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難民に厳しいノルウェー移民大臣へ「ありがとう」。あなたが汚れ役を担うから、私たちは善人を演じられる

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
移民大臣(右)と進歩党のリンゴマークのロゴ(左)Photo: A Abumi

5日、ノルウェー国営放送局に寄稿されたコラムが、SNSで広く拡散されている。現地で人気のあるコメディアン、ハラルド・アイア氏が書いた正直な文章は、移民・難民について議論が続くノルウェーで話題を集めている。StoryBoardによると、この日ノルウェーで最もSNSでシェアされた記事となっている。

シルヴィ・リストハウグ移民・社会統合大臣(進歩党)は、難民申請者の受け入れを厳格化。「難民がノルウェーの未来と福祉制度システムを脅かす」など、一連の言動が大きな議論をよんでいた。先日は、ノルウェー国民の55%が右翼ポピュリスト政党・移民大臣の厳格な難民政策を評価しているという世論調査が注目を集めた。

アイア氏は、冷徹な移民大臣がバッシングに負けずに、受け入れを厳格化してくれているお陰で、一般人は今までのように「寛容な人のふり」をし続けられると、正直に書いていた。

「彼女が汚れ仕事をする、国境の厳しい見張り番となった。そのお陰で、私はいつも通りに、家のソファに安全に座って、こう言うことができます。“ああ、かわいそうな難民の人たち!”」

ノルウェー新聞の見出しをよく飾る移民大臣 Photo:Asaki Abumi
ノルウェー新聞の見出しをよく飾る移民大臣 Photo:Asaki Abumi

移民・社会統合大臣は、メディアでも批判的に取り上げられやすい。写真の選び方も、怖いイメージを植え付けようとしているかのようなセレクションが目立つ。批判の的となりやすいこの職に、喜んで就こうという政治家は、昨年どれほどいたかは疑問だ。

冷徹な人間の側面を子どもに見られたくない、父親としての責任

「リストハウグ大臣に移民大臣としての責任があるように、私にも大きな責任があります。2人の娘の父親であり、恋人がいます。彼らの前ではいい人間でありたい。私の心配事や将来の不安を、大切な人たちには見せたくない」と、アイア氏は続ける。

「私の大事な人々に、こんなことを勇気をだして叫ぶことはできない。“世界でも最もお金持ちである国のひとつに、たくさんの人が来る!資格も言語知識もない人たちが!ノルウェーの福祉国家が脅かされる!来るのは男性ばかり!これはだめだ、国境を閉じなければ!今すぐに!”」。移民大臣や進歩党党員は、これらの言葉を報道陣の前で連発している。

「世間の目を気にして、人々は公の場で賛同の意思や本音を表示することはない。いい人でいたいから。名前や顔を出す必要のない世論調査で、大臣を支持する高い数字が出るのはそのためだ」とアイア氏はまとめている。

私たちの代わりに汚れ役を引き受けてくれて、ありがとう?

「移民大臣が、頑丈で冷たい金属でできているお陰で、我々は正直な胸の内を吐き出さずにすむ」と。しかし、同氏は移民大臣を称賛しているわけではない。コラムの最後には、「移民大臣のことを本当に国民が支持しているのなら、名前と顔を出して応援するだろう」と、まとめている。

結局は、世間的には冷酷な人間と思われたくない他政党や国民に、隠れ蓑として一時的にうまく利用されているのは、同大臣と進歩党なのでないか。「汚れ役を全部担ってくれて、ありがとうよ!」、そう思わせる終わり方だった。

同日、リストハウグ大臣は自身のフェイスブックで「応援ありがとう!頑丈で冷たい金属でできている、というのは同意できませんけれどね。今の状況では、心は温かく、頭は冷静に冷たくする必要があります。私たちの国のために、長期的な目線で考えなければいけません」と投稿。

コラムは、一部のノルウェー人が、難民議論では公にはしない本音を反映しているのだろうか。

Phoot&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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