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「難民は福祉国家の患者ではなく、納税者へ」。ノルウェー移民大臣が求める難民の社会参加

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
難民がノルウェー社会に溶け込むための条件とは Photo:Asaki Abumi

2015年のノルウェーでの難民申請者数は約3万1千人。各大臣が対応に追われる中、12月15日の内閣改造で首相は移民・社会統合省を新設した。大臣は移民・難民政策に厳しい進歩党のシルヴィ・リストハウグ氏。

同氏は就任直後から、受け入れ審査を厳格化することを明言していた。ノルウェーの福祉制度に憧れて渡ってくる人数を減らし、庇護が本当に必要な難民を優先させることが狙いだ。

29日、記者会見で大臣は40に及ぶ移民政策修正案を発表。これまで3年間の在住歴のある難民に発行されていた永住ビザは、5年間へと延長される予定。

永住ビザ取得のためには、ノルウェー語能力試験の合格、3年間の現地での労働、住居の確保などが厳しく審査されることとなる。

今年から倍増した難民申請者数に警報を鳴らす Photo:Asaki Abumi
今年から倍増した難民申請者数に警報を鳴らす Photo:Asaki Abumi

ノルウェー移民局局長は2016年の難民申請者は1~10万人に及ぶ可能性があるとしている。10万人に近い数が現実化し、加えて家族を呼び寄せた場合、「ノルウェーの福祉社会に暴力的な影響を及ぼしかねない」と大臣は話した。

家族ビザでの呼び寄せを厳格化するために、呼び寄せる本人は最低4年間、労働か学業に従事することなどを提案。労働体系は約423万円(30万5200ノルウェークローネ)という厳しい年収条件がつく。

また、保護者なしで単身でノルウェーに渡ってきた子ども・若者は、18歳になった時点で大人の難民として改めて審査される。18歳になるまでノルウェーで何年間も育っていたとしても、母国の状況が変わり、庇護が不必要とみなされた場合は、強制送還される可能性が高まる。

また、「難民」と定義する審査基準を変更し、「難民」認定者を減らす。納税せずとも、難民だからこそ享受できていた福祉制度の門戸を狭める狙いだ。

ノルウェーの福祉制度の甘い蜜を吸うのではなく、自力で生活し、納税者として社会に溶け込み、国に貢献すること。これができない者は、滞在許可が以前ほど容易に取得できなくなるということになる。

移民大臣へのインタビューを順番に待つ報道陣 Photo:Asaki Abumi
移民大臣へのインタビューを順番に待つ報道陣 Photo:Asaki Abumi

数年間の労働条件と社会での自立を、紛争や迫害から逃れてきた難民に滞在条件として提示する大臣。だが、ノルウェーでは失業率悪化に歯止めがたたず、日本と比較しても簡単に職を見つけることは難しい。現地のノルウェー人にとっても職探しが難航する中、難民の自立を政権はどうサポートしていくかまでは示されなかった。

これらは提案段階で、これより国会で審議される。現在は国境を超えてくる難民申請者数が一時的に減少傾向にあるが、春に再度増加するとみられており、それまでに対策案を固めたい意向だ。

大臣は、「福祉社会の患者ではなく、納税者へ」とこれまで何度も強調。「ノルウェーに住みたいと思う者なら、それなりの強い意志をみせるべき」とし、「厳しい条件は、難民や移民が社会で自立するための大きなモチベーションになる」と語った。

「難民・移民はノルウェーの福祉制度に甘えようとしてはいけない」。ノルウェー政府からは国際社会に強いメッセージが送られることとなる。「ノルウェーに移民として住む日本人への影響はない」と、大臣は最後に付け加えた。

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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