルの一室を借りたりした方がよいのではないでしょうか。
他の業態ではどうか
では、他の業態では長時間滞在はどうなっているのでしょうか。
さきほども説明しましたが、高価格帯のファインダイニングであれば、1回転しかさせません。したがって、ランチでもディナーでも、のんびりと過ごして長時間滞在するのは、あまり問題ないでしょう。
ただもちろん、食べ終えているのに、クローズ時間を超えて勉強したり仕事したりすることは難しいです。
ファミリーレストランと似たようなコーヒーショップやファストフードといった業態では、勉強禁止を明示していることもあります。つまり、ファミリーレストランと同じように、たとえ長時間滞在を禁止していなかったとしても、歓迎されてはいないのです。
このように考えると、食事を主とする業態では、基本的に食事以外の目的があまり喜ばれていないと考えてよいのではないでしょうか。
食体験を重ねたり高めたりする場所
ファミリーレストランで長時間滞在する際に重要となるのは、食に対する意識であるように思います。
生産者が一生懸命に食材を紡ぎ、料理人が調理師、サービススタッフがテーブルまで運んで来ます。もちろん、ファインダイニングとファミリーレストランとでは、その工程に大きな差はありますが、何もしないで料理がテーブルに運ばれて来ることはないという点では、同じといってよいでしょう。
そういったことを鑑みれば、ようやく完成した料理を食べる場において、食べること以外の要素を持ち込むのは、本来あるべき姿ではありません。
「ダイニング」=「dining」は、動詞「ダイン」=「dine」の現在分詞です。そして「dine」は「食事をする」、「dining」は「食事をすること」という意味を持ちます。
したがって、「ダイニング」はあくまでも「食事をするところ」であり、飲食店の空間とは何かと問われたのであれば、食体験を得られる場所でしかありえないというのが、唯一無二の解答であるように思うのです。