日本の投票率を上げるために必要な二つの主権者教育
投票率が52.05%となった参院選。
前回2019年の参院選(48.80%)からは、3.25ポイント上昇した。
前回の衆院選から1年も経っておらず、その間に目立った政権の動きもないこと(追加で評価する対象がない)、野党が分裂しており、与野党で拮抗していないこと、参院選は元々衆院選より投票率が低くなる傾向があることなどから、前回の参院選より少し高い程度、50%程度かと思っていたが、直前に安倍晋三元首相への銃撃事件が起こり、数ポイント押し上げたようだ(世論調査では10数%が自身の投票行動に影響を与えたと回答している)。
一方、10代の投票率は、34.49%と、前回(32.28%)から2.21ポイント上昇したものの、全体の投票率からは17.56ポイントも下回り、18歳選挙権が実現した2016年以降で、最も差が大きくなった。
近年若い世代で政治や社会課題に対する関心が高まっていることから、全体よりも上昇率が少し高くなるのではと思っていたため、正直意外な結果となった。
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詳細は様々なデータが出てこないと分析しづらいが、今回の大きな争点となった「物価高」に対して、上の世代に比べ、その影響が肌感として感じにくかったことも大きいのではないかと思われる。
ではどうすれば、今後大幅に投票率を上げられるのだろうか。
「義務投票」という奇策も一案であるが、自由意思で投票している国の中で最も投票率が高い国の一つである(投票率が80%以上)、スウェーデンはどのような施策を行っているのだろうか。
ちょうど今回の参院選の公示日となった6月22日、スウェーデン大使館主催で、「若い世代と民主主義」をテーマに、スウェーデン若者・市民社会庁のスタッフ、高校生と対話するイベントに登壇したため、そちらから紹介したい。
自由投票で最も投票率が高いスウェーデン若者・市民社会庁が意識していること
若者の投票率を上げるために、どういうことをしているのか?
その質問に対して、スウェーデン若者・市民社会庁のレベッカ・ヒンさん、高校生のレベッカ・オルソン・ラスさんがイベントを通して述べていたのが、「パワー(自分の権利)を認識してもらうこと、使ってもらうこと」の重要性だ。
実際、スウェーデンの教育法では、小学1年生の段階から、民主主義の価値を学ぶことが重視されており、幼少期から民主主義教育が行われている。
具体的には、2つの大きな柱があり、一つは、民主主義の知識を広めること、もう一つは、「民主主義を通して」民主主義を学ぶための経験を提供することである。
後者の民主主義を通して民主主義を学ぶために、例えば小さな話では、リンゴかバナナか、ということについて、みんなで話し合って意思決定をする。
中学生以上を対象に行なっている「学校総選挙」においても、単に知識的に投票の方法や、各党の違いを学ぶだけでなく、どうしたら自分たちの影響力を高められるか、その権利や方法についても考える。
イベント内では出てこなかったが、学校を民主化し、学校の様々な意思決定に生徒が参加していることも、この主権者教育(民主主義教育)の一環である。
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日本に圧倒的に足りない「民主主義を通して」民主主義を学ぶ経験
主権者教育の2つの柱、知識的に民主主義を教えること、経験を通して民主主義を学ぶ(実感する)こと。
政治的中立性が過度に厳しい日本では、前者も全く足りていないが、特に足りていないのが、「民主主義を通して」民主主義を学ぶための経験を提供することだ。
上記のイベントでは、スウェーデン人の2人とも「パワー(自分の権利)を認識してもらうこと、使ってもらうこと」が非常に重要だと話していたが、日本では、自分に社会を変えるパワーがあると思っている人は少ない。
何度も紹介しているが、日本財団の18歳意識調査の結果を見れば、一目瞭然だ。
「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」が26.9%しかおらず、諸外国の半分以下になっている。
日本若者協議会が実施したアンケートでは、「児童生徒が声を上げて学校が変わると思いますか?」という問いに対し、約70%の児童生徒が「(どちらかというと)そう思わない」と回答し、国や地域どころか、身近な学校でさえ変えられないと思っている子どもが多い。
そしてこれは必ずしも若者だけでなく、日本社会全体がそうなっている。
大人で、自分が所属している会社などの組織を変えられると思っている人がどれほどいるだろうか。みんな不満に思っていても、行動には出ない。それが日本の現状である。
こうした、「自分には社会を変えられるパワーがある」と感じてもらうには、実際にそのパワーを認識し、使ってもらうしかない。
それが、「民主主義を通して」民主主義を学ぶ経験である。
しかし日本では、こうした実践がほとんどないばかりか、学校は管理教育、規律を守らせる方向に進んでいる。その最たる例が「ブラック校則」だ。
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そして、投票率を上げるための手段として、選挙直前の啓発的アプローチばかりが取られている。
だが、日本人ひとりひとりが、「自分には社会を変えられるパワーがある」と感じていない現状では、選挙直前にいくら「投票の意味」を訴えても限界がある。
国政選挙で4回連続投票率が全国一位となっている山形県は、日頃から若者が政策の意思決定に関わっている。
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様々な場面で、民主主義を重視し、みんなで話し合い、意思決定をする。そして、パワー(自分の権利)を認識してもらう。
その積み重ねでしか、大幅に投票率が上がることはない。
次回の国政選挙まで数年は開くと言われている。
その間に、各自治体や各学校で、「民主主義を通して」民主主義を学ぶ経験をどこまで提供できるか。それが問われている。
日本若者協議会では、各自治体にこども・若者議会の設置を求める署名を立ち上げている。より実効性の高い取り組みが増えるよう、働きかけていきたい。