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「60年前」から「60歳まで加入」の国民年金制度、16年寿命が延びた今、5年延ばすのってダメですか?

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
国民年金の加入期間を40年から45年に延ばすというのですが…(写真:イメージマート)

国民年金の加入期間を延長する案がやや炎上中

国の年金制度改正を議論する社会保障審議会年金部会がリスタートしました。再来年に行われる財政検証結果の準備が始まるわけですが、新しいメンバーも増え、初回はそれぞれの自己紹介や意見を述べることで時間が終わってしまいました。

ところが新聞報道や雑誌記事などでは「国民年金負担を5年延ばす」について早々と批判的記事を掲載しているようです。25日の年金部会はYouTubeで配信され誰でも傍聴できましたが、過去の議論は紹介されたものの具体的案が出たわけではありません。

記事を受けて、年金制度への信頼が低下するとか、破たんリスクのある制度はどうしようもないとか、炎上気味に批判がされています。

例)例えばこの記事など

10/27 マネーポストWEB 国民年金「45年加入」に延長検討の“年金バカヤロー改悪” 失敗に終わった「100年安心改革」

10/26 日刊ゲンダイデジタル 年金保険料「納付5年延長」の衝撃! 1人100万円の“大増税”を国民に押し付け、給付はケチる

実はこの5年延長案、若い人ほど賛成したほうがお得な制度なのですが、その説明は次回のコラムに譲って(一週間以内に公開予定、公開時にはここにもリンクを貼ります)、今回は「国民年金はそもそも、60年前からずっと60歳まで加入だった制度」だったという話をしてみたいと思います。

そう考えてみると、さすがに5年は延ばしたっておかしくないと思うからです。

せっかくなので国民年金法制定当初の資料を調べてみると驚きの事実が!

2000年より古い情報は、インターネットにはなかなか見当たりません。過去の改正情報をまとめたものが年金部会の資料としていくつかありますが、国民年金制度は当初から65歳給付開始だったとあるが、何歳まで保険料納付だったか明確な記述がなかなかないのです。

私が学んだ記憶の限りでは制度発足最初から60歳まで加入だったはずなのですが、きちんと確認をしたいと思いました。たまたま、企業年金連合会の図書資料室に行く機会があったので、「国民年金二十年秘史」とか「国民年金三十年のあゆみ」のような資料を発掘してチェックしてみました。

「三十年のあゆみ」の記載によれば、

加入期間 20歳から60歳に達するまで

給付開始年齢 65歳から

というのが最初の法律から設定されていました。この法律、成立が昭和34(1959)年の4月、36(1961)年に施行されているのですが、なんと60年も前から、今と同じ加入期間、給付開始年齢だったということが確認できました。

私たちはよく「年金制度は場当たり的に変えすぎだ」と批判するわけですが、それどころか変えなさすぎなぐらいです。

国民年金制度については、保険料のほうは大きく変化していますが、まさか加入年数が60年も変わっていないとは驚きです。だって、60年前って、今より日本人の平均寿命はずっと低かったはずですよね?

日本人の寿命の延びも含めて比較するとこんな感じ

厚生労働省が毎年公表する「日本人の平均余命」という資料では、最新の平均寿命と過去の寿命が記載されています。そこで、改めて整理してみましょう。まず私たちの平均寿命の延びはこんな感じです(過去は5年単位なので昭和35年データを採用)。

昭和35(1960)年 平均寿命 男性65.32歳 女性70.19歳

   ↓

令和3(2021)年 平均寿命 男性81.47歳 女性87.57歳

     その差       男性16.15歳 女性17.39歳

60年前、男性の平均寿命と国民年金制度の受給開始年齢がほとんど等しいということは、なかなか衝撃的です。「標準より長生きをして働けなくなった場合に年金が生活を助ける」というようなメッセージがはっきりしています。今のように「払った分、もらえるのは当然」というような感じはありません。

そして今、私たちは95%くらいの確率で65歳まで生存できる長寿時代に生きています。平均余命は男性で約20年、女性で約25年のあいだ、年金をもらう時代です。

一方で、この60年における国民年金制度の加入期間の変化はこうなります。

昭和36年 20歳~60歳到達

   ↓

令和4年 20歳~60歳到達

その差   ゼロ

「60年を経過」して、「16年も男性が長生き」するようになった時代に、「保険料を負担する期間がまったく変わらない」ほうがむしろおかしいように思います。

ちなみに厚生年金のほうはどんな感じか

ちなみに厚生年金制度(会社員・公務員が加入)の受給開始年齢のほうは会社の定年年齢が上昇するに従い段階的に引き上げてきました。

昭和19年 男女とも55歳

昭和29年 男性60歳 女性55歳

昭和60年 男性65歳 女性60歳 ※男性は実質60歳

平成6年 男性65歳 女性65歳 ※国民年金相当分が65歳へ

平成12年 男性65歳 女性65歳 ※厚生年金相当分が65歳へ

かつては会社員の定年が早く、無収入となってしまうため、厚生年金のほうが早く受け始められました。今は国民年金(基礎年金)と厚生年金がともに65歳を受給開始年齢としています。

また、加入期間は「働いているあいだ」ということなので、20歳より早くても加入しますし、最大で70歳まで加入する仕組みになっています(段階的に引き上げられたがここでは割愛)。

つまり、定年年齢が55歳から60歳になれば5年加入期間が延びましたし、60歳以降もフルタイムで働いている場合は退職するまで厚生年金に加入していることになり、また加入期間が延びたことになります。

厚生年金のほうは時代に応じた変化をしてきたといえます。

まとめ:60年ぶりに5年加入期間が延びるのはさすがにおかしくないのでは

こうして振り返ってみると、「20歳から60歳まで加入」の制度を「20歳から65歳まで加入」の制度に60年ぶりに(法律改正をこれから検討、法案作成、施行することを考えれば65年あるいはそれ以上かかりそう)、見直すことはそうおかしくないように思います。

現実に65歳まで現役の時代ですし、それ以降も働いている人が多くいます。ざっくり、60歳代前半の7割、60歳代後半の5割が働いています。70歳以降でも2割弱が働いているほどです(総務省統計局「労働力調査」より)。

60年前に「60歳までは自営業者も現役だろうから、保険料を納めてください」としていたものを、60年経過してから「65歳まで現役だろうから……」とするだけの話です。

また、今回の改正案についてはむしろ5年長く納めた人は年金額がプラスになる可能性があります。過去に年金部会で議論されていた範囲を振り返る限り、「40年→45年納付期間とし、12.5%多く保険料を納めた場合、基礎年金額も12.5%アップさせる」という案が示されていたからです。

前回の財政検証結果ではオプション試算Bとして、「保険料拠出期間の延長と受給開始時期の選択」というデータがあり、そこでは「基礎年金給付算定時の納付年数の上限を現在の40年(20~60歳)から45 年(20~65歳)に延長し、納付年数が延びた分に合わせて基礎年金が増額する仕組みとした場合」の検証をしています。実際、5年保険料を多く納めることで12.5%相当くらい給付水準が上昇している試算結果が示されています。

これにもとづけば、国の年金改正議論は

5年多く保険料を払えば、5年分年金額が増える

ということを目指しているわけです。前回の年金部会をほとんど傍聴していた私は、一部報道にあるような「負担させるが給付は増えない、のような議論」はなかったと記憶しています(これを触れずに、『どうせ給付はたいして増えないに違いない』と憶測記事を書くメディアは過去の議論をチェックしていないということになります)。

10/25 厚生労働省 社会保障審議会年金部会資料(資料2に記載あり)

そして、「年金額がアップするのは5年多く納めた人だけ」という前提で議論されていたので、その保険料が今の高齢者の年金増額にはつながらないことにもなります。これも現役世代にとっては悪くない話です。

さて、ここまで本記事を読んでいただいた皆さんに改めて伺います。

「60年前から変わっていない制度」、「16年長生きするようになった今」、加入期間を5年延ばすことについて、どうお考えですか?

これって、そんなにおかしい話でしょうか?

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今月は以下のようなコラムも掲載しています。よろしければご覧ください。

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フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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