炎上は誤解 60→65歳まで国民年金保険料を払えと言われて若者が喜んで賛同するべき驚きの理由3つ
10月25日、公的年金改正の議論がスタート
去る10月25日、社会保障審議会年金部会がリスタートしました。これは厚生労働省に置かれているもので、公的年金改正の議論を行うために有識者、労使代表が集う場です。
過去の議論はおおむね5年に一度行われる年金制度改正につながっており、今回も次の法改正の準備に向けたスタートとみられており、報道関係者の注目を集めていました。
実際のところ、委員の入れ替わり(世代交代?)が多かったことから、初回の議論は、過去の年金改正についてのおさらいや論点再確認(厚生労働省側が説明)、各委員が自己紹介がてら自身の問題意識を述べる、という「顔見せ」で終わっているのですが、新聞報道では改正予定項目(とされているもの)についての報道がスタートしています。
報道で話題となっている「60→65歳まで国民年金保険料を納めよ」は現役世代いじめなのか
そのうち、分かりやすく話題をさらったのが「国民年金保険料の納付期間を現行40年(20~60歳)を45年(20~65歳)に延長する」というものです。具体的な案が示されたわけでもないのに、批判めいた記事がいくつか展開されていました。
ぱっと見、保険料負担を5年も延ばす「改悪案」のように見えます。あるいは破たんリスクを回避するために現役世代に負担を押しつけているような構図にもみえるので、批判のトーンが強まります。
批判記事を読んでは、「ふむ、そういうものか」と早合点し、さらに批判や悪口がSNSなどを通じて拡散されていくという構図です。
ところで、今私は「早合点」と言いました。この問題、むしろ若い世代にとってプラスになる点が多く、これを「反対するのは損」だとしたらどうでしょうか。
「負担増が得するわけがない!」と思うかもしれませんが、ちょっと話を聞いてみてください。3分後、コラムのまとめにたどりついた頃には考え方が変わってくるはずです。
では、3つの理由を紹介します。
理由1:65歳まで納めた保険料で給付で得をするのは「これからの世代だけ」で年金生活者には回らない
まず、5年長く国民年金保険料を納めることになったとしても、「今の年金生活者の給付アップにはならない」ということです。
私たちは年金制度については「負担は増えるが給付は減らされる」というイメージが強いと思います。「どうせ今の年金額は据え置きで、5年長く保険料を払えというんでしょ!」と思うわけです。実は違います。
今回の案のベースとなっているのは、「45年加入したら、40年加入する前提の国民年金の額を12.5%(+5年分)多くする」というアイデアなのです。
前回の年金改正の議論、財政検証結果などをひもといていただければ分かりますが、全世代に向けて行われる給付水準の低下について対策を考えるべきだという論点があり、その中では、「国民年金を45年払えば、45/40として給付する」ことで、水準が大きく改善するとしています。
ここでは「若者の保険料がお年寄りの給付に回る」という感覚ではなく、「これから長く保険料納付した人だけ、給付アップする」というやり方が議論されました。
この前の年金部会の資料(資料2 P24)をみても、「基礎年金の拠出期間延長:基礎年金給付算定時の納付年数の上限を現在の40年(20~60歳)から45年(20~65歳)に延長し、納付年数が伸びた分に合わせて基礎年金が増額する仕組みとした場合」として試算した結果が紹介されています。
ここでは、このまま行くと所得代替率が50.8%までダウンする見込みの年金水準が、45年加入とすれば57.6%まで回復するとしています。
この給付アップが反映されるのは「実際に5年長く保険料を納付した人だけ」なので、すでに年金生活をしている高齢者の年金額アップにはまったく反映されません。
つまり「長く払った分は、自分の給付アップにのみ反映される」わけですから、むしろ若い世代は損がなく、これに賛成したほうがいいということになります。
厚生労働省 社会保障審議会年金部会のページ(資料が公開されている)
理由2:60歳以降も会社員で働いている人たちは「国民年金保険料分」が年金に還元されていなかったのが反映される
実は会社員の多くが「40年以上年金保険料を納めている」時代に入りつつあります。22歳から60歳まで働いたとすれば38年(20歳から学生として加入していればこれを合わせて40年)ですが、現実には約8割の男性が60歳以降も働いています。
正社員(65歳定年)の場合はもちろん、継続雇用で正社員に準じて働いている場合も、厚生年金保険料を引かれています。
このとき「私は22歳から65歳まで43年保険料を納めている。厚生年金保険料は国民年金保険料を含むと聞いた。ということは国民年金(老齢基礎年金)の計算時には43年分計上されるのだろう」と思っているとなぜかそうはならないのです。
基礎年金の計算が40年(480月)がマックスになっていてそれ以上はノーカウントとなるからです。
日本年金機構 老齢基礎年金額の計算方法
だからといって加入が40年を超えたら厚生年金保険料がダウンすることもありません。この計算式のままだと、65歳まで働くことが標準的となった時代にむしろ「保険料を長く払っても給付に関係ない」という不合理が生じています。
この計算式、1990年代の改正の頃から大きく変化していません。当時は65歳まで多くの人が元気で働くことなど誰も想定していませんでした。過去を責めても仕方がないので、ここをしっかり改正しておかないと我々が損をすることになります。
これも今のお年寄り、すでにリタイアしている世代の高齢者には関係がないことです。
だから若い世代のほうが「今は65歳まで、つまり45年働く可能性がある時代なのだから、そこをカウントして私の基礎年金額を増やしてくれ!」と声を上げないといけません。
「国民年金に65歳加入」が、厚生年金に加入して65歳まで働くことが標準となった時代の私たちにとってもプラスとなりうるわけです。
理由3:「保険料は60歳まで納める」「基礎年金は65歳からもらう」という謎の5年ギャップがそもそもおかしい
実は国民年金の制度は60年以上前から「65歳から年金をもら」制度です。一方で、最初から「保険料は60歳まで」となっていました。
この「60歳まで納めて、5年空いて、65歳からもらう」という5年の謎ブランクが最初からあったのが、今となっては話をややこしくしてしまいました。
(当時も「だったら60歳から年金をもらいたいという声に負けて減額して受け始められる繰り上げ年金制度を妥協の産物として作ってしまったりしています)
働けるあいだは保険料を払い、働けなくなったら年金をもらうという理屈でいえば、謎のブランク期間は必要ないわけですから、「65歳まで働いているのだから保険料を払う」とするだけのことです。もちろんその分の年金額アップになることは“理由1”で説明したとおりです。
今どき、60歳でリタイアする自営業者は多くありません。むしろ70歳を過ぎても現役という人が増えているほど。
以前のコラムでも触れたとおり、60年前の、今より寿命が16年も短かったころと比べて、今が5年延長しておかしいことはないはずです。
10/27 Yahoo!ニュース筆者記事 「60年前」から「60歳まで加入」の国民年金制度、16年寿命が延びた今、5年延ばすのってダメですか?
(ウラの理由4):どうしてもイヤなら未納するという選択肢もある
国民年金保険料は、基本的には保険料納付の案内が届き、自分で納める仕組みです。自動引き落としなどを活用することもでき、また一括して前納すると割引も受けられます。
言い換えれば、意図的に未納をすることもできます。まったくオススメはしないのですが、自分の未来の年金額アップを放棄して保険料納付をしないことは可能というわけです。ですから絶対反対派は未納をすればいいのです。ちゃんと納めて年金額アップを勝ち取りたい人を反対する必要はないわけです。
(ただし、高所得者の場合、強制的に差し押さえをされて納付させられることがあります。また、所得がないなど納付困難な場合は免除手続きをして認められれば保険料ゼロで当該期間の分は1/2相当の年金額に反映されます(税が1/2投入されているから)。無職になってしまった場合などはこの制度をきちんと利用してください。)
まとめ: 若い世代が反対すべきは「負担はさせるけど年金額に反映しない案」だったときだけ
ということで、5年の国民年金保険料納付期間延長は、若い世代にとってそれほど不利益ではないどころか、むしろプラスになる可能性が高いことをまとめてみました。
意外なようですが、この改正は若い世代にとってプラスになることばかりです。そして今のお年寄り世代には特にプラスがない話です。
感情的に「5年長く払えなんて、死ぬまで負担せよというのか!」と言いたい気持ちは分かりますが、少しだけ実態を調べればそうではないことがわかります。きちんと情報開示もされています(過去の年金部会の資料、議事録は全公開されているので、「負担増、給付減の政府の姿勢が見え見え」のようなコメントをする有識者は調査不足をカミングアウトしています)。
もし現役世代として反対するべきことがあるとすれば「負担はしてもらうけれど、年金額には反映しない案」として途中で軌道修正されてしまった場合です。
実はこれ、国の税負担増につながる可能性があって(国民年金の財源は保険料と税の半分ずつとなっているため)、財務省などの横やりが入ってくる可能性があります。
厚生労働省としてはこうした横やりをかわしつつ、若い世代にとって価値のある改正としたいはずで、議論が途中でねじまげられることがないよう、しっかり注視したいところです。
まずは改正案の提示、年金部会の議論をしっかり見守っていきたいところです。