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ノルウェー法務・危機管理大臣にインタビュー、快適すぎる刑務所や外国人在住者について

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
進歩党の全国総会に出席するアームンセン法務・危機管理大臣 Photo:Abumi

日本でよく「極右」と紹介され、欧州で勢いを増しているという右派ポピュリスト政党は、ノルウェーでは「進歩党」(FrP)だ。

彼らは自身のことをリベラルな政党だと主張するが、そのように紹介する報道機関は稀だ。今、進歩党は与党となり、保守党とともに連立政権を組んでいる。

厳しめの移民政策、減税、より厳しい刑罰や警察官の増員などを掲げる。

国の法や安全を維持する責任者は、進歩党のペール=ヴィリィ・トゥルドヴァン・アームンセン法務・危機管理大臣(Per-Willy Trudvang Amundsen)だ。

5月は1年で最も重要な政党の総会がオスロ郊外で開かれていた。アームンセン法務・危機管理大臣とゆっくり話をする機会があったので、その内容をここに書き留める。

ノルウェーといえば、快適すぎる刑務所環境などが話題となりやすいが、そのことについて意見を求めるには同大臣は適任だ。

快適すぎると他国で驚かれるノルウェーの刑務所について

日本のツイッターなどでは、日本の学生寮の部屋とノルウェーの囚人の部屋が写真で比較され、「ノルウェーの刑務所のほうがよさそう」と指摘されることがある。この写真を大臣に見せると、このようなものがネットでシェアされていることに驚いていた。

「ノルウェーの囚人に対する接し方に、日本の人々が驚いていることは理解できます。刑務所環境や刑期の在り方はノルウェーではリベラルです」。

「私が協調しておきたいことが、進歩党が政権入りしてからは、刑務所事情は厳しくなっているということです。例えば、ハルデン刑務所は施設が整いすぎているのではないかという疑問の声に、私たちは耳を傾けました」。

※そんなに豪華なのかと疑問に思った方は、日本語で「ハルデン刑務所」とネット検索してみてほしい。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

「刑務所は確かに良すぎてはいけません。これからの新しい刑務所はもっと慎み深いものにします。日本ほどの刑務所ほどではないでしょうが」。

「それでも、日本の刑務所とは大きな距離があるのかもしれないですね。適切な刑務所環境は再犯率の低さにつながるのがノルウェーでの実例ですが、日本とは文化的な違いもあるのでしょう」。

「一方、ノルウェーの刑罰は今はとてもリベラルなので、重度の犯罪を犯した者にはより厳しい刑罰を与えられるように取り組んでいます」。

移民が増加するノルウェーでは、外国人にとってノルウェーの刑務所環境がさらに魅力的に写ってしまう可能性がある。そのこともふまえて、移民が犯罪を犯した際には、できるだけ母国へ強制送還させ、そこで刑を受けられるようにしているとのこと。

77人の命を奪ったテロ事件、刑罰と死刑制度について

2011年7月22日、ノルウェーでは連続テロが発生し、アンネシュ・ベーリング・ブレイビクが単独で77人の命を奪った。ブレイビクは現在勾留中。最高刑に相当する禁固21年の判決が下された際には、ブレイビクは裁判所で微笑んでいた。ノルウェーには死刑制度はない。

「欧州人権協約などとの関係で、ノルウェーには死刑はありません。日本の人々がブレイビクがしたことに対して、なぜ死刑はないのかという疑問をもつことは理解はできます。それでも、ノルウェーは、彼をきっかけに法を改正し、刑罰を重くするということはしませんでした」。

「社会にとって危険すぎるという判断がされれば、刑期は延長されるでしょうが、将来、彼に対して国がどう対応するかは今は分からないことです」。

「進歩党はより厳しい刑罰に賛成していますが、国会で大多数を得られていないのが現状です。より厳しい刑罰には賛成ですが、党は死刑には反対しています」。

ノルウェーに住む日本人「移民」を、進歩党はどう思う?

進歩党の政治家といえば、難民申請者や難民だけではなく、移民全体に対しても厳しい政策をもつことで知られる。

実のところは、他の左派政党でも移民政策の厳しさでは大きな距離はないのだが、言論の面では、進歩党は最も「正直に」、「ストレートに」移民増加の問題点を話す。

シルヴィ・リストハウグ移民・統合大臣(進歩党)は、「北欧の福祉制度の甘い蜜を吸おうとせず、自活しなさい」、というメッセージを明確に送る。

左派色が強めのノルウェー社会では進歩党に眉をひそめる人もおり、筆者が進歩党を取材していると聞くと、心配する・驚く人が多い(イスラム教徒などでなければ関係ないのではと思っている人もいるが、長くなるのでこの記事では省く)。

「ノルウェーでの報道を知っている在住外国人には、進歩党は怖そうと思っている人もいますが、在住日本人をどう思いますか」と最後に聞いた。

「進歩党は日本とはいい関係を築きたいと思っていますし、日本の人々はノルウェー社会でもうまく暮らしています」。

「ノルウェーのメディアは残念ながらバランスがとれた報道ができていないのが事実です。ノルウェーに住んでいる日本の人々は怖がらなくて大丈夫ですよ」と、アームンセン法務・危機管理大臣は微笑んだ。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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