働き方改革を実現した京都の飲食店と広島のパン屋の2つの事例
2018年1月12日、服部栄養専門学校で栄養士科の学生150名に食育概論の講義を行なった。食のキャリアと食品ロスがテーマである。クイズを交えて、世界の食品ロス量と、日本の食品ロス量を伝える。世界の食料生産量のうち、重量ベースで3分の1にあたる13億トンが、毎年捨てられている。3者択一の回答のうち、「3分の1」より多く選ばれるのは「4分の1」や「5分の1」だ。つまり、実際よりも廃棄量は少ないと、多くの人が思っている。
このクイズの答え合わせをするたび、「こんなに捨てるのなら、最初から作らなければ働く時間も食材もエネルギーも無駄にならないのに」と思ってしまう。多く作らざるを得ない食品業界の商慣習など、いろんな事情がこの状況を作っていることはわかるが・・・・
ロスを減らして働き方改革が実現した事例その1:京都の佰食屋(ひゃくしょくや)
いつも講演で引き合いに出すのが、取材させて頂いた、京都の飲食店、佰食屋だ。その名の通り、百食しか作らない。売り切れ御免。
牛肉をまとめて仕入れて、くまなく使う。京都市内に3種類の店がある。肉寿司、すき焼き、ステーキ丼。
フレンチレストランで20年以上働いていた人や、百貨店で長年働いていた人も、今では佰食屋で働いている。「子どもの運動会なんて行ったことがない」という人や、「家族と一度も夕食を食べたことがない」「子どもを風呂に入れたこともない」という人たちが、午後の早い時間に「百食」を売り切り、まかないを食べ、翌日の仕込みをし、夕方、帰宅していく。ある男性は、残業が当たり前の飲食業界から転職した。佰食屋で働き始めて間もない頃、夕方の帰宅時間が早いため、彼の妻が「あなた、本当に働いてるの?」と聞いたという。
佰食屋を経営する株式会社minittsの代表、中村朱美さんは、二人の幼い子どもを抱えており、下のお子さんは脳性麻痺を抱えている。佰食屋は、ひとり親や、障害のある方、家族の介護をしている方も働くことができる飲食店だ。
取材記事:なぜシングルマザーや障害者も働くことができるのか 一日百食限定、京都女性社長の店から働き方改革を問う
ロスを減らして働き方改革が実現した事例その2:広島のブーランジェリー・ドリアン
ブーランジェリー・ドリアンは、以前、たくさんの人を雇用し、たくさんの種類のパンを作り、毎日捨てていたそうだ。だが、モンゴル人留学生に言われた「なんで安売りするとか、人にあげるとかできないの?」と言う言葉や、その後、パン作りの修行で訪れた海外でゆったり働き美味しいパンを作る姿に刺激を受け、やり方を変えた。人の雇用とパンの種類を絞り、単価を上げ、リピート買いのできる定期通販制度を作った。売り上げはキープしたまま、2015年夏から1個もパンを捨てていないそうだ。
参考記事:
(2030 SDGsで変える)もうパンは捨てない 作る・売る・働く、全て一新
筆者がフードバンクの広報責任者を務めていた時、東京都内の百貨店に出店するパン屋から相談を受けたことがある。その百貨店は、閉店間際までパンを何種類も残しておくよう指示し、値下げも許さない。結局、売れ残り、毎日泣く泣く捨てているという。百貨店曰く、「閉店間際のお客さんも、パンを選んでもらえるように」「値下げはイメージダウン」だそうだ。
パン屋を60年以上続けてきた方から「パン屋は捨てることの多い商売」だと伺った。パン屋でアルバイトをする学生にも、廃棄の現場の状況は聞いている。だが、ブーランジェリー・ドリアンのような事例もある。
国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が決まり、「2030年までに世界の食料廃棄を半減する」と目標が定まった。もう「大量生産・大量販売・大量消費」の時代ではない。政府の唱える「働き方改革」も、生産量や販売量を適正量に抑えることで、あるレベルまでは達成できるのではと考える。そのためには、食品業界に存在する商慣習やルール・・・例えば「欠品すると取引停止(欠品ペナルティ)」や「前日納品の賞味期限より1日たりとも古いものの納品は許されない(日付の逆転)」「賞味期限より手前の販売期限で棚から撤去する(3分の1ルールの販売期限)」など、これまでの慣習も変えていく必要がある。とはいえ、それが難しいからロスはなかなか減らないのだが。