4月12日はパンの日 「捨てないパン屋」2人で半日で10万円以上の売り上げ、食品ロスゼロ
4月12日はパンの日。その前日の4月11日、「捨てないパン屋」にチャレンジしたパン屋が、たった2人で、半日で、10万円以上の売上げを達成し、さらに売れ残りゼロ、食品ロスゼロも実現した。隠れ家的パン屋を訪問した。
株式会社Ocalan(オカラン)の工房は、埼玉県川口市、京浜東北線のJR川口駅東口から徒歩5分程度、「樹モール(ジュモール)」の愛称で親しまれる川口銀座商店街の中にある。川口市は人口60万都市。時間帯によっても所要時間が違うが、JR新宿駅から川口駅まで25分、JR東京駅から25分と、多くの人が想像する「埼玉県」のイメージより、都心に出やすい場所にある。
株式会社Ocalanの工房は、ビルの4階。エレベーターはない。入り口に看板があるだけ。非常階段のような外階段を上がって行く。どう見ても入りやすい場所ではない。
階段を上がり、4階の入り口までたどり着くと、壁に絵が描かれている。
ここが、株式会社Ocalanの工房の入り口だ。
入り口を開けると、焼きあがったパンが、テーブルいっぱいに所狭しと並べられていた。
株式会社Ocalanの代表取締役は坂巻達也さん。このビルの1階で、父親の代から続くパン屋「ボングー」を長年、営んできた。ビルのある、川口銀座商店街振興組合の理事長も務めている。
坂巻さんは、長年、パンが余ってしまい、捨てることに心を痛めてきた。サンドウィッチなどを作ると発生する「パンの耳」も、よかれと思ってお客さんに差し上げたら、かえって苦情を受けた苦い経験がある。「文句を言われるなら仕方ない」ので、廃棄物の業者に泣く泣く渡してきた。
お父様が他界され、まもなく「ボングー」を閉店した。ビルの1階は他店に貸した。その後、2015年ごろからビルの4階でパン教室を始めた。パン教室と並行して、地元レストランや保育園など、法人向けのパン屋を営んできた。
筆者は2015年4月、初めて坂巻さんのパン教室に参加した。そこで坂巻さんから「パンの耳が余って捨てている」という話を聞いた。
「だったら、食品ロスに関心を持っている川口市議と坂巻さんを引き合わせよう」と思い、2015年7月、川口市議のお二人を坂巻さんのところへ連れて行った。これが、現在、数名で主宰している「食品ロス削減検討チーム川口」の始まりだ。坂巻さんは、そのメンバーとなった。
「食品ロス削減検討チーム川口」は、川口市民の家庭で余っている食品を集め、必要な組織や人へ届ける「フードドライブ」を年2回のペースで続けてきた。活動を続けてから1年くらいたった2016年8月、坂巻さんの「パンの耳」を受け取ってくれる市内の学習支援施設が見つかった。以降、坂巻さんは、毎月、パンの耳を学習支援施設に届けている。
2016年10月17日には、10月16日の世界食料デーを記念して、食品ロス削減検討チーム川口主催の食品ロス削減シンポジウムを開催し、北は北海道から南は鹿児島まで、全国から120名が集まった。坂巻さんと、一緒にパン作りを続けている宗高美恵子さんも参加し、会場にブースを出展した。
この時、「乾物で世界をもっとPEACEに!」を掲げ、乾物文化を世界に広める活動を続けている、サカイ優佳子さんと田平恵美さんのユニットDRYandPEACE(ドライアンドピース)は、坂巻さんたちが作った、乾物カレーパンを販売し、完売した。
そしてこのたび、坂巻さんが「長年夢だった」という「捨てないパン屋」を初めて始めた。対面店舗なし、完全受注生産。外階段を4階まで上がるという悪条件にもかかわらず、多くの方が詰めかけた。
予約販売をスタートした12時にはぎっしり並べられていたパンが、全て完売した。
坂巻さんに、感想を伺った。
通常は、5人から6人の従業員が1日かけて達成する売り上げを、今回、半日でたった2人で達成したという。しかも、食品ロスゼロ。
筆者も一通り買ってみた。レタスと卵とハムのサンドウィッチは、具がみずみずしく、さまざまな食材の食感の違いが楽しめた。
予約販売を買ってくれた方への特典として、なんと、名前入りのパンも予約者全員に用意されていた。
広島の「捨てないパン屋」
筆者が記事(働き方改革を実現した京都の飲食店と広島のパン屋の2つの事例)などで何度もご紹介してきた、広島の捨てないパン屋、ブーランジェリー・ドリアンも、捨てないことにチャレンジする姿勢が、多くの人の共感を呼んでいる。2015年の夏から、パンを1個も捨てていないという。全国紙の記事によれば、売り上げはキープし、従業員の休みは増えた。
一方、飲食店でアルバイトすることの多い大学生に聞いてみると、仕事としてパンを捨てた経験のある学生は本当に多い。「胸が痛む」などの声を多く聞いている。
全国のパン屋の中には「売り切れ御免」にしているところもある。ブーランジェリー・ドリアンがお世話になっている小麦農家の方は、「売れ残ったら全部買い取るから送って」と言ったそうだ。真摯に食べ物を作っている方は、それくらい、気持ちを込めている。
「捨てないパン屋」を名乗り出るパン屋が、全国で、少しずつ、増えてくるのではないか。「食品ロス削減」より「販売機会ロス」の方を重視するパン屋だと、捨てないことは難しい。チャレンジかもしれない。だって、「売り切れてゼロになることはよくないことだから」。
でも、売り上げが上がり、働く人もラクで、捨てるパンが1個も出なくて、ごみもなくて、お客さんが喜んでくれるなら、こんなにいいことはない。
参考情報:
「捨てないパン屋」の挑戦 休みも増え売り上げもキープ(朝日新聞 2017年3月22日付)
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