ノルウェー政府「経済格差の原因は外国人」
31日、ノルウェー政府は国の将来の展望をまとめた調査書を発表した。長期的な観測で、今後ノルウェーの福祉制度や経済にどのような影響が起こりうるか、課題などがまとめられている。
国連の世界幸福度報告書で「最も幸せな国」として1位となったノルウェー。
一方、30日に子ども・青年・家族総局が発表した調査では、9万8千人=「ノルウェーに住む10人に1人の子どもが貧困」とされた。ノルウェーでの「貧困」とは、「資源不足が原因で、その社会で当たり前とされている生活水準が満たせず、社会的活動に参加できない状態」を示す(同局)。
統計局SSBが1月に発表した調査では、4.4%にあたる12万人が無職の状態。
イェンセン財務大臣(進歩党)は31日の記者会見で以下のような点を指摘する。
- 2012年と比較して、ノルウェー経済を支えてきた石油価格は2016年には42%下落。同時に人口は増加し、高齢化が課題となる
- パートタイムからフルタイムで働く納税者を増やし、誰もがより長い期間働き、生産性を上げなければいけない
- 平均より就労していない層は「移民」。30代の就労調査では、ノルウェー生まれの移民の就労率は83%、EU出身者は71%。アフリカ、アジア、ラテンアメリカ出身者は56%と最も労働市場に溶け込んでいない。40~50代の調査でも大きな変化はみられない。
移民はノルウェー社会にとっての「課題」だとする大臣は、「移民はノルウェー語を学び、ノルウェー文化になじみ、国の慣習に従わなければならない」と述べた。持続的な社会を維持するためにも、移民が社会に溶け込めるような厳しく・正しい移民政策が必要と強調。
財務大臣が所属する進歩党Frpは、右翼ポピュリスト政党であり、首相が率いる保守党と連立政権を組む。移民や難民の受け入れには批判的な立場をとっており、同党のリストハウグ移民・統合大臣をはじめとして、「移民・難民・難民申請者の中には、ノルウェーの福祉制度の甘い蜜を吸おうとしている者もいる」と警戒を強めてきた。
厳しい政策を次々と打ち出した効果か、EU統計局ユーロスタットが発表した調査では、2016年にEUに初めて難民申請をした人数が最も激減したのはノルウェーと判明。
今回の展望報告書でも、「外国人がノルウェーの経済格差の原因」として、財務大臣は地元の各報道機関に記者会見前日から答えていた(一例:Dagbladet)。同党の党員は「外国人は自立しようとする意識が足りない」という前提で議論を進める。
※追記 今回の大臣の発言引用で一部の現地メディアは「外国人」という言葉を使用していたが、その後「移民」に変更
一方、現在の与党は右翼政権。野党の左翼陣営からは、お金持ちや「生粋のノルウェー人」の味方であるとされる右翼陣営こそが、国の格差を広げている原因と批判。
進歩党は、移民や外国人がどれだけ国にとって「問題がある」かを強調することに重点を置いてきた。進歩党のプロパガンダを広めるために、今回の展望報告書も「利用されている」との指摘も目立つ。進歩党支持者が多い電子版新聞Nettavisenでは「国にとって移民は“どれだけお金がかかるか”」という記事が並んだ。
過激な発言が目立つ進歩党だが、パートナーである保守党のソールバルグ首相は、このような時はより柔らかい表現方法で現場をなだめる。「女性や移民には潜在能力があり、ぜひとももっと労働市場にでてもらいたい」と記者会見で話した。
「外国人が国にとってどれだけ課題か」の数字化は進歩党の方針だが、政府から依頼を受ける統計局SSBはその方向性に懐疑的な姿勢を示すこともある。外国人が国にどのようなプラスの効果をもたらすかは数字化されていない。
Photo&Text: Asaki Abumi