超実践教育機関「タイモブ」の華麗なる挑戦…国を超え、世代を超え、コロナ禍を超えて(1)
昨年末に中国から世界に広まったコロナ禍は、日本では緊急事態宣言が解除され、外出自粛解禁になり、現時点では下火にあるが、全世界的にはいまだ猛威を振るっており、その沈静化において最も有効であると考えられるワクチン製造の可能性もいまだ不透明であり、その第二波、第三波も含めて、いまだ予断を許さない状態にある。
この結果、世界や経済は大きく変わった感がある。ビジネスは停滞し、その経済や社会への影響は、2008年に起き、連鎖的に世界規模の金融危機が発生したリーマン・ショック以上といわれ、最近では、1929年のウォール街の株式市場の暴落(暗黒の木曜日)や10月29日(悲劇の火曜日)の大暴落に端を発し全資本主義諸国に波及し、世界の国内総生産(GDP)が推定で15%減少したといわれる世界大恐慌以上の甚大な被害にもなると考えられるようにもなってきている。
また、90年年代初頭に起きた東西冷戦構造の崩壊以降、グルーバル経済が実現し、テクノロジー等の進展と相まって、世界的な人的流動性・移動性が高まり、インバウンド観光等は日本も含めて世界的な活況を呈していた。ところが、このコロナ禍のために、世界において国を超えた人的移動はピタリと止まり、例えば2020年4月の訪日客数は前年度比で統計史上最大の99.9%減(2900名)にもなったのである。
このようにして、ビジネスや経済、企業活動は大きく変化し、疲弊し、倒産や活動停止になる企業や組織も多々生まれてきている。
このような中でも、もちろん活動や業績を上げている企業等もあり、明暗が大きく分かれる状況が生まれているが、経済や社会の全体としては全世界の多くの国々や地域においてかなり厳しい状況にあることには変わりがなく。
そのために、日本国内およびいくつかの国々でも、社会・経済活動の再開に向けた動きも始まってはきているが、国や地域によっては、コロナ禍が再拡大し、それらの活動再開を再び抑制せざるをえないような状況も生まれてきている。
このような状況においても、非常にユニークかつプロアクティブな動きをしているとして、筆者が注目し関心を寄せている組織がある。それは、タイガーモブ株式会社 (Tiger Mov, Inc.、略称「タイモブ」、代表取締役:菊地恵理子)である。
タイモブは、元々海外インターンシップ事業を柱にした会社である。筆者も2年前に中国・深センそして昨年はイスラエルでの同社が企画した現地視察に参加させていただき、非常に限定された期間ではあったが、それに参加している方々やその企画内容、スタッフの対応等で非常に多くのことを学び、自身の活動への刺激と知見をいただいたし、そこで得たネットワークは今も活かされている。
しかし、今回のコロナ禍で、タイモブのインターンシップ事業はほぼ完全にストップしてしまっている。だが、同社は、出来て新しいベンチャー企業であり、代表をはじめとするスタッフが若く、気力に満ち溢れているゆえに、経営的には厳しい面もあると思うのだが、活動をこれまで以上に活発に行っているようなのである。
つまり、タイモブは、現在のコラナ禍の中で多くの企業や組織が悪戦苦闘しているが、主力事業が苦境にあっても、様々な工夫や発想でそれを乗越えて、ある意味その苦境をバネにして活動しているのである。筆者は、それらの動きや発想は、苦境にある多くの企業や組織の参考になるのではないかと考えた。
そこで、同社の菊地恵理子代表とメール等で質問のやり取りをさせていただいた。それを対談形式にして、3回に分けて、記事として報告させていただくことにした。
出来るだけ多くの読者や企業・組織には、本記事を読んでいただき、タイモブの経験や視点・発想からぜひ多くを学んでいただきたい。また多くの方々や企業等には、タイモブの活動等に関心をもっていただき、もし興味があれば、参加したり、活用されてみてはいかがだろうかと考えている。
[タイガーモブについて]
(鈴木) タイガーモブ(略称はタイモブ)は、コロナ禍の下でも、積極的に活動されています。まず、タイモブが元々どんな会社(組織)か教えてください。また具体的には、いつできて、これまでどんな事業・活動をしてきましたか。
(菊地恵理子) タイガーモブ は、2016年4月に設立された、"次世代リーダーの創出”をミッションに、小さな一歩から大きな挑戦まで、世界中で価値ある繋がりと機会を提供し、未来をリードする人と組織を創出することを目指している組織です。
アジア新興国をはじめ、アフリカや南米等、世界42ヶ国300件以上の海外インターンシップ、短期海外プログラムを紹介しています。これまでに約2,000名以上の学生・社会人を世界に送り出し、当たり前が変わる体験を提供してきています。
また、国籍・世代・ジェンダー・所属・個人の限界、あらゆる境界を超えて、これからの変化を担う人が繋がり、シナジーを生み出す次世代リーダーが集うタイモブコミュニティを運営しています。
[教育機関としてのタイモブ]
(鈴木) ありがとうございます。タイモブは、インターンシップ事業がその柱ですが、単なる旅行会社や旅行代理店ではないですよね。むしろ、ある意味で、教育機会提供機あるいは教育実践機関(ある意味、日本の教育の中でのミネルバ大学(注)的役割)的色彩が強いと思うのですが、その点も含めて、教えてください。
(菊地) そう感じてくださりありがとうございます。嬉しいです。おっしゃる通り、単なるエージェント機能の会社ではなく、コミュニティをコアとする、実践教育機関でありたいと考えています。
私たち(タイモブ)は、インターンシップや、研修プログラムに参加してもらうこと自体にはそれほど意味はないと考えています。それに参加して、むしろ何を考え、何を成し遂げてきたのか、そして、どのような変化が起こったのかに価値があると考えます。その価値を最大化することが私たちの役割です。
その意味で、「世の中に変化を起こしていきたい」、「自分の何かを変えたい」、そういう想いを持つ全ての方々を対象に、人生のターニングポイントになるような、人生のバージョンアップをしていくような実践機会を提供しています。
知識の習得も大事ですが、私たち(タイモブ)が大事にしていることは「Learning by doing(実践を通しての学び)」です。自分の目で見て、聞いて、自分の心で感じ、気付くことが大切と考えています。
そこで、次の3つの点に重きをおいて、タイモブの事業や活動を行っています。
まず、所属する組織の枠を自発的に“越境”することで、「自分は何がしたいのか」「なぜこの価値観なのか」とアイデンティティに向き合うことです。
次が、失敗や成功体験を繰り返すことで殻を破り自分をアップデートすることです。
そして最後が、新たな捉え方や時代の変化、課題を見出し、「自分はこれだ!」と思える分野で輝くことです。
これら観点が活かされた機会や時間・空間そしてネットワーク等を提供することを通して、私たち(タイモブ)は、個人の記憶と記録として積み上がる実践機会を提供し、世界が抱える課題の当事者を増やすため、そして時代に即した“次世代リーダー”を創出していこうと考えているのです
それこそが、「なぜ」を問える人材を世界中に増やす術であり、次世代リーダーを創出する教育機関としての役割だと考えています。
[タイモブの活動・組織のオペレーションは]
(鈴木) タイモブの活動やビジョン・視点が良くわかりました。非常に興味深く、素晴らしいですね。そのような活動やビジョンを支えている御社の現在の組織体制はどのようになっているのですか。代表の菊地恵理子さんも、会社のある東京でなく、北海道に移住されていたり、別のスタッフの方も南アに拠点があったり、コロナ禍以前から、オンラインやICTでオペレ―ションがなされている。ある意味、人気グループだった「SMAP」のようなネットワーキング型の組織。非常に先駆的な組織の在り方も提示されていますが、それは何故ですか。
(菊地) タイガーモブ の現在の組織体制は、全員リモート体制です。東京(4名)、北海道(2名)、栃木、名古屋、そして南アフリカのヨハネスブルグと5つの地域に別れていて、それぞれがリモートワークで活動を実施しています。毎日の朝礼・夕礼、毎週末の全社定例MTG(会合)、そしてslackを用いた頻繁なコミュニケーションで、お互いにたとえ離れていても、まるで隣にいるかのような一体感持って事業を進めています。
南アフリカ拠点もあるので、日本側が終業時間を迎える頃に南アフリカ拠点がスタートし、時差を活用した24時間体制も出来上がっています。
コロナ以前から私・菊地は北海道で子育て&リモート、伴(中東・アフリカ担当)は南アフリカへ拠点を移し、他メンバーは東京のオフィスに出勤をしていました。しかしコロナを機に、オフィスの必要性についても最近議論をして、現在はオフィスを無くす方向性で進めています。それぞれが好きな場所で、好きな人と、より豊かな暮らしを目指しながら「タイガーモブ(の活動)」を出来たらそれが1番良いのではないかという結論に至りました。
オフィス代を“次世代リーダー創出”のための投資に当てたり、3ヶ月毎に行なっていた全社合宿を活用して、スタッフそれぞれが暮らしている別の場所へ赴き、より良い事業や暮らしについて深められたらと考えています。
また、オペレーションについては、メンバーが地球上どこにいてもネット環境さえあれば仕事ができるような仕組みを創業当時から構築しています。
―次回に続く―
(注)ミネルバ大学とは、2014年に創立大学で、キャンパスはなく、世界中で拠点を移動しながら、オンラインの授業を受けつつ、企業との協働プロジェクト等を推進し実践しながら学ぶ、既存の大学とは大きく異なるユニークかつ新しいタイプを教育機関。創立からわずか4年で、入るのが世界で最も難しい大学ともいわれている。
[関連記事]
・「超実践教育機関「タイモブ」の華麗なる挑戦…国を超え、世代を超え、コロナ禍を超えて(2)」
・「超実践教育機関「タイモブ」の華麗なる挑戦…国を超え、世代を超え、コロナ禍を超えて(3、了)」
[対談者略歴等]
〇菊地恵理子:タイガーモブ株式会社 代表取締役CEO
関西学院大学総合政策学部在学中に1年間休学し、蘇州大学に語学留学の後、上海のインターンシップではホテル業を経験する。大学卒業後に入社した株式会社ジョブウェブでは4年間勤務。新卒採用の営業職に従事したのち、「タイガーモブ」の前身となる海外事業部を立ち上げる。ジョブウェブ退職後、「タイガーモブ」を設立し、急成長するアジア新興国を中心に、アフリカ、南米、中東等世界各国での海外インターンシップの機会を提供。世界42か国での多種多様で実践的なビジネスインターンシップを通して、時代を牽引するリーダーを輩出している。
第16回女性起業家大賞・スタートアップ部門特別賞、イノベーションにあふれた女性経営者を表彰する「EY Winning Women 2018」では、ファイナリスト5名に入る。また、内閣府主催のシンポジウム「つなぐ、架け橋~アジア・太平洋で活躍する女性起業家たち~」にて、アジア等で活躍する女性起業家として選出された。
2016年4月設立で、次のような事業を行う教育実践機関。
・海外インターンシップ、コミュニティサイト”タイモブ”の運営
・小学生/中学生/高校生/大学生/社会人向け海外インターンシップ・海外研修の企画・実施
・企業向け社員研修の企画、実施
・集客支援
・グローバル人材採用支援
●タイガーモブ の名前の由来
「虎のように、勢いよく未来に向かって突き進め」という意味を込めています。
Be A Tiger!!