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今後若者の投票率は右肩上がりになるのではないかという希望と懸念

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

10代の投票率が上がった理由

投票率は55.93%で、戦後3番目の低投票率となった2021年衆議院議員選挙。

10代の投票率は、総務省が公表した188投票区を抽出して調査した速報値によると、18歳の投票率は51.14%、19歳は35.04%で、10代としては43.01%となった。

前回2017年の衆院選は、18歳47.87%、19歳33.25%で、10代40.49%だったため、前回よりも2.52ポイント高い投票率となったが、全体でも2.25ポイント上昇したため、全体とはあまり変わらない結果となった。

それでも、2019年参院選からの全体上昇率(7.13ポイント)よりも10代の上昇率(10.73ポイント)が高かったことを踏まえると、10代の参加率は高くなったと言える。

そして18歳選挙権が実現した最初の2016年参院選以降ずっと下降していた投票率が、2016年と変わらない水準にまで回復し、底を打った感もある。

ちなみに19歳で投票率が下がる理由は、高校を卒業し、教員などから直接投票へと呼び掛けられる機会が少なくなること、住民票を移しておらず不在者投票制度の手続きが面倒なこと、高卒で働き始めた人たちは忙しくそれどころじゃないこと、が考えられる。

ここでもつい大学生にばかり目が向けられがちであるが、半数近くはすでに働き始めていることを忘れてはならない。

関連記事:「投票に行こう!」という呼びかけは誰に届いていないのか?(室橋祐貴)

出典:日テレNEWS
出典:日テレNEWS

なぜ今回、10代の投票率は上がったのか。

大きく3つ理由は考えられるが、まず一つ目は、やはりコロナの影響が大きい。

それは出口調査を見ればよくわかる。

全世代で、「景気対策」「子育て・教育政策」「新型コロナ対応」が上位に来ているが、特に10代は「新型コロナ対応」が突出して高くなっており、今回のコロナ禍で政治の重要性を実感した人は多いだろう。

出典:日テレNEWS
出典:日テレNEWS

次の理由は、主権者教育の質的改善が進んでいる点である。

2016年の18歳選挙権導入当初の主権者教育は、政治的中立性との付き合いが難しく、教育委員会や政治家が問題視した事例も散見されたため、その後はなるべく当たり障りのない内容(架空の政党など)を扱う学校が多かったが、今回は、本物の政党・政治家を扱った事例も多く見られ、実効性の高い主権者教育になりつつある。

参考記事:国会議員に質問・本物の投票箱で模擬選挙…新科目「公共」必修化前に高校で授業(読売新聞)

全体としてどうなっているかは今後の調査結果を待ちたいが、来年度から高校で新科目「公共」が必須化されるのに加え(詳細は後述するが、これまでの暗記型からアクティブ・ラーニング型に大きく変わる)、2021年3月に最終報告が出された文部科学省の主権者教育推進会議において、現実の政治的な事象を取り扱う必要性について強く謳われている。

(現実の具体的な政治的事象を扱った授業について)

〇 主権者教育をめぐる現状に目を向けると、文部科学省が令和元年度に高等学校等を対象に行った「主権者教育(政治的教養の教育)実施状況調査」では、調査実施年度に第3学年に在籍する生徒に対して主権者教育を実施したと回答した割合が全体の95.6%を占めるなど、その取組の充実が認められる一方、取組の内容を見ると、平成27年通知で示した「現実の政治的事象についての話し合い活動」に取り組んだ割合が3割強(34.4%)であることや、指導に当たって関係機関と「連携していない」と回答した割合が5割弱(48.2%)あることなどが明らかとなった。 1で述べたように、昭和44年通知以来、半世紀ぶりに見直した平成27年通知では、政治的教養に関する教育の取扱いを充実し、政治的中立性を確保しつつ、現実の具体的な政治的事象を扱うことを積極的に行うことを明確化したところである。こうした経緯を踏まえれば、これらの調査結果の示している現状は、主権者教育を推進する上での課題の重大さを示すものであるといえよう。

〇 このような実態を乗り越え、各学校において、現実の具体的な政治的事象を扱った授業の展開を推進するため、国において以下の観点から取組を推進することが求められる。

ア.ともすれば政治的中立性を過度に意識するあまり教師が指導に躊躇する現状10を乗り越え、学校における指導を実際に充実する観点から、各学校や教育委員会に対し、平成27 年通知や「私たちが拓く日本の未来(活用のための指導資料)11」に示した考え方の一層の積極的な周知や、これらを踏まえた具体的な実践事例の収集・開発、横展開が求められる12。その際、小・中学校向けの取組の充実も求められる。

イ.教師は生徒に対し常に「正解」を伝えるものという、いわゆる「正解主義」を乗り越えて、「学びの主体」である児童生徒自身の力量形成に向けた授業改善を推進するため、国による副教材や教師用指導資料の作成、学校・教育委員会とNPO・シンクタンク等とが連携した取組の推進が求められる。

ウ.現実の具体的な政治的事象を扱った授業の実施には、家庭や地域の理解が重要であり、主権者教育の重要性についての家庭への周知が求められる。

引用元:今後の主権者教育の推進に向けて(最終報告)文部科学省

関連記事:成果乏しい日本の主権者教育。抜本的拡充の転機になるか、文科省・主権者教育推進会議の最終報告案が提出(室橋祐貴)

こうした流れによって、本物の政党や政策を取り扱いやすい環境は整いつつあるのではないだろうか。

また、SDGs教育が広まってきており、社会課題に関心を持つ若い世代が増えてきているのも大きい。

電通が実施している「SDGsに関する生活者調査」によると、SDGs認知率は10代が全世代で最も高く、7割を超えている(10代男性75.9%、10代女性72.2%)。

認知率自体も、コロナ禍を経てほぼ倍増しており、社会全体としても高まっている(2020年実施は29.1%、2021年は54.2%)。

そして3つ目が、投票以外の形で、政治参加している若者が増えていることだ。

先日筆者も出演したNHK「クローズアップ現代+」でも紹介されていたが、オンライン署名サイト「change.org」の署名活動の数はコロナ禍の前の2.5倍になり、校則問題や痴漢対策など、10代の署名立ち上げも目立つ。

NHK「クローズアップ現代+」コロナ禍の政治決戦~衆院選 有権者の判断は 若者は~

筆者が代表理事を務める日本若者協議会でも、個人会員は700名を超え(団体会員は64団体)、1日1人以上は新規会員が増え続けている。

また、当時15歳のグレタ・トゥーンベリ(現18歳)が始めた気候変動対策を求める運動Fridays For Futureは、日本でも広がっており、世界中の同世代に大きな影響を与えている。

もちろん、有権者数が10代でも200万人ほどいることを考えると、こうした活動に参加している若者はまだごく一部だが、友人や知人がこうした活動をしていれば、自然と政治について目に触れる機会が増えるため、全体の底上げには繋がっているのではないだろうか。

かつ重要なのは、こうした新しい政治参加によって、政治や社会が動き、実現しているケースが多いため、無力感を感じることなく、今後も参加する可能性が高いということだ。

2022年度から高校で新科目「公共」必修化

そして、今後は基本的に若者の投票率は右肩上がりになっていくのではないかと感じている。(投票率の高かった世代がどんどん“引退”しているため全体での上昇はあまり見込めないが)

それは、上述の2番目(主権者教育の質的改善)と3番目(多様な政治参加の広がり)も大きいが、来年から高校で新科目「公共」が必修化されるからである。

これまでの主権者教育は、質的にも課題があったが、何より量が少なく、選挙前に少し模擬投票を行うなど、あくまで特別授業の一つであり、日常的に現実的な政治事象について学ぶ機会は非常に限られていた。

しかし来年度から、高校でも新学習指導要領が導入され、新科目「公共」が必修化される。

現行の「現代社会」と比べると、実際の社会問題について授業で話し合いをする機会が増えると想定されており、模擬選挙にとどまらず、模擬請願、模擬立法など、より実践的な取り組みも増えそうだ。

日本では、1969年の文部省通知によって、高校生の政治活動の禁止、現実的な事象を取り扱った、実効性のある政治教育が厳しく制限され、2015年に方向転換されるまで、約45年間、政治教育がほぼ行われてこなかった。

しかし今後は、欧米と同様に、本格的に政治教育が行われるようになる。(義務教育への導入はまだ少し先だが)

さらに、授業内だけでなく、校則見直しの議論に生徒が参加する取り組みも広がるなど、学校内民主主義の実践事例も増えてきており、自分が動くことで社会を変えられるという「政治的有効性感覚」の高まり、政治参加への意欲も増してくると思われる。

今回の衆院選において与野党の主要政党が公約に入れていた「子ども基本法」(子どもの権利を法的に保護する)が成立すれば、さらに学校内や地域で子どもの意見表明権確保のため、生徒の学校運営への参加、地域参加の取り組みが広がる可能性は高い。

子ども、若者の意見を尊重し様々な取り組みを進めている山形県では、投票率も全国で1位となっている。

関連記事:なぜ山形県の10代投票率は全国首位なのか?【衆議院議員選挙】(室橋祐貴)

政局本位から政策本位へ

そうした流れを踏まえると、今後やってくるのは、若い世代の方が、政治リテラシーが高い、という状況だ。

同時に、現実的な政治事象を分析できるようになると、求める政治家像も、わかりやすく対立を演出するような政治家ではなく、専門的な知見も活用しながら効果的な政策を作れる人へと、変わってくるのではないだろうか。

もちろん、求められる政治報道の中身も変わってくる。

これまでの与野党の対立や政治家の動向、そしてスキャンダルを中心的に扱う、政局メインの報道ではなく、より議論の中身の質を問う政策本位の報道へ、と。

変化の兆し

その変化の兆しは、今回の衆院選でも現れつつある。

今回の選挙では、政党ラベルだけでなく、個人での評価も結果を大きく左右しており、「世代交代」と「スキャンダル追及議員の落選」が特徴的だ。

詳しい票数は、原英史氏がブログでまとめているが、「スキャンダル追及型」の議員たちの多くは知名度は上がったものの票を減らして落選となっている。

今回の選挙結果をみると、「政策論争型」の議員たちは盤石だった。前原氏や玉木氏は2017年衆院選と比べ票数を大きく伸ばした。これに対し、「スキャンダル追及型」の議員たちの多くは票を減らして落選となった。

引用元:衆院選で鮮明に!国会でのスキャンダル追及は票にならない

60代を境に求める政治家像の違いが鮮明に?

withnewsが比例区の投票を年代別にまとめているが、その結果も興味深い。

維新に投票したのはどんな人? 比例区の投票、年代からわかったこと お年寄り頼みの政党は〝退潮〟

結論は、タイトル通りであるが、今回、議席を伸ばした政党は、現役世代が投票しており、一方の立憲民主党と日本共産党は獲得票数の半数以上を60代と70歳以上が占める(立憲56%、共産58%)。

他方、国民民主党は、60代+70歳以上が占める割合は30%で、30歳代以下で33%も占める。

つまり、今後も継続的に国民民主党や日本維新の会のような政党が議席を伸ばす可能性が高いということである。

現在の60歳代以上は、安保闘争や大学紛争を間近に見ていた世代であり、憲法改正阻止が野党政治家の重要な役割になっていた「55年体制」を見てきた世代である。

ざっくり特徴を挙げると、イデオロギー色が強く、特に野党に「反対」「対立」を求める傾向が強い。

しかし、時代が変化する中で、社会課題が山積しており、政治家に期待するのは、社会課題の解決という時代になりつつある。

特にオンライン署名や政策提言などで政治家と関わる機会が増えてきている若い世代で顕著だ。

そして、今後さらに新しい政治リテラシーを持った世代が増えてくると、その流れは加速するばかりであり、今の60代以上の活動量が減ってくる今後10年間で、政界は大きく変わっていくのではないだろうか。

55年体制から抜け出せていない国会と政治報道

その時に変わらないといけないのは、政治家だけでなく、政治報道もである。

現状は、社会課題のテーマ単位よりも、政党や派閥単位の番記者がメインになっており、自民党総裁選で「派閥」が大きなテーマとなったが、そこに囚われているのは、マスコミも変わらない。

そして、個人の社会状況やニーズも多様化する中では、政党だけで判断することは難しく、政治家個人の実績や関心テーマが強く問われるようになるのではないか。(小選挙区制が現代日本に合っていないと思っているが、それは別の記事で取り上げたい)

目指せ!投票率75%プロジェクト
目指せ!投票率75%プロジェクト

筆者も実行委員として関わった「目指せ!投票率75%プロジェクト」が、キャッチコピーに掲げている「あなたの推しは、だれ?」という状況である。

しかし現状、「推し」を決められるほど、個人の国会活動が可視化されているかというと、されていない。(単に国会で質問するだけでなく、与党議員や省庁側にまでアプローチしているか等が政策実現においては重要である)

筆者は、たかまつななさんからのインタビューを受けて、withnewsにて、各党で活躍している国会議員を紹介したが、こうした情報は筆者が普段から近くで現場を見ているから知っていることであり、メディアで広く報道されることはあまりない。

衆院選、若者目線で選ぶなら…? 主要6政党を室橋祐貴さんが分析

以前、「生理の貧困」を立憲民主党の議員が国会で取り上げ、すぐに政府が対応を進めたことから、それをその議員の実績だと取り上げたテレビ局があったが、これまでの一連の流れをよく知っている人達からすれば、とんだ「誤報」であり、現状はメディアの情報が正しいとも限らない。

それは政策単位で与野党問わず追っている記者が少ないために起こることである。

選挙前に各候補者にアンケートを実施する取り組みも、現在メディアや民間団体などによって行われているが、アンケートでは曖昧な回答も多く、どうとでも答えられるため、やはり重要なのは実績、活動履歴である。

有権者が知りたいのは、任期期間(衆議院議員なら4年弱、参議院議員なら6年間)に何をしたかであり、現状それを知るのはハードルが高い。

実際、政策レベルで良い活躍をした議員が落選することも珍しくなく、非常にもったいない状態になっている(今回であれば、自民党・木村弥生氏、立憲民主党・山内康一氏、日本共産党・畑野君枝氏など)。

さらに、国会において建設的な議論を阻んでいるのが「国対政治」であり、これも抜本的に見直していく必要がある(長くなってきたため、「国対政治」については別の記事で詳細を取り上げたい)。

その意味では、今後懸念されるのは、若い世代が求める国会議論や政治情報が提供されないことであり(結果的に日本政治に失望し参加しなくなる)、大きく意識を変えなければならないのは、従来型の国会運営や政治報道をしてきた上の世代ではないだろうか。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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