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フードコートへの持ち込みや無銭滞在が断じて許されない理由

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

フードコートへの持ち込み

<平成から令和へ。ゴールデンウィークの飲食店は好調? 知られざる大型連休における4つの苦労>では、ゴールデンウィークに飲食店が賑わうこと、その理由と苦労を紹介しましたが、みなさんはどこかへ食べに行ったりしましたか。

レストランではなくとも、商業施設の買い物ついでに、フードコートで食事したという人もいるかと思います。

では、フードコートで何も購入せず、外から持ち込んだ飲食物を食べたり飲んだりしたことはありますか。

<誰でも入れるから? フードコートに他の食べ物を持ち込んで食事する人がいる理由とは>という記事では、「フードコートで持ち込んだものを食べたことがある」と答えた人が22.4%もいたということです。

どうして持ち込んで食べようとしたのかも気になりますが、その理由は記されていません。

フードコートにコンビニで買ったものを持ち込んだり、フードコートだけではなくファストフードに持ち込んだりする人もいるようです。

以前、カフェで注文していないのに席に座る、無銭滞在(無銭居座り)について記事を書きましたが、今回も似たようなケースであるといえるでしょう。

カフェなどの飲食店だけではなくフードコートにおいても、持ち込みや無銭滞在はよくないことであると、改めて説明したいと思います。

空間のコスト

持ち込みにせよ、無銭滞在にせよ、フードコートの席に座っているだけであれば、何も迷惑を掛けていないので、問題ないという考え方は正しくありません。

飲食物を提供する各テナントは、共有スペースにあるイスやテーブル、光熱費などに対して共益費を支払っているからです。

共益費で支えているイスやテーブルといった資源は、当然のことながら、それぞれ入居しているテナントで購入した客が使用することを前提にしています。そうでなければ、各テナントがお金を支払ってイスやテーブルを維持する意味などありません。

電源やWi-Fiが利用できるフードコートもありますが、テナントで購入していない客は基本的にこれらを使うべきではないでしょう。

なぜならば、電源を使われたら電気代が発生しますし、Wi-Fiを使われたら他の客が利用する帯域が狭まってしまうからです。どちらとも、テナントにとっては無駄な資源の消費となってしまいます。

フードコートの空間に関しても、飲食店の空間と同じように、しっかりとお金がかけられており、それ自体に価値があるということを理解していただきたいです。

テナントの経営は慈善活動ではなく、経済的活動であるだけに、空間は無償で提供されるものではないと、よく留意しておくべきでしょう。

機会損失

持ち込んだり、何も購入しなかったりするのに、フードコートの席に座っているとテナントの機会損失にもつながります。

混雑時にイスやテーブルを専有していると、飲食店にとって本来は利用してもらいたい購入者が利用できなくなるからです。

購入した後で席に着けないと分かった購入者は、せっかく買ったのに食べられないと満足度は著しく下がってしまうことでしょう。

購入する前に席に着けないと分かったのであれば、待つことはせず、フードコートの利用をやめようと思うかもしれません。

いずれとも、本来は空間と時間を与えられるべき購入者がそれを与えられていない一方で、本来は空間と時間を与えられるべきでない非購入者がそれを与えられていることが問題です。

では、混雑時でなければよいのでしょうか。

いえ、全くよいわけではありません。

なぜならば、購入者が選べる席の選択肢が狭められるからです。持ち込んだり、何も購入しなかったりする非購入者が席を専有することによって、その席を希望する購入者が座れないのはよいことではありません。

持ち込んだり、何も購入しなかったりするのに、フードコートの席に座ることによって、テナントや購入者から機会を奪うことを知っていただきたです。

他の業態ではどうか

では、他の業態では持ち込みはどうなっているのでしょうか。

カジュアルな飲食店であっても、ファインダイニングであっても、持ち込みを容認している飲食店は意外にもあります。

しかしその場合には、例えば、8000円でワインや日本酒を何本でも持ち込めたり、ワイン1本に付き3000円が課せられたりします。ドリンクに関しては主にお酒が対象となっており、1本に付きいくらというケースが多いでしょう。

反対に食べ物を持ち込むことに関しては、ほとんど例が見掛けられません。

飲食店としては、最も重要となるのは料理なので、せっかく訪れたのであれば、料理を食べてもらいたいと考えているからです。

そもそも、飲食店で提供される料理を食べずに持ち込んだ料理を食べるのであれば、飲食店に訪れる理由はありません。誰かの自宅でパーティーを開催したり、食べ飲み可能なスペースを借りたりする方が自然でしょう。

お酒が持ち込み可能となっている理由は、ワインダイニングであったり、優秀なソムリエによるワインセレクトをウリにしたいたりする場合を除いては、その飲食店の存在価値を毀損するほどでもないからです。

ただ、お酒は利益率が高かったり、迅速に提供できたりすることから、利益に貢献しているので、持ち込みに関してはそれなりの値段を課しています。

過剰な一皿主義やコスパ主義

これまでに何度も言及していますが、飲食店における一皿主義やコスパ主義が過剰になっていることが、フードコートに持ち込んで食べてもよいのではないかといった、想像力の欠如を生み出しているように思います。

その一皿だけをみて、コストパフォーマンスがよいかどうかを判断して、強調することは大きな問題をはらんでいるのです。

確かに飲食店にとって料理が表現されたその一皿はかけがえのないものです。

高級食材が使われていたり、完璧な調理テクニックが用いられていたり、驚きの演出があったり、美しいプレゼンテーションが施されていたりと、一皿の中には言及するべき要素がたくさんあります。

しかし、いくら一皿のコストパフォーマンスが高かったとしても、着席ではなく立席であったり、ダイニングエリアの客席数が多かったり、テーブルウェアが廉価品であったり、ソムリエがいなかったり、スタッフがアルバイトばかりであったり、制限時間があって回転率が高かったりすれば、コストパフォーマンスが高いとはいえません。

一皿の中だけに意識が向いてしまうと、それ以外のコストが想像できなくなってしまうのです。

空間にも価値がある

飲食店が何にコストをかけるのかは、その飲食店の考え方や方向性によります。したがって、何にコストをかけるのがよいのか悪いのか、正解であるのか不正解であるのかということはありません。

料理やドリンクに価値が生じて値段があるのと同じように、キッチンスタッフやサービススタッフ、空間やカトラリー、光熱費にも価値や値段があることを、認識することが重要です。

それをしっかりと分かっていれば、飲食店で何も購入せずに滞在することはもちろん、フードコートに持ち込んで食べたり、何も購入せずに滞在したりすることが、よくないことであると理解できるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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