拉致問題の「お願い」で国益を損ねた安倍総理の「馬鹿な外交」
フーテン老人世直し録(365)
卯月某日
日米首脳会談から帰国した安倍総理は翌21日に東京・新宿御苑で総理主催の「桜を見る会」を開いたが、桜は既に散り尽くしてなく、出席者にとっては「新緑を見る会」に変わっていた。この見通しの悪さは現在の安倍総理の政権運営を象徴するようだ。安倍総理はやることなすことすべてが裏目に出るように駒を進めている。
フーテンは「森友疑惑」の発覚後に「安倍政権の打つ手はことごとく裏目に出た」というブログを書き、原因は政権の司令塔でシナリオライターの今井尚哉首席秘書官が自らも「疑惑」に深く関与してしまったため、第三者の目で状況を見通すことが出来ず、それが判断の狂いを招いているのではないかとの考えを示した。
その狂いが「森友・加計」だけでなくその他の問題にも波及し、しかもますますひどくなったというのが現在のフーテンの見方である。まず北朝鮮問題だが、フーテンは長年米国議会を取材した経験から、米国には南北朝鮮統一を主導する用意はあるが、その前に冷戦体制を利用して金満国家になった日本からカネを吸い上げる口実に北朝鮮を使うとみてきた。
そのため「北朝鮮危機」を継続させるのが米国の国益である。日本に危機を煽り米国製兵器を買わせて自衛隊を完全に米軍の管理下に置く。日本の安全保障が米国頼みになれば、カネを吸い上げる口実はいくらでも作れる。従って日本人に憲法9条2項を守らせることも米国の国益になる。
自民党政権は長らく米国製のイージス艦やミサイル防衛(MD)の購入を拒んできた。ところが北朝鮮のミサイルが日本上空を飛んだ途端、国民に北朝鮮に対する恐怖心が生まれ、日本は巨額の兵器を進んで買うようになった。北朝鮮は米国にとって都合が良い。
一方、日本が自力で「北朝鮮危機」を終わらせる方法もあった。2002年に小泉総理は金正日国防委員長との間で日朝平壌宣言を調印し、北朝鮮と平和条約を結び、経済援助を行うことで、拉致問題を解決しようとした。
ところが米国のブッシュ(子)政権が不快感を示し、国際社会が強硬姿勢に出たことで日朝平壌宣言は有名無実化する。ブッシュ大統領は、その年の一般教書演説で北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、しかも核保有していないイラクを先制攻撃してサダム・フセインを殺した。北朝鮮が本気で核開発を始めたのはそれからである。
金正日から権力を継承した金正恩は米本土に到達する核を持たない限り米国は対話に応じないと考え、目標を平昌オリンピックの開かれる今年に設定、ミサイルと核実験を昨年はそれまでの3倍のスピードで行い、年末に完成させてから一転して対話路線に舵を切った。
朝鮮半島の統一を主導することに反対でない米国は新たな枠組みの中での国益を追求する思考を併せ持つことになる。クリントン政権の計画では、東西ドイツの統一を下敷きに統一にかかる経済負担を日本に負わせる案がまとめられた。
今回の日米首脳会談で安倍総理は拉致問題の解決をトランプ大統領に「お願い」することを重要な柱とした。そしてそれがかなえられたと満足しているようだ。「そんな馬鹿な外交があるか」とフーテンは呆れる。自国の拉致被害者を取り戻すのは自国政府の責任である。何で他国に頼むの? 他国に頼んだら何が起きるの?
2002年の日朝交渉は米国が反対しなければ日本が主体的に北朝鮮に経済支援を行うことで拉致問題は解決するはずだった。しかし米国の強硬姿勢で実現は見送られた。ところが現在は米朝が急接近している。米朝が手を握ればトランプ大統領に頼まなくとも日本は自力で解決できるはずだ。
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