Yahoo!ニュース

飲食店で何も注文しなくてもよいのか? 考察するべき3つの点

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

注文するか

飲食店に入ったら、必ず注文しますか。

先日弁護士ドットコムで気になる記事を読みました。

居酒屋に入店してすぐ、オーダーを取りに来た店員に「お水をください」という客、喫茶店なのに「私は注文しません」という客。店員や店主にとっては頭痛の種だ。

出典:彼氏と一緒に入った喫茶店で「何も注文しません」「水ください」…迷惑客の法的問題

冒頭で、喫茶店で注文せずに、水だけを要求する客に苦言を呈しています。そこから、話を展開していき、飲食店で注文しないことに対して、以下のような法的見解を述べています。

  • 有料ドリンク注文を前提にした飲食店でドリンクを注文しない

何の法的問題はない

  • 数人で喫茶店に入り、1人だけ何も注文しない

注文義務はない

そして、最後は以下のように結んでいます。

喫茶店も飲食店と同じく、迷惑な客の入店を防ぐためには、あらかじめ注文義務などの条件をしっかりと明示すると有効だろう。

出典:彼氏と一緒に入った喫茶店で「何も注文しません」「水ください」…迷惑客の法的問題

つまり結論としては、喫茶店や飲食店では客は注文する義務が何もないので、ドリンク注文が必須であれば、注文義務を明示しておくべきであると述べているのです。

飲食店の立場

法的な見解はそうなるのかも知れませんが、飲食店の立場から以下について考えてみます。

  • 実際にどうなっているか
  • どうしてドリンク注文が必要か
  • 注文しなければ飲食店は損をしないのか

実際はどうなっているか

まず、実際にドリンクの扱いはどうなっているのでしょうか。

居酒屋やバー飲食店では、有料の1ドリンクが注文必須となっていることがほとんどです。もちろん、お酒を飲めない客は、アルコール飲料ではなくノンアルコール飲料を注文しても構いません。子供であれば、ジュースを注文しなければならないこともあります。

ファインダイニングであれば、最初にシャンパーニュかノンアルコールカクテルを当然の流れとして勧められ、有料となるミネラルウォーターを注文することが普通です。

次に喫茶店ですが、こちらも1人1商品以上を注文しないといけない場合がほとんどです。待ち合わせの時に遅れて来ても、サービススタッフにメニュー表を渡され、注文を促された経験を持つ人は多いでしょう。

喫茶店の中には、食事やスイーツを注文するだけではだめで、必ずドリンクも注文しなければならない場合もあります。

どうしてドリンク注文が必要か

では、ドリンクを注文するルールとなっているのはなぜでしょうか。

それは、居酒屋やバーといった業態では、ドリンクが売上の中で高い割合を占めることを前提として設計されているからです。

売上に占めるドリンクの割合は、レストランであれば20%、居酒屋であれば40%、バーであれば85%と言われています。ドリンクはフードよりも利益率が高いので、ドリンクをある程度注文してもらわないと経営していけません。

また、居酒屋やバーでは他では飲めないアルコール飲料を用意していることもあるので、その自慢のドリンクを飲んでもらいたいという想いもあるでしょう。

有名なバーテンダーがいるバーに訪れたのに、カクテルは一切注文せず、市販品のおつまみばかりを食べていては、客にとってもバーにとってもあまりよい体験とはなりません。

喫茶店などのカフェ業態も、売上に占めるドリンクの割合は80%と高いだけに、ドリンクの注文が重要です。単価が低い上に客の回転率も悪い業態であるだけに、ドリンクは必ず注文してもらって単価を上げる必要があります。

注文しなければ飲食店は損をしないのか

居酒屋やバー、喫茶店にとってドリンク注文が経営的に重要であることは分かってもらえたと思いますが、何も注文しないのであれば、店を損させているわけではないのでよいのではないか、という声もあるでしょう。

しかし実は、何も注文しない客は店にいるだけで損をさせているのです。

飲食店ではその空間とスタッフにコストがかかっています。つまり、賃貸費用や内装費、電気や空調などの光熱費、イスやテーブル、プレートやカップ&ソーサーやカトラリーなどのテーブルウェア、調理スタッフはもちろんサービススタッフにもお金がかかっているいるのです。

イスに座っているだけでも、適度にコンディショニングされた空間にいるだけでも、水を運んでもらうだけでも、その全てにお金が必要です。イスに座ってテーブルを専有していれば、新しい客が入る機会をも奪っています。

飲食店は慈善団体ではないので、儲かってしかるべきであり、赤字になってもよしと考えるのは全くおかしい考え方なのです。

一皿主義の行き過ぎ

近年、外食産業における「一皿主義」が行き過ぎていると感じています。私が定義する「一皿主義」とは、つまり、一皿の中身しか見ていないということです。

「これだけの料理でこの値段!」はテレビ映えもしますし、雑誌やインターネットでの特集でも取り上げ易いでしょう。しかし、一皿のコストパフォーマンスが著しく高かったとしても、それは着席ではなく立席であったり、ソムリエがほとんどいなかったり、制限時間があって回転率が高かったり、サービススタッフがほとんどアルバイトであったりと、一皿の中に高いコストパフォーマンスを実現できるだけの理由があります。

それ自体は、飲食店の経営において何に比重を置くかというだけなので全く問題ありませんが、特定の箇所にだけ焦点を当て、それこそが全てという扱い方に問題があると思うのです。

料理やドリンクそのものに値段があるのと同じように、空間やカトラリー、人にも値段があります。

そういったことを考えれば、飲食店で1円も支払わずに滞在すること、ましてや水まで飲むことは、全く当然ではないことを、みなさんによく理解していただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事